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最初のループ、第4章 : 廃墟で結ばれた絆

地平線の彼方まで、ひび割れた高速道路が広がり、しぶとく生い茂る雑草がその隙間を埋めていた。

遠くには骸骨のようにそびえ立つ摩天楼が、血のように赤く染まる空を鋭い牙のように貫いていた。

かつて生命に満ち溢れていた川は、今やよどんだ池と化し、その濁った水面が、沈みゆく太陽の圧倒的な輝きにかすかに反射していた。


世界は見捨てられた。忘れ去られた。


それでも、俺たちは歩みを止めなかった。


言葉は少なくとも、俺とイズミはまるで一つの存在のように動いた。

痛みの中で、喪失の中で、そして生きるための切実な渇望の中で生まれた、脆くも確かな絆に導かれるように。


常に危険がつきまとっていたが、それでも、ほんのわずかな、刹那の瞬間だけは――まるで普通の日常のように感じることさえあった。


イズミが突然立ち止まり、光る瞳で遠くを見つめ、「止まって」と囁くことにも、もう慣れていた。


俺は必ず、その言葉に従った。


彼女の視線の先を見れば、いつもそこにいるのだ。

不自然に揺らめく影たちが。

暗闇の中、赤く燃え盛るような瞳で、まるで獲物を探すかのように地表を這う怪物たちが。

音はない。ただそこにいるだけなのに、空気が異様に重くなる。

まるで、そこにあるのは生命ではなく、絶望そのもののように。


ある夕暮れ、特に危険な群れをかいくぐった後、俺はふと、イズミをじっと観察している自分に気づいた。

彼女の動き、先を読むようなその仕草――まるで未来が見えているかのようだった。


ついに沈黙を破ったのは俺だった。


「どうして、いつも分かるんだ?」


イズミは表情を変えずに俺を見た。

そして、口元にわずかに笑みを浮かべながら答えた。


「直感、ってところかしら」


彼女は朽ち果てた高架のコンクリートにもたれ、淡々と続けた。


「もしくは、単に私の方が君よりも長くここにいるだけ」


俺は苦笑した。だが、そこに笑いの要素はほとんどなかった。


「じゃあ、俺は新人ってことか?」


イズミは首を振った。


「新人じゃない。ただ……まだ壊れていないだけ」


彼女の言葉は、妙に重かった。

その意味を尋ねたかったが、彼女の瞳に浮かぶ何かが、それを許さなかった。


触れてはいけない傷があるように。


イズミの勘だけではない。

俺自身も、何者か分からなくても、本能的に動けるようになっていた。


――怪物が襲ってきた時のように。


廃れたスーパーの奥から、不気味にしなる細長い手足が飛び出し、鋭い牙が俺たちを狙った。

速かった。異常なほどに。


だが、俺の身体は思考より先に動いた。


正確無比な攻撃。

金属の拳が怪物の肉を叩き、鈍い音が虚ろな店内に響く。

最後の一撃で、怪物は崩れ落ちた。

黒い体液が床に広がり、不快な匂いが漂う。


振り返ると、イズミはじっと俺を見ていた。

その瞳の奥で、何かが変わった気がした。


後に、物資を漁っている最中、彼女が口を開いた。


「……やらなくてもよかったのに」


その声は冷静だったが、どこかに別の感情が隠れていた。


俺は彼女を見ず、ただ手を動かし続けた。


「いや、必要だった」


しばらくの沈黙。


そして、静かに彼女が尋ねた。


「……どうして?」


俺は息を吐き、ようやく彼女を見た。


「俺たちは、共に生きてるからだ」


イズミはしばらく俺を見つめていた。

そして、そっと視線を逸らした。


その夜、俺たちは、朽ち果てた大樹の下で休んだ。

絡み合う枝は天に向かって伸び、まるで何かを求める手のようだった。

薄れゆく星の光が、世界の暗闇の中でかすかに瞬いていた。


沈黙の中で、機械の身体が微かに唸る音だけが響いていた。


やがて、イズミが囁いた。


「……私たちが最後なのかな?」


その声は、かすかに震えていた。


俺はしばらく言葉を選び、割れた地面を見つめながら答えた。


「そうじゃないと……いいんだけどな」


自分の声に、わずかに迷いが滲んでいるのが分かった。


「でも、たとえ俺たちだけだったとしても――」


息を飲み、強く拳を握った。


「俺は進み続ける。知りたいんだ。何があったのか、なぜ俺たちがこうなったのか……」


イズミは俺を見つめた。

光る瞳に、星の光が反射して揺らいでいた。


「君は……違うのね、ダイチ」


「どういう意味だ?」


彼女は目を細め、静かに呟いた。


「君には、何かがある……ただの生存者じゃない、もっと大きなものの一部みたいに」


俺は答えず、胸の空洞をそっと指でなぞった。


「そんな風には感じない」


イズミは少し考えた後、ゆっくりと近づいた。


そして、そっと俺の肩に手を置いた。


その手は冷たかったが、確かな感触があった。


「……壊れたものほど、より強く生まれ変わることができるのよ」


その言葉は、不思議と胸の奥に染み込んだ。


俺は彼女を見つめた。


そして、かすかに微笑みながら答えた。


「……そうかもしれないな」


イズミはわずかに微笑んだ。


「休みなさい」


俺は目を閉じた。


世界はまだ壊れていた。まだ敵意に満ちていた。


でも――


今はもう、独りじゃなかった。

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