サードループ、第十五章 : 輝く遺物
異星の船の残骸は、まるで墓のようだった。
冷たく、生命のない虚無が、あらゆる音を飲み込んでいく。自分の足音さえも場違いに思えた――やけに大きく、侵入者のように響く。まるで、この船そのものが私の存在を拒んでいるかのように。
懐中電灯を強く握りしめ、かすかな光を鋭く尖った金属片や、絡み合った配線の影へと向ける。それらは、まるで朽ち果てた森のツタのように垂れ下がっていた。
空気は淀み、重く、何か得体の知れないものが漂っている。背筋をぞくりとした寒気が走るたびに、私は無理やり前へ進んだ。
何を探しているのか、自分でもわからなかった。
手がかりか、失われた何かの欠片か――この混乱に意味を見出せるものなら、何でもよかった。
そして、その時――それが見えた。
瓦礫の山の下、かすかな光が揺らめいていた。
息をのむ。心臓が激しく鼓動する。
膝をつき、慎重にねじれた破片をかき分ける。指先に冷たい空気が触れ、やがて滑らかで硬い感触が伝わってきた。
それをそっと引き抜く。
掌に収まるほどの、小さな結晶のような遺物。
表面には異星の紋様が刻まれ、それらはまるで生きているかのように揺れ、波打っていた。
内部から淡い光が脈打ち、指先にじんわりと温もりが広がる。
この感覚は――
あまりにも、馴染み深かった。
喉の奥に硬い塊がこみ上げる。
押し寄せる記憶の波――ダイチの胸に埋め込まれた鍵。彼を飲み込んだ光。
私たちを救うため、彼が自らを犠牲にした、あの瞬間。
この遺物は、あの時と同じ力を宿していた。
同じ、不気味な輝きを放っていた。
だが、何かが違う。
私は眉をひそめ、遺物をじっくりと観察する。
刻まれた紋様は、以前見たものとは少し異なっていた。暗く、複雑で、形は鋭く不規則――まるで、未完成なものか、あるいは… 汚染 されているかのようだった。
背筋が寒くなる。
私はそっと振り返る。
ヒカリは船の端末に向かい、鋭い眼差しで無数の異星文字を解析していた。
アヤセは入口近くに立ち、警戒するように武器に手を添えている。そしてダイチは、船の残骸の向こうで、破損したコンソールを無言で見つめていた。
迷う。
彼らに伝えるべきか?
見つけたことを報告すべきか?
けれど、心の奥底で何かが警鐘を鳴らしていた。
「まだ…待て。」
理由はわからない。
だが、今はその時ではない気がした。
私はそっと遺物をポケットへ滑り込ませる。
光は布の下に隠れ、ほんのりとした温もりだけが肌に残る。
まるで、まだ明かしてはならない 秘密 のように。
"イズミ、状況は?"
ヒカリが端末から目を離さずに問いかける。
"特に収穫なし。"
私は平静を装いながら、手袋の埃を払う。
ヒカリはほとんど気にも留めない。
それでいい。私は何もなかったかのように振る舞い、他の仲間と合流した。
――まるで、何も起こらなかったかのように。
施設へ戻ると、何かが変わったように感じた。
重苦しい空気。まるで、この壁そのものが、私たちの発見の 重み を抱えているかのようだった。
制御室には緊張が満ちていた。
スクリーンには異星の文字やエネルギー波形が映し出され、静かな機械音が響く。だが、それらは私の不安を和らげるどころか、むしろ掻き立てた。
"これは単なる偶然じゃない。"
ヒカリがモニターの前を行ったり来たりしながら呟く。
鋭い視線が画面をすばやくなぞり、彼女の表情には苛立ちが滲んでいた。
"意図的だ。何者かが、これを仕組んでいる。"
そして、彼女は静かに息を吐く。
"最悪なのは… 私たちにはもう、時間がないってことよ。"
だが、私は彼女の言葉をほとんど聞いていなかった。
ポケットの中の遺物の 温もり に、意識を奪われていた。
布越しにも伝わる、その微かな脈動。
まるで、何かを 伝えよう としているかのように。
私は、こぶしを握りしめた。
"もしこの遺物が異星人によって作られたのなら… 一体どうやってプロジェクト・リバースの手に渡ったのか?"
思考が絡まり、深みに沈む。
"集中しろ。"
アヤセの冷静な声が、沈みかけた意識を引き戻した。
"焦っても仕方ない。ヒカリは引き続きログを解析して。イズミは船のコアのエネルギーを分析。ダイチは、墜落の時系列を整理して。"
ダイチは短く頷く。
"了解。"
私は、心に渦巻く違和感を必死に押し込める。
"わかった。" だが、その声には、わずかに 迷い が滲んでいた。
アヤセの目が、鋭く私を射抜く。
"何か問題でも?"
私はわずかに笑ってみせる。
"…ただの疲れ。"
彼女は一瞬、私をじっと見つめた後、頷いた。
"休める時に休め。今は、全員が万全でいることが重要だ。"
私は頷いた。
だが、わかっていた。
今夜、私は眠れない。
夜の制御室は、静寂に包まれていた。
仲間たちはすでに寝ている。私はただ、一人、スクリーンの前に座っていた。
目の前に置かれた 遺物。
私は、そっと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、淡い光が脈打つように揺れ、 暖かさ が広がった。
…まるで、生きているようだ。
私は、かすかに息をのむ。
"…お前は何者だ?"
その瞬間、どこからか微かな囁きが聞こえた。
かすかな声。
遠く、風に乗るように――
私は息をのむ。心臓が跳ね上がる。
私は手を引っ込めた。心臓が激しく打ち鳴らされる。
違う、違う。ただの想像だ。疲れているだけ、それだけのはず――。
首を振り、立ち上がる。一度、落ち着こう……少しだけ休憩を。
制御室を出ると、背後でドアが静かに閉まった。
ほんの数分のことだった。
だが、戻ってきたとき――
あのアーティファクトが消えていた。
私は凍りついた。
手にしていた水のカップが、指の間から滑り落ちそうになる。
視線を走らせた。机の上、床、薄暗い部屋の隅々まで――。
さっきまで、確かにここにあったのに。
胸の奥から焦燥が押し寄せる。「嘘だろ……?」
息を詰めながら、震える手でカップを机に置く。
机の下、モニターの裏、ケーブルの近く……どこを探しても――
消えていた。
そんなはずはない。
息が乱れ、思考が混乱する。
制御室は密閉されていた。
仲間は皆、眠っている。
この時間、起きている者などいないはずなのに――
私はごくりと息を呑んだ。
あの囁き。あのぬくもり。まるで心臓の鼓動のような脈動。
……まさか、自ら動いたのか?
背筋を這うような冷たい恐怖が、じわりと心を締め付ける。
机の縁を掴みながら、私はかすれた声で囁いた。
「……お前は、何を伝えようとしているんだ?」




