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セカンドループ 第九章:過去の影:II

私たちの周りの世界はとうの昔に崩壊していた。それでも、かつての名残が静かに息づいていた。

歩みを進めるたび、景色はまるで忘れ去られた夢の断片のように移り変わった。そびえ立つ都市の廃墟は、今や蔦と苔に覆われ、荒れ果てた大地には、砕け散った建物の間を風が寂しげに吹き抜ける。時間に触れられることのなかったかのような、深い森もあった。


大地と私はほとんど言葉を交わさなかった。だが、その沈黙には意味があった。お互いの旅の重みを理解した上での、静かな休戦のようなものだった。

無言の時間は決して空虚ではなかった。そこには、かつての人々の囁きがあった。ひび割れた道の一本一本が、誰かが歩んだ道だった。錆びついた標識は、もう必要とされない道しるべ。見捨てられた建物には、忘れ去られた物語が眠っていた。


私は時折立ち止まり、金属の指先で過去の名残に触れた。

ひび割れ、片目を失ったまま置き去りにされた子供の玩具。

崩れかけた壁に描かれた壁画は、色褪せながらもなお時間に抗っていた。

この場所に残されたすべてのものが、私に問いかけているようだった。


「…私たちは、一体どうなってしまったの?」


大地は私の仕草に気づいていた。でも、彼は何も言わなかった。


沈黙が破られたのは、ある廃墟にたどり着いたときだった。

木々の根に半ば飲み込まれ、蔦に覆われた施設。

火災の跡が黒々と残る壁、砕け散った窓はまるで虚ろな瞳のように私たちを見つめていた。

崩れ落ちそうでありながら、それでもこの建物は立ち続けていた。


大地が足を止め、廃墟を見上げる。


「…また廃墟か」

彼の声は静かで、どこか敬意を感じさせた。


私は建物の残骸を見つめ、自分の瞳に映る光景を反射するガラスの破片を見た。


「…ただの廃墟じゃない。」


大地が私を見た。好奇心が、その瞳にかすかに灯る。


「ここは…かつて何か大切なものだった。」私は前へ進みながらそう呟いた。「…そんな気がする。」


施設の中は、朽ち果てた静寂に包まれていた。

湿気と錆の匂いが漂う空間に、私たちの足音だけが響く。壁の塗装は剥がれ、長い時間の果てに脆く崩れ落ちていた。


「感じるか?」

大地が唐突に口を開く。


私は彼を見た。「何を?」


彼は言葉を選ぶように一瞬ためらい、周囲を見渡しながら答えた。


「…この場所が何かを待っているような気がする。」


私は静かに息を吐いた。「…私も、そう感じる。」


やがて私たちは、一つの研究室へと辿り着いた。

朽ち果てた機械が、骸のように無造作に横たわる。

焼け焦げた紙片が床に散らばり、古びた棚は崩れ去っていた。


しかし、ただ一つだけ——まるで時間の影響を受けなかったかのように、完璧な状態で残されているものがあった。


部屋の奥、埃をかぶった金属製のキャビネット。


私と大地は目を合わせる。


彼がゆっくりと前に進み、慎重に扉を開くと、中には古びた書類の束が眠っていた。


「…記録みたいだな。」

大地は手に取ってめくり、目を細める。「誰かが、これを守ろうとした。」


私は彼の横に立ち、機械の腕をそっと動かした。

「ここで働いていた人間が、これを隠そうとしたのね。」


その時——大地が凍りついた。


「…どうしたの?」


彼は無言のまま、一枚の写真を差し出した。


その写真は、黄ばんだ紙に印刷されたまま時を越えてきた。

端はほつれ、掠れてはいたが、その映像ははっきりと残っていた。


——10歳ほどの少年が、年配の男性と並んで写っていた。

二人とも白衣を纏い、少年は控えめながらも誇らしげな表情を浮かべていた。


…知っている顔だった。


「この子…どこかで見たことがある…」

大地の声が震えていた。


私は写真から目を逸らし、大地の顔を見た。

彼の表情は硬く、破れたモニターのガラスに映る自分の姿を交互に見つめていた。


それは——彼自身だった。


私は喉の奥で息を詰まらせた。

伝えなければ。

でも——言えなかった。

この真実を伝えたら、大地はどうなる?


「君は…この子を知っているのか?」

彼の問いは、静かで、それでいて確かなものだった。


私は唇を噛み、ほんの一瞬だけ躊躇った。

「…わからない。」

嘘だった。


彼はじっと私を見つめた。

だが、それ以上は何も聞かなかった。


そして、ゆっくりと写真をポケットにしまうと、低く呟いた。


「…手がかりかもしれないな。俺が何者なのか、知るための。」


私は拳を握りしめた。

——私は、もう知っているのに。


でも、言えなかった。

言うべきではないのかもしれない。

もしかしたら、このままの方が——


「…そうね。」私はそう答えた。


大地は私を見つめたまま、小さく微笑んだ。


「二人で、探そう。」


彼のその言葉に、胸が痛んだ。


でも私は微笑み返した。


「…うん、一緒に。」


真実が、すべてを壊してしまうとしても。

それが、私自身を壊すことになったとしても——


私は、彼を守る。


たとえ、この世界の残骸に埋もれようとも。

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