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竜骸戦争〜僕はこの世界を救うのか  作者: 葛原一助
第1話 旅立ちの始まり
7/7

564−1.別れと旅立ちと現実と(1)

 あれから互いに自己紹介を交わして相手の男の名前をルーバー・トゥールだと知ったところで、僕はルーバーにここにどのくらい滞在するのかを訊ねた。

「少なくとも今日明日はここにいるつもりだ。潮の流れもあるからな」

「じゃあ――」

「――島を回って生きてる人がいるかどうかや、いなかった場合には墓でも作りたいんだろう?」

 先んじたルーバーの言葉に首を縦に振った。

 ルーバーは真実だけ話しているのは、出会ったばかりだけど信じていいと思っている。

 それでも、ここを出る事になるのなら目に入れて記憶に留めておきたかった。

「寝なくても大丈夫か?」

 再び頷く。身体の痛みも少しずつ引きつつあって動き回る分にはどうにかなりそうだったし、これが島で最後の行動となるなら何があっても耐えられる自信がある。

「なら、条件を付けよう」

 ルーバーは指を一本立ててそれを下に向けた。

「ここを俺の仲間達との集合地点とするから、合図の白い狼煙が上がったら戻ってこい。約束出来るか?」

 三度目の回答も同じだ。

 僕の意思を感じ取ってくれたのか、一つ頷くとしゃがんで自身の足元に置いてある槍を持ち上げて僕に差し出してきた。 

「……僕に?」

 ばあちゃんが持っていた槍だというのは一目見てわかった。でも、僕は武器なんて握った事はない。

 それを案じているのか、少し苦い笑いを浮かべながらルーバーは口を開く。

「今使えなくても、これから使えるようになればいい。槍なんてのは、刃先が付いた棒と思えばそう難しくはないさ」

 ほら、と一声押して一歩前に出られると、もう槍は僕の目と鼻の先だ。

 僕は右手でそれを受け取り、しげしげと槍を眺めた。全体の見た目が金属製でありながらそれほど重みは感じなくて、片手でもちゃんと振り回せるだろう。下の石突の方にも握り手があって、掴んでみると回して外せる機構が付いていた。

「仲間の技師に詳しく見て貰えばもう少し何かわかるだろうが、そいつは術式槽を組み込んだ槍だ。今だとそれなりにポピュラーだが、その槍の作りはかなり丁寧だ。きっとお前に贈るために用意してたんじゃないか?」

 ルーバーの言う通り、ばあちゃんが杖代わりに使うのは考えられない。これがばあちゃんの話していた誕生日プレゼントだったと気付くと、槍にズシリと重みが加わった。

「今後はこの槍がお前の仕事道具であり身を助ける相棒だ。大切にしろよ」

 そう言い、僕の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫で回した。

 僕に両親はいないのだけど、テムじいが子供の扱いに慣れてない感じの、不器用な撫で方をしていたのを思い出した。

「ありがとう、ございますっ」

 目に浮かんだものを隠そうと頭を下げた。そのまま深く息を吸って吐き出して気持ちを落ち着け、顔を上げた時にはもう意識は切り替えていた。

 僕とルーバーの視線が重なり合った時間はほんの僅か。視線の先にある目に一瞬映った僕自身の姿はぼろぼろで薄汚れてはいても、それでも表情は少なくとも前を向く意思があった。

 一方のルーバーは僕からさっさと視線を逸らして懐に手を入れたかと思えば、複雑な刺繍が成された布切れを取り出して僕の前に突きつけた。尾っぽの長い青い鳥が円を描くように羽ばたく姿を模った紋章で、糸にきらきらと光る何かが使われているのか、目を惹きつける不思議な魅力があった。これだけ特徴的なら、そうそう見間違えたりはしないだろう。

「おそらくこの島にはもう俺の仲間しかいないはずだ。仲間には全員、今見せたこれと同じ紋章を持たせてあるから間違っても襲うなよ?」

「はい!」

 元気よく返事を返すと、僕は一礼してルーバーに背を向けて走り出した。

 この小さな島に住んでいる人達の家は全部把握していて、その中で一番最初に向かう場所は決まっている。

「ティア!」

 僕の家からさほど離れていない幼馴染の家には、家の中の家具や食卓の机は壊されていて争った形跡はあるが、誰もその場に残っていなかった。そうなっているだろうという予感はあったので、悲しくはなかったけど寂しくはあった。しかし死体もないのなら、もしかしたら連れて行かれたのかもしれないと思えば、まだ何処かで会える期待がある――そう思い直す事にして、早々に家を出た。

「誰だ!?」

 家を出て早々、見知らぬ者が裏手から顔を出して鉢合わせした。

 思わず僕は手に持った槍を向け、向こうはどこか慌てた仕草で飛び出すと両手を上げて降参の姿勢を見せた。

「……白い、仮面……?」

 それは、酷く奇妙な仮面だった。

 仮面というのは、個人の事情や会場の衣装指定で顔の一部、あるいは全てをすっぽりと覆う物だって聞いている。

 しかしその人が付けているのは、仮面というには目も口も完全に隠されていて表情というものが全く見えない。そもそも呼吸が出来るのかどうかすら怪しい代物だ。しかも仮面そのものが布製ではなく、ましてや鉄や鋼とも違う未知の素材で出来ていて、あえて近い物を想像するなら、陽光で表面にうっすらと虹に似た色合いを見せるところから貝殻のような材質なんだろうか。

 なんとなく視線を感じるから見られているのは確かなんだけど、どうしたらいいのかわからないまま槍の構えを解けない。

 向こうにも僕の戸惑いはわかったのか、全身を覆っているマントの中に手を入れてゴソゴソとしたかと思うと、ルーバーの見せてくれた紋章が刺繍された布製の身分証を僕の前に突き出した。

「……紋章……」

 そう呟くと、向こうはぶんぶんと首を縦に振った。見た目は怪しいけど、あの必死さからすると本当にルーバーの仲間ではあるのかもしれない。

 僕は槍の構えを解いて肩にもたれかけると、この奇妙な存在の気になる部分を口に乗せて出してみた。

「それは仮面……なの?」

「そうだ」

 初めて、向こうから声が返ってきた。低音だけど仮面越しとは思えない明瞭な声で、どこか荒っぽさを彷彿とさせる男の声だった。

 しかしそれよりも僕を驚かせたのは、

「喋れるの?」

「条件付きで、だがな」

 声の雰囲気からすると、どこか苦々しさを思わせる様子で言葉を吐く。

「条件?」

 ああ、と実に不満げに頷いた。

「こちらから話しかける事は出来ないし、質問に答えを返す内容にはある程度の制限がかかっている」

 制限? と問いかけると、向こうは首を縦に振って答えた。

 じゃあ、こっちが向こうを認識した上で問いかける類の話を振られないと答えられない?

「変なの」

 それが、彼(?)に対する最初の印象になった。

「……………………」

 明らかに物言いたげな雰囲気を出されても、こちらから問わないと答えられないからどうともしようがないんだろう。そういう意味では、不思議なヒト――仮面で顔がわからない以外は僕らと見た目は変わらないから、ヒト種でいいとは思う――と言えなくもない。

 お互いにはっきりと敵対の意思が無くなったところで、立ちっぱなしもなんだからとティアの家の壁に背を預けて身体を落ち着かせると、聞けそうな事を聞いてみる事にした。

「今、何してるの?」

「『ルーバーの為にしている事』と言う意味なら、今は念の為の生存者探しだな」

 ちょっと抽象的すぎるかと思ったけど、向こうは一つ頷いてからこちらに顔を向けて声を発してくれた。

「誰か見つかった?」

「俺の視えている視界にヒトの気配はない。島民の少ない島だ。おそらくは連れ去られたか殺されている」

 小さく吐かれた息の音と視線がやや俯き加減になったところから、内容に偽りはなさそうだ。

 本当に誰もいないという実感が胸の奥からじわじわと沸き上がってくると同時に、疑念も浮かんでくる。

「……どうして、みんなを連れていっちゃうんだろう?」

 ぽつりと呟いた言葉に反応して向こうがこちらを向いたものの、一度(かぶり)を振ってから向き直した。

「その話を俺からしてもいいが、合流した時にルーバーから説明がある。それを聞け」

「そうなの?」

「あいつはこの旅団のリーダーだ。お前を中に迎えるなら必要な情報は共有する。俺から出しゃばるつもりはない」

 そう言うと、話は終わったとばかりにこちらへ背を向けて歩き出した。

「僕はもう少し見て回るけど、そっちはどうするの?」

「あらかた見て回ったからルーバーの所へ戻る。じゃあな」

 歩みを止める事なく軽く手を振って去ろうとする向こうに、僕は肝心な事を聞いてない事を思い出した。

「そうだ! 名前は!?」

 僕のその問いは、どうしてか向こうの動きを止めた。

 しかしその停滞もごく僅かで、再び歩き出すと同時に振り返ってこちらに視線を投げた。

「――仮面(ラヴァ)だ。仲間からはそう呼ばれている」

「……ラヴァ……」

 こちらに言葉が届いたのを確認したラヴァは、投げやりに手を振ってそのまま去っていった。

 その背を見送りながら、変わっていると思いつつもどうしてか懐かしい気配をラヴァに感じながら、僕は再び槍を手に持って島内を走り出した。

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