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そこは石造りの通路だった。
奥の方は見えない、しかし相変わらず光源の類がなくてもダンジョン内は普通に明るいので途中で突き当たりを曲がる様なのだという事は分かった。
やはり第一階層と第二階層では出現するダンジョンポータルの行き先も違うらしい。
まあ同じ所に行って既に何もない場所を探索するとか時間の無駄だからそこは良かったと考えよう。
取り敢えずは罠の類とかないことを祈りつつ素人なりに警戒しながら進もう。
真っ直ぐ通路を進む、そして突き当たりは俺から見て左側に曲がるらしい。
そこを曲がる。
すると出口が数十メートル先に見えてきた。
そこにはやはりモンスターがいる、まだ距離があるので分かり難いがかなり大きなモンスターだ。
三つ首の黒竜もデカかったからな。
今回もハリボテみたいなモンスターだとありがたいけど果たしてどうだか……。
当たり前だが油断なく進む、少しでも無理そうなら引き返す。
今の俺は既に先へと進める手応えを感じてるからな、無理に欲をかく必要はない。
だったらこんな所にまた来るなって話だがな、我が事ながら思うとおりにはいかない。
まっ駆け出しなのは相変わらずだから死にたくなけりゃ臨機応変に何とかしろ俺って事だ。
「………………」
相手の正体が分かった。
通路の先は開けていて広く、天井も高い空間になっているんだろう。
その中央に静かに瞳を閉じて寝ているのは白い虎だった。
白虎とかの親戚か?
まさか本当にそうなら俺とか一瞬でやられるよな、しかし以前のメタモルスライムみたいなのと同類の可能性もある訳で……。
しかし黒竜の時もそうだったが、その姿を目にした時から感じるプレッシャーは本物だ。
普通に怖い、超怖い。
ちなみにこの通路は結構大きくあの白虎なら通れる、そんな事実も俺をビビらせる。
落ち着け俺。
以前黒竜……と言うかメタモルスライムを倒した時に現れた女性魔導師が恐怖ってのは自分自身が作り出してる幻だとかって言ってたじゃないか。
多分その言葉は正しい。
やってみると案外大した事のなかったなんて話とか結構あるんだ、他にも見た目が怖い人で普通にいい人だったとか。
或いは怖いと感じる嫌な人間も実はそこまで大したヤツなんかじゃない……みたいな。
そこまで考えてチラついたのはあのクズ、金利の顔だった。
俺がヤツに対して抱いてるこれもそうなのか?
そんな考えが頭に浮かび、今はそれどころじゃないだろうと頭を軽く振ってあのクズの事を忘れる。
今は目の前の白虎だ。
黒竜の時も実際に戦ってみないとその強さがハリボテだった事は分からなかった。
しかし俺には【危険感知】のスキルがある、このスキルの優秀さは以前の黒竜の時に証明されてる。
今回もその効果を発揮してくれ。
俺は祈るような面持ちでスキルの発動を念じた。
そして俺が感じた脅威は……まるで衰えなかった!
うっわマジかよ引くわ~。
多分あの白虎は本当に強い、本物の白虎かは分からないが第二階層をうろついてる探索者がどう足掻いても勝てるレベルの強さじゃなさそうだ。
これ【危険感知】のスキルがなかったら二匹目のドジョウを求めて一回目はセーフだったんだからと挑めば瞬殺されていただろうな。
くわばらくわばら、今回は駄目だったか。
俺は来た道を引き返そうと振り返った。
そこには当たり前のように以前のダンジョンポータルで見た魔法陣が出現していて例の女性魔導師も現れていた。
『ダンジョンにて油断と慢心は敵です、よくぞ小さな成功に油断せず引く選択をしました。その迷宮を進む者としての意思の強さを称え、ささやかながら褒美を与えましょう』
「えっ……マジで?」
なんか今回は逃げた事が正解っぽい。
すると目の前には当たり前のように宝箱が出現していた。