「迷惑料として貰っとくわ!!!」
目の前で照海さんが百火を舞台から崖へと投げるのがスローモーションに見えた。
「「百火!!?」くん!!?」
翠子さんと一緒に走り寄って落ちるギリギリまで身を乗り出して百火の行方を追おうとしたらアポロ店長に静止される。
「アポロ店長離して!!」
「百火くんが……百火くんがぁ!!」
「大丈夫だよ、二人とも。百火くんは無事さ。姐さんによる荒療治なんだよコレは」
荒療治って……どう見ても度を越してるじゃない!!崖から落とすなんて殺す気しかないわ!!
そう思って照海さんをキッと睨んだらその腕の中には先程落ちていった筈の百火が……どういうことなの!?
「ほら、大丈夫だったでしょ」
「『ほら』じゃないですよ!もう何が何だか……」
「嬢ちゃん達びっくりさせて堪忍な。坊拾ってきたんは……アレや、イリュージョンとかそういう奴やと思っといてーな」
「百火くん起きねぇっぺ……本当に大丈夫っぺか?」
「坊は今な、カード達と夢の中でお話してるんや。なんでモンスターが引けへんようになったんか、理由聞いてるんやな。どれだけ時間かかるかは分からん、でもウチに出来るんは坊をその夢の中まで送るとこまでや」
「その……百火を投げる必要はあったのですか?」
ふぅーっと息を吐いた照海さんがちょいちょいとアポロ店長を呼んだかと思うと、眠ったままの百火を店長に渡して自分はキセルを取り出している。
「持ってくんの忘れたな……アポロ、火ぃ」
「はいはい、どうぞ姐さん」
器用に片手で百火を抱えたまま、差し出されたキセルの先でアポロ店長が指を鳴らすと火が灯る……けど、ライター持ってないわよね店長。
「あんがとさん……ふぃー、一息つけたわ。ああ、せやせや坊投げる必要あるかどうかやったな。ウチのこの荒療治には本人が死んだって思う必要があるんや、こっから投げられたらそりゃあ死んだーって思うやろ?油断してる時にやるんが一番成功率高いからな、嬢ちゃん達に言う訳にもいかんかったしほんま堪忍やで」
そう言って煙を吐いている照海さんは境内の柱の方に視線を向けました。
「そこのお二人さんも坊の知り合いか?顔見せーや」
照海さんの言葉に柱の影から二人怪しい人が出て来る。
蛇の仮面を付けた私たちと同じくらいの背丈の子供と西洋の兜みたいな仮面を付けた男の人、どちらも駅で見た白い迷惑な人達と似たような服装をしている。
「顔見せぇ言うたやろ、礼儀を弁えん奴らやな」
「主以外に礼を尽くす必要は無いな」
「そこのリボン女!ボクサマが作ったデッキ返すデシー!!」
蛇仮面の子供がアタシを指差して喚いてくるけど覚えがあるような……もしかして?
「なんかいつの間にか持ってたあのデッキ……アンタが作ったやつなの!?」
「そーデシ!さっさと返すデシ!」
「あの時アタシおかしかったしアンタ達のせいだったのねアレ!だったら、返してやんない!迷惑料として貰っとくわ!!!」
「堂々と窃盗宣言デシか!ふてぶてしい野郎デシ!!!」
地団駄を踏んで怒る蛇仮面に対して兜仮面の方は無言のままだ。ジッと翠子ちゃんの方を見ているのが不気味……
「な、なんだっペ……?」
「……チッ、私達はそこの少年に用がある。大人しく渡してもらおう。手荒な真似は出来るだけしたくない」
視線を逸らして、アポロ店長が抱えてる百火を指さす兜仮面。堂々と誘拐発言するそっちの方がよっぽどふてぶてしいし悪よ!!
「そんな事させないんだから!!」
「そ、そうだっぺ!誘拐は悪い事だっぺ!」
「白掟様の命こそが正義だ、逆らう貴様らこそ悪だ!手荒な真似はしたくないというのは撤回しよう、悪は粛清する!!」
急にヒートアップしたかと思うと"ギアスディスク"を構える兜仮面。
それに対して私もディスクを起動させる。
「こうなった騎士サマはめんど……ゲフンゲフン、厄介デシからなー」
「貴様も戦え、私のサポートとして着いてきてるのだろう?」
「うへぇ……サポートってそっち方面じゃないデシが、まあしゃーないデシな」
蛇仮面の方もディスクを構えたんだけど……流石に二対一は無理よ!!
そう思っていたら照海さんが煙を吐いてから翠子さんを手招きしているのが見える。
「な、なんですっぺ?」
「五月雨の嬢ちゃん一人に任すのも大変やろうから米原の嬢ちゃんも気張ってきぃ」
「気張ってって……うえええええ!!?」
「翠子さんにあんな不審者の相手させるの!!?」
「誰が不審者デシか!!!」
照海さんが翠子さんにディスクを押しつけて、受け取ってしまった翠子さんは困ったようにディスクと照海さんを見比べている……いくら何でも無茶よ!
「いつまでもおんぶに抱っこはアカンからなぁ米原の嬢ちゃん。ずっと守られてるのも嫌やろ?死にはせんし気張ってきぃや」
「でも「分かったっぺ」翠子さん!?」
アタシが驚いて彼女の方を見ると、恐怖で青ざめているのに気丈に真っ直ぐ見つめ返してくる。
「大丈夫だっぺ水兎ちゃん……おっかねぇけんども、わたすもサモナーの端くれ!気張る時は気張るっぺ!」
気合い十分にディスクを構えている姿にアタシももう何も言えず、自分の頬を挟むように叩いて気合を入れた。
「よーし、だったらアタシ達二人でアイツらやっつけちゃおう!!」
「不審者やっつけるっぺ!!」
「話は決まったようだな。別々にやるのも面倒だ、タッグファイトで行くぞ!」
タッグファイト……交互にサモナーが交代していって行う"ギアスファイト"の亜種ルールの一つ。
場とターンカウンター、墓地が共通だけど、デッキはもちろん"ギアスモンスター"はそれぞれのサモナーが各自の物を一体ずつ出せるというのがポイント。ライフも初期値が20と倍になっている。
全く違う色同士を組み合わせる事が可能だからこそ生まれるコンボがこのルールの魅力……アタシの青デッキと翠子さんの緑デッキは相性は悪くは無い、と思う。この前、ルールは教えてあるからそこの問題もバッチリだ。
「上等よ!翠子さん、先鋒頼むわよ!」
「任されたっぺ!」
「まね……蛇仮面!先鋒は私が行く!」
「名前どう呼ぶか迷って結局見た目デシか!?まあいいデシ、好きにしたらいいデシ」
「「「「"ギアスファイト"レディセット!」だっぺ!」デシ!」」
兜仮面【黒き刃の聖騎士】
蛇仮面【サポートデッキver.J】
VS
米原 翠子【豊穣の混沌坩堝】
五月雨 水兎【妖精達の冬嵐】
「「「「スタートアップ!!」だっぺ!」デシ!」」
アタシの"ギアスモンスター"は【ティターニア】、翠子さんは【サンダユウ】
対する向こうの"ギアスモンスター"は全く同じ同じモンスター──黒い西洋の甲冑を着た王冠を被った騎士で、自分の身の丈と同じくらいの大剣を目の前の地面に突き刺してその上に手を置いている。
「先行はこちらだ、ドロー!」
兜仮面&蛇仮面 第一ターン
ライフ:20
兜仮面手札:6
蛇仮面手札:5ターンカウンター:1
「【黒曜騎士ガレスⅩI】をサモン」
【黒曜騎士ガレスⅩI】
黄・黒 コスト:1 騎士
A:3 B:3
このモンスターは自分の場に黒曜騎士モンスターがいるならば場に出せない。
このモンスターが破棄された時、手札またはデッキからこのモンスターよりコストが2大きい黒曜騎士モンスター一体を場に出す。
このモンスターはデッキに一枚しか入れられない。
場に出てくるのは少女のように見える小柄な金髪の騎士、右腕全体が黒い結晶に覆われていてその腕で大きな槍を構えている。
「コスト1でこんなステータスのモンスター……!?」
「一体しか場に存在出来ないが、騎士足るもの一対一の戦いこそが誉れだからな。アーティファクト【騎士は消して引かず】を発動してターン終了だ」
【騎士は消して引かず】
黄・黒 コスト:1 アーティファクト・騎士
自分の場の騎士モンスターが一体だけならば、そのモンスターはカード効果でのダメージを受けない。
一ターンに一度、自分の場の騎士モンスターはカード効果で場を離れなくても良い。
このアーティファクトが存在する限り、場を離れた騎士モンスターは墓地へ置かれる。
発動されたのはより強固な硬さを騎士に与える誓いが記されたカード。放たれた光を浴びて、【ガレスⅩI】の瞳に力が宿る。
「わたすのターン!ドローせずにカウンターブーストだっぺ!」
翠子&水兎 第一ターン
ライフ:20
翠子手札:5
水兎手札:5 ターンカウンター:2
「【豊穣の巫女】をサモンして【豊穣の社】をサーチ!そのまま発動するっぺな!」
翠子さんの表情は苦しそうで、多分手札が悪かったんだと思う。使ったのは初動としては悪くは無いけど……
「うー……うー……ターン終了だっぺ」
「キヒヒ、ボクサマのターン到来デシよー!ドローせずにカウンターブーストデシ!」
兜仮面&蛇仮面 第二ターン
ライフ:20
兜仮面手札:4
蛇仮面手札:5ターンカウンター:3
「スペルカード【黄の連携】を発動デシ!」
【黄の連携】
黄 コスト:1 スペル
自分の場のコスト1の黄のモンスター一体を選択して発動する。
そのモンスターと同じステータスの黄色トークン一体を場に出す。
このトークンは相手プレイヤーを攻撃出来ず、ターン終了時に破棄される。
全身真っ黄色の【ガレスⅩI】がオリジナルの子の背後から出てきて、全く同じ構えを取る。それが不思議なのか【ガレスⅩI】は腕を伸ばしたり足を動かし、ソレと全く同じ動きを真っ黄色の自分もしてくるので面白そうにちょこちょこと動いている。
……正直、可愛いけどかなりマズイかも。
「バトルデシ!黄トークンで【豊穣の巫女】を攻撃デシ!」
「【巫女】が破壊された瞬間にスペルカード【豊穣の糧】を発動するっぺ!」
【豊穣の糧】
緑 コスト:1 スペル・繁栄
自分の場の豊穣モンスターが破棄された時に発動出来る。
そのモンスターのコストの分だけ自分のターンカウンターを増やす。
この効果を使用した次の自分のターン、ターンカウンターを増やせない。
上手い!ここで言う自分のターンは翠子さん自身のターンだからアタシに影響は無い!
コストを一ターンで4も増やしたなんてやるじゃない!
「翠子さん、ナイス!」
「えへへ……水兎ちゃんにいっぱいターンカウンタープレゼントだっぺな」
「まだ攻撃終わってないの忘れないで欲しいデシよ!【ガレスⅩI】でダイレクトアタックデシ!」
翠子&水兎 ライフ:20→17
手痛いダメージだけど、20もライフが有るからへっちゃらよ!
「ターン終了デシ、このタイミングで黄トークンは破棄されるデシ」
「じゃあアタシのターンね!ドローしないでカウンターブーストよ!」
翠子&水兎 第二ターン
ライフ:17
翠子手札:4
水兎手札:5 ターンカウンター:6
先ずはその厄介な騎士から片付ける!
「アーティファクト【氷雪妖精の遊び場】を発動!更に【氷雪の悪戯妖精】をサモンよ!」
【氷雪の悪戯妖精】
青 コスト:2 妖精・雪
A:1 B:2
一ターンに一度、このモンスターが場に出た時に発動出来る。相手のモンスター一体を手札に戻す。
ロバの耳が生えた黒い影が現れたかと思うとソレは【ガレスⅩI】そっくりに化けてしまった、その姿に驚いて帰ろうとした【ガレスⅩI】はふと自分そっくりのソレの耳がロバのままという事に気づいて戻るのをやめてしまう。
「【悪戯妖精】の効果で【ガレスⅩI】を手札へ!」
「【騎士は消して引かず】の効果で場を離れるのを一回無効にするデシ!」
「知ってる、だからこれを使うのよ!スペルカード【青の流れ】!!」
【青の流れ】
青 コスト:1 スペル
自分の場の青のモンスター一体を手札に戻して発動する。
手札に戻したモンスター以下のコストの相手モンスター一体を手札に戻す。
青の汎用スペルにより、発生した水流が【悪戯妖精】と【ガレスⅩI】を飲み込んで手札に戻す……アーティファクトのデメリット効果でアッチのは墓地送りだけどね!
「ふふん!」
「【ガレスⅩI】が墓地に破棄されたのでデッキからコスト3の【黒曜騎士トリスタンIX】を出すデシ」
【黒曜騎士トリスタンIX】
黄・黒 コスト:3 騎士
A:2 B:3
このモンスターは自分の場に黒曜騎士モンスターがいるならば場に出せない。
このモンスターは相手モンスターからダメージを受けない。
このモンスターが破棄された時、手札またはデッキからこのモンスターよりコストが1大きいまたは2小さい黒曜騎士モンスター一体を場に出す。
このモンスターはデッキに一枚しか入れられない。
【ガレスⅩI】と入れ替わって出てきたのは巨大な弓を携えた優男風な騎士、その右腕にはやはり黒い結晶がこびりついている。
黄のモンスターらしく後続を絶え間なく出してきているけど、一体ずつなら問題ないわね!
「【氷雪の妖精】をサモン!効果で1ドローして、更に【凍土の妖精】をサモン!」
【凍土の妖精】
青 コスト:1 妖精・氷
A:1 B:1
このモンスターがサモンされた時に発動出来る。相手の場のモンスター一体を選択し、そのモンスターは次の相手のターン終了時まで、攻撃と防衛を行う事が出来ない。
氷の中から現れるのは何枚かの用紙を手に持ったインテリ風なメガネを掛けた【氷雪の妖精】によく似た妖精。
彼女が手に持った用紙を【トリスタンIX】の顔面に突き付けると彼は困ったような顔をしてから項垂れてしまったけど……何が書いてあったのかしら?まあいいわ!これであの蛇仮面のターンが終わるまで【トリスタンIX】は止まるわ。
「スペルカード【遊びの時間はおしまい!】発動!」
【遊びの時間はおしまい!】
青 コスト:4 スペル・妖精
自分の場の青の妖精モンスターを任意の枚数選択して発動する。
選択したモンスターを手札に戻して、その枚数分カードをドローする。
この効果の終了後、自分は妖精モンスターを場に出せない。
デメリットは重たいけども次の私のターンになれば大きなリターンとなるカード。
手札に戻した二体の妖精達のお陰で私はカードを2枚引く……よし!
「アーティファクト【妖精の恵み】を発動してターン終了よ」
【妖精の恵み】
青 コスト:3 アーティファクト・妖精
一ターンに一度、自分の場の妖精カードを破棄して発動出来る。
自分はカードを二枚ドローする。
これは翠子さんへのささやかなお礼のカード、アーティファクト自身を破棄して発動出来るからかなりお得な一枚よ。
「翠子さん、使って良いからね!」
「水兎ちゃん、ありがとうだっぺ!」
今の所は良いコンビネーションだし、このままアイツらやっつけてやるんだから!!
テーマ紹介
【豊穣】
その名の通りに豊穣……各種カウンターを乗せるデッキ。
エースカードの【豊穣の古狸サンダユウ】で擬似的にターンカウンターを増やして【豊穣の祭神オオモリサマ】による全体破壊からの高コスト連打で殴る豪快なデッキ




