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「どうした? 死への恐怖で喋る事すら出来なくなったか?」
微笑を浮かべた金髪ヤバ女は歩いてこっちに来る。
その仮面、目の部分まで隠れてるのになんで俺の様子とか普通に見えてんだとか言ってやりたいがそんな余裕はなかった。
何故なら俺はまだ諦めてなかったから。
俺と金髪ヤバ女の距離が数メートルとなった。
俺は持っていた金属バットを投げつける。
金髪ヤバ女は当たり前だが余裕で躱す。
そして何か言おうとしたが、俺はそれを無視して突っ込んだ。
金髪ヤバ女がそれでも余裕綽々の様子でゆっくりと金細工の施された杖を振るおうとする。
俺はポケットから二枚のカードを取り出した。
あの魔法カードだ。
そのカードを目にして始めて金髪ヤバ女の表情が驚愕へと変わった。
「き、貴様それは……っ!?」
「魔法カード………………発動!」
発動する魔法カードは二枚のうち金髪ヤバ女に向けている一枚目のカードだ。
『契約』か『封印』かは分からない。
探索開始前には禄に絵柄も確認せずにポケットに突っ込んでしまっていたのが悔やまれる。
『封印』の魔法カードならまだ可能性がある。
サイクロプスすら封印したレアアイテムだがこの堕天使がサイクロプスより格下であるかさっぱり分からないが可能性はある筈だ。
そして『契約』の魔法カードが一枚目だった場合は……ほぼ間違いなく魔法カードは不発に終わる。
何故なら『契約』の魔法カードは相手を弱らせる、或いは何かしらの手段で契約する相手に自分と言う存在を認めされる必要があるからだ。
相手に俺を認めされるとか現状はまず不可能だ。
つまり『封印』ならワンチャンあるが『契約』なら俺は賭けに負けた事になる。
『封印』か『契約』か……どっちだ?
魔法カードが発動し、そのエフェクトが見えた。
ヤツの足元に虹色の魔法陣が出現した。
その魔法陣の光を見た瞬間、俺は悟った。
あっこれ駄目なヤツだ……。
俺が動画でサイクロプスの封印の瞬間を見た。
その動画でもサイクロプスの足元にドデカい魔法陣が出現したのだがこんな虹色に輝いてはなかった。
虹色じゃなくて銀色だったんだ。
つまり俺は『封印』ではなく『契約』の魔法カードを金髪ヤバ女に向かって発動したのだと思われる。
馬鹿、俺の馬鹿! アホンだらだらの大間抜け!
どうしてこんな二分の一の確立でハズレを引けるんだ。
探索者なら土壇場でもなんとか運だけで未来を切り開けよ俺!
しかしこのコンマ数秒の刹那、俺の脳はフル稼働して世界は何故かスローモーションになり俺がやらかしたと言う現実を無駄にスローモーションで見せつけてくる。
これは新手の嫌がらせか?
俺が俺への嫌がらせなのか?
どうして無駄に欲を出したんだと思った、こんな所に来なければこんな目は合わなかった筈なのに。
そんな俺自身から俺への自戒なのか、だからこそのこのスローモーションでの失敗をハッキリ自覚して死ねよ的なこの現象なのだろうか。
……もう知らん、ってかどうにも出来んしな。
俺は死ぬだろう、このクソ金髪ヤバ女に殺されて。
そう思うとなんかムカついてきたな、せめて死ぬ前になんとかヤツのアゴとかに根性焼きとか出来ないだろうか。
タバコもライターも持ってないから無理か。
俺の頭の中に僅かに両親が現れ直ぐに消えた、そして次にあのクズ金利が出て来た。
実に不愉快な笑顔で人を見下してくる、こんな事になるんならヤツを鉄バットでホームランしてやればよかった。
それが多いに悔やまれる。
そして…………最期に婆ちゃんの笑顔を思い出した。
ゴメンよ、婆ちゃん。
なんとかして婆ちゃんに貰った沢山の物を返したかったけど……無理みたいだ。
本当にゴメ──
「ああああああああああああああああっ!」
「なっなんだようるせーな、せっかく人がお前、走馬灯とか見てるって時に……え?」
何故か金髪ヤバ女は未だに虹色の魔法陣に囚われている、俺が調べた記憶が確かなら『契約』の魔法は失敗すれば数秒で消し飛ぶって話だったはずだ。
それがまだ効果を発揮してるだと、まさか万が一にも可能性が。
「おっおのれぇええ人間風情がぁああーーーっ!」
なんか全然そんな可能性は窺えないな。
金髪ヤバ女は乱暴に杖を振るうと光る剣を俺に向かって放ってきた。
やっぱ駄目だったじゃん、俺死ぬわ。
そう思った時。
どう言う訳かヤツの放った光る剣が俺の頭を貫くコンマ数センチの所で……止まった。
「ああああああああああああああああっ!?」
「こっこれは……!?」
再び金髪ヤバ女の悲鳴が聞こえたと思ったら視界が虹色の光で満たされる。
それと同時に物凄い衝撃波でも発生したのか俺の身体は吹き飛ばされ、俺は意識を失った。