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セカンドループ、第十一章:再び書き換えられた世界

翌日、私たちは再び廃棄された研究所へと戻った。


そこは何も変わっていなかった——崩れた壁、砕け散ったガラス、そして錆びついた鉄の匂いが漂っていた。室内の空気は厚く埃に覆われ、まるで時間そのものがここで止まり、かつての残響だけが残されているかのようだった。


私はイズミの後ろを歩きながら、足元の瓦礫を踏みしめるたびに微かな音を立てた。彼女は迷いのない足取りで進み、まるで行くべき場所をすでに知っているかのようだった。その間、私は崩れた施設の残骸を見渡しながら、ここに眠る歴史を思い描いていた。


処理室にたどり着くと、イズミは古びたコンソールの前で立ち止まった。画面はひび割れ、ボタンは長い時の流れと放置によって色あせていた。それでも、微かに脈打つような光を放ち、まるで消えかけた心臓の鼓動のようだった。


「キーの回収は私がやるわ。」

彼女はそう言いながらコンソールに向き直る。その声は落ち着いていたが、どこかに説明できない感情が滲んでいた。

「ここで待ってて。」


私は頷き、錆びついた手すりにもたれかかりながら、彼女の作業を見守った。コンソールの淡い光が彼女の瞳に映り込み、張り詰めた表情を際立たせる。集中しているのは分かったが、その内側に重くのしかかる何かがあるのも感じ取れた。


数分が経つにつれ、私の注意は別のものへと向かった。ふと、研究所の奥でほのかに光るものが見えた。かすかな輝き——注意していなければ見逃すほどの微かな光。しかし、なぜか強く心を引きつけた。


気づけば、私はすでにその光へ向かって歩き出していた。


そして、それを見つけた。


瓦礫の中にぽつんと佇む一つのカプセル。


ガラスには無数の傷が刻まれ、長い時を経て曇っていた。だが、その内側に眠る存在は、はっきりと見えた。


——アンドロイド。


息をのんだ。


その顔、その身体——


それは、まるで私自身だった。


心臓が強く脈打ち、冷たい汗が背筋を伝う。これはただ似ているだけじゃない。完全に同じだった。


ガラス越しに映るのは、まるで鏡に映った自分の姿。けれど、その瞳には何の光も宿っていなかった。


無意識のうちに手が伸び、冷たい表面にそっと触れた。


「……なぜ?」


なぜ、このアンドロイドは私と同じ姿をしている?


頭の中に無数の疑問が渦巻く。


「ダイチ!」


イズミの鋭い声が室内に響いた。


はっとして振り返ると、彼女はコンソールの前で手を振っていた。

「プロセスが終わったわ!」


迷った。だが、彼女の呼びかけが優先された。


最後にカプセルの中の存在をもう一度見つめ、私は足を引きずるように彼女の元へ戻った。


イズミは小さな光る物体を手のひらに載せていた。


それは淡く脈打つクリスタルの鍵だった。触れていないのに、ただ見るだけでその力を感じるほどだった。


「これがキーよ。」

彼女はそう囁きながら私に差し出す。

「……準備ができたら、胸に入れて。」


研究所全体がかすかに唸りを上げ、何かを予感させるような不穏な空気に包まれた。壊れかけた配線からは火花が散り、天井の照明は不規則に明滅している。私たち二人の上に、静かだが確実な運命が重くのしかかっていた。


私は鍵を受け取り、その温もりを掌に感じながら、一歩前へ踏み出した。


金属製のプラットフォームに足を乗せた瞬間、頭上のライトが強く輝き、全身を光が包んだ。私の影が床に長く伸び、ひび割れた過去と一つになっていく。


イズミはその場に立ち尽くし、拳を強く握りしめていた。


「ダイチ……」


私は彼女を見つめた。


彼女の金属の腕が震えている。その瞳には、語りきれない想いが溢れていた。


「お願い……」


彼女は一歩踏み出し、震える声で言った。


「やめて……まだ、他に方法があるかもしれない。もう少し時間を——」


私は静かに息を吐いた。


「イズミ……分かってるだろう?」


その言葉に、彼女の目が揺れる。


「選択肢は、もうない。」


「そんなはずない!」

彼女は叫び、さらに近づく。

「もう一度探そう!ここまで来たんだもの、きっと他の方法が——!」


私は微かに笑った。


「どれだけ時間をかければいい?もう一週間?一年?」

首を横に振る。

「その間にも、失われていくものがある。データを見たはずだ。……これは、俺の役目だ。」


「違う!」

彼女は泣き叫ぶ。

「あなたは役目なんかじゃない!あなたは……私の——」


言葉が詰まる。


彼女の拳がほどけ、震える指先で私の服を掴む。


「あなたは……私の家族よ、ダイチ。」

彼女は絞り出すように言った。

「……あなたがいない未来なんて、いらない。」


心が締め付けられるように痛んだ。


私はそっと手を伸ばし、彼女の肩に触れた。


「ありがとう、イズミ。」


彼女の瞳から涙が零れ落ちる。


「お願い……行かないで……」


私は彼女の額にそっと触れ、囁いた。


「君は、一人じゃない。」


機械が唸りを上げ、光が増す。


「ダイチ!」


彼女の叫びが響く。


最後に彼女を見つめ——


「ありがとう、イズミ。」


光が、全てを飲み込んだ。


——そして、痛みのあとに訪れたのは、何もない虚無だった。


世界が書き換えられた。


イズミが研究所を出たとき、目の前に広がっていたのは、かつての荒廃した世界ではなかった。


人々が笑い、歩き、普通の生活を送る街。まるで、破滅が存在しなかったかのように。


「……これは?」


胸が痛む。


そして気づく。


ダイチは、もうどこにもいなかった。


彼女は、たった一人だった。

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