追放された最弱職業『掃除夫』、実は世界最強の浄化魔法使いでした
## 第一章 転生と絶望
俺の名前は田中太郎。平凡な高校生だった。過去形なのは、トラックに轢かれて死んだからだ。
気がつくと、俺は見知らぬ神殿の中にいた。白いローブを着た神官が俺を見下ろしている。
「おお、勇者よ!異世界ファルディアへようこそ!」
どうやら異世界転生らしい。最近のトレンドだな、と妙に冷静に考えていた。
「君には魔王を倒す使命が……」
神官が手にした水晶球が光る。俺のステータスが表示されるのだろう。
しかし、神官の顔が曇った。
「え……掃除夫?」
「はい?」
「君の職業は……『掃除夫』だ」
周囲にいた他の転生者たちがざわめいた。彼らのステータスを見ると、「剣聖」「魔導師」「神官」「盗賊王」など、いかにも強そうな職業が並んでいる。
「掃除夫って何ですか?」
「その……清掃を行う職業だ。戦闘には向かない」
転生者の一人、元クラスメイトの佐藤が嘲笑った。
「ぷっ、太郎らしいじゃん。現実でも地味だったもんな」
他の転生者たちも笑い始める。俺は顔が熱くなった。
「でも、何か特別な能力があるはずです」
神官は申し訳なさそうに首を振った。
「『清掃』と『浄化魔法Lv1』のみだ。浄化魔法は汚れを落とす程度の効果しかない」
絶望的だった。
## 第二章 パーティー追放
それから俺は他の転生者たちとパーティーを組んで冒険を始めた。しかし、現実は厳しかった。
「太郎、また足手まといになってる」
リーダーの佐藤が苛立たしげに言った。俺たちは森でゴブリンと戦っていたが、俺にできることは何もなかった。
「浄化魔法!」
俺が放った魔法は、ゴブリンの武器についた泥を少し落としただけだった。ゴブリンは余計に怒って襲いかかってくる。
「使えねえ!」
魔導師の鈴木が火球でゴブリンを倒した。俺はただ見ているだけだった。
戦闘後、佐藤が冷たく告げた。
「太郎、お前パーティーから抜けろ」
「え?」
「足手まといなんだよ。お前がいると俺たちが危険だ」
他のメンバーも頷いている。誰も俺を庇ってくれない。
「でも……」
「決定だ。明日の朝には荷物をまとめて出て行け」
その夜、俺は宿屋の隅で一人震えていた。この世界に来て一ヶ月。誰も俺を必要としていない。
翌朝、俺は街を出た。行く当てもなく、森の奥へと向かった。
## 第三章 真実の発見
森を彷徨って三日目。俺は小さな村を見つけた。しかし、その村は異様だった。
建物は黒ずみ、植物は枯れ果てている。村人たちは絶望に暮れ、目に光がない。
「旅人さん……ここから逃げて……」
老人が俺に警告した。
「この村は『汚染』に侵されているんだ。古の魔王ディスペアの復活とともに、世界中に絶望の汚染が広がっている」
汚染。それは物理的な汚れではなく、精神と魂を蝕む絶望の力だった。
「誰も浄化できないのですか?」
「無理だ。聖職者たちも試したが、汚染は聖なる力すら飲み込んでしまう」
俺は村の中央にある井戸を見つめた。そこから黒いオーラが立ち上っている。汚染の源だ。
なぜか分からないが、俺の体が勝手に動いていた。
「浄化魔法!」
俺が放った魔法は、これまでとは違っていた。手から純白の光が溢れ、井戸を包み込む。
黒いオーラが消えていく。井戸の水が透明になる。村全体を覆っていた絶望の霧が晴れ、村人たちの目に光が戻った。
「嘘だろ……」
俺自身が一番驚いていた。そして気づく。レベルアップの音が頭の中で響いていた。
【浄化魔法 Lv1 → Lv15】
【新スキル習得:絶望耐性】
【新スキル習得:汚染探知】
【新スキル習得:魂浄化】
「あ、あなたは……救世主様!」
村人たちが俺にひれ伏した。
## 第四章 力の覚醒
その後、俺は各地を回って汚染を浄化し続けた。戦うたびに強くなり、新しい能力を習得していく。
【浄化魔法 Lv50】
【新スキル習得:浄化結界】
【新スキル習得:光の剣】
【新スキル習得:魂の癒し】
一ヶ月後、俺はもはや「掃除夫」ではなかった。各地で「白の救世主」と呼ばれるようになっていた。
そんな時、緊急事態が発生した。魔王ディスペアが本格的に復活し、王都に攻めてきたのだ。
俺は急いで王都に向かった。
## 第五章 再会と復讐
王都は地獄と化していた。空は黒雲に覆われ、街には汚染された魔物が溢れている。
城の前では、見覚えのある人影があった。俺の元パーティーメンバーたちだ。
しかし、彼らは絶望に取り憑かれ、目は虚ろだった。
「た、太郎?」
佐藤が俺を見て驚愕した。俺の姿は一ヶ月前とは別人のようになっていた。純白の外套を纏い、背中には光の翼が生えている。
「久しぶりだな、佐藤」
俺の声には威厳があった。
「お前……まさか、白の救世主って……」
「そうだ。お前たちに追放された『掃除夫』の太郎だ」
鈴木が震え声で言った。
「嘘だ……あの弱虫の太郎が……」
「弱虫?」俺は冷笑した。「確かにお前たちと一緒にいた時は弱かった。だが、一人になって初めて気づいたんだ。俺の力は他人を守るためにあるんだと」
その時、城から巨大な咆哮が響いた。魔王ディスペアの登場だ。
## 第六章 魔王との決戦
魔王ディスペアは巨大な影の化身だった。その存在だけで周囲に絶望を撒き散らす。
「フハハハ!また人間どもが来たか。だが無駄だ。この世界は絶望に染まる運命なのだ」
元パーティーメンバーたちは魔王のオーラに呑まれ、その場に倒れ込んだ。しかし、俺だけは立っていた。
「絶望?」俺は笑った。「俺はもう絶望なんかしない。お前たちに追放されて、一人になって、初めて本当の希望を見つけたからだ」
「何だと?」
「俺の力は誰かを守るためにある。それに気づかせてくれたお前たちには感謝してるよ」
俺は手を天に掲げた。
「真・浄化魔法『希望の光』!」
俺から放たれた光は、これまでとは桁違いの規模だった。王都全体を包み込み、全ての汚染を浄化していく。
「ぐあああああ!」
魔王が苦悶の叫びを上げた。
「ば、馬鹿な!浄化魔法が……これほどの威力を……」
「教えてやろう。俺の職業は『掃除夫』だ。そして掃除夫の仕事は、世界を綺麗にすることだ」
俺は光の剣を形成し、魔王に向かって突進した。
「浄化斬!」
光の剣が魔王の中核を貫く。魔王の体が光に包まれ、浄化されていく。
「こ、この世界から……絶望が……消えていく……」
魔王は最後にそう呟いて消滅した。
## 第七章 真の英雄
魔王が倒れると、王都の空に青空が戻った。汚染は完全に消え去り、人々の顔に笑顔が戻る。
「救世主様!」
「白の英雄様!」
人々が俺を称賛した。しかし、俺が一番気になったのは、倒れている元パーティーメンバーたちだった。
俺は彼らに浄化魔法をかけて汚染を取り除いた。
「太郎……」佐藤が申し訳なさそうに言った。「俺たち、お前を追放して……」
「もういい」俺は彼らを見下ろした。「お前たちが俺を追放してくれたおかげで、俺は本当の力に目覚めることができた」
「でも……」
「ただし」俺の声が厳しくなった。「二度と誰かを見た目や初期の能力だけで判断するな。誰にでも隠された可能性があることを忘れるな」
彼らは深く頭を下げた。
「はい……申し訳ありませんでした」
## エピローグ 新たな旅立ち
魔王を倒した後、俺は王から勇者の称号を授けられた。しかし、俺は王都に留まることを断った。
「まだやることがあります」
世界にはまだ汚染の残滓が残っているかもしれない。そして、俺のような「弱い」とされた人たちが絶望しているかもしれない。
俺は新しい仲間たちと共に旅に出た。今度は、誰も見捨てない。誰の可能性も否定しない。
「掃除夫」太郎の新たな冒険が始まった。世界を浄化し、全ての人に希望を与えるために。
俺は振り返った。王都の人々が手を振っている。元パーティーメンバーたちも、今度は尊敬の眼差しで俺を見送っていた。
「ありがとう」俺は小さく呟いた。「お前たちが俺を追放してくれたおかげで、俺は本当の自分を見つけることができた」
そして俺は前を向いた。新しい冒険が待っている。
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【完】