02.今年のシナリオ(三河蘭)
前回は……
甘川中学校では、学習発表会での準備が順調に進んでいた。しかし、一つだけ例外が。演劇部だ。新たな志望者が減り、部員の数が少なくなったため、毎年の恒例イベント、『甘川劇場』の開催が困難だった。
でも、甘川劇場をなくすわけには行かない!演劇部、そして全校生徒が動き出した―――
「ごめんなさい。こんな時間に。」
目の前にいる細身のスラッとした男の子が、私に向かって手を合わせる。
「あ、うん。それはいいんだけど、今日は何で呼び出したの?吉野……つかささん、だっけ?演劇部の部長なんだし、今は『|甘川劇場』の準備で忙しいんじゃない?それなのに私を訪ねてくるなんて、よく分かんないね。」
私は堂々と腕を組む。
「あ、はい、えーと、そうなんですけど、今日はちょっと三河さんにお願いしたいことがあって……」
「ふーん。まあ、いいけど。」
私は演劇部部長、吉野さんの澄んだ瞳を覗き込みながら、言葉を発する。
「えーと、確か三河さんは文芸部でしたよね?去年のコンクールでも最優秀賞を取っていたとか。」
「ああ、そうだけど。」
そう、吉野さんの言う通り、私はこの前『全国小学生小説コンクール』で最優秀賞を取ったのだ!あの時の快感と言ったらたまらない!
「それで、そんな三河さんにお願いしたいことがあるんです。」
「うん、で?なに?」
私は少しうずうずしながら、吉野さんを見つめる。
「はい、実は今年の学習発表会でも『甘川演劇』をやることに決定したんですが、ちょっと人手が足りてなくて……それで、今年のシナリオ、お話を三河さんにお任せしたいなと思ったんですけど、大丈夫ですか?」
「えっ、シナリオを?私が?」
私は目を見開いた。
なんてったって、学習発表会でのこの「甘川劇場」はこの町の顔の代わりになるようなものでもある。
地域の人にも長年愛されている恒例イベントなのだ。
「いいけど……いや、いいの?そんなこと言われたら、張り切って引き受けちゃうな!」
「本当ですか?ありがとうございます!では、これから演劇部の練習もあるので、シナリオは一週間以内の完成を目安にお願いします!」
そう言って吉野さんは深く頭を下げた。
「分かった、じゃあ、出来たら持ってくね!」
「はい、お願いします!」
そう言って、吉野さんは教室を出て行った。
「ふうっ……また明日から、忙しくなりそうだな。」
私はスクールバッグを持って、静かに教室を出た。
次回の「はばたけ!ミラクルズ!」第三話の投稿は、明日(2025年7月8日)の21時に配信する予定です!
ぜひご覧ください!