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自分より圧倒的に強い化け物みたいな存在が自分を認識して殺そうとしている。
その事実だけでストレスにより色々と口から吐き散らしてしまいそうな気分になる。
無論こんな所でゲーゲーとやってる暇はない。
だって先程まで聞こえていた戦闘音が……聞こえなくなったから。
曲がり角を曲がった瞬間だった。
後ろから凄まじい光と爆発音がしてその爆風が俺の直ぐ後ろを通過したのを感じた。
あの爆発で宝箱は駄目になっただろうな……くそ。
白虎の咆哮が一度聞こえた、しかしそれ以降は全く聞こえなくなった。
どっちが勝ったとかそんなんどうでもいい。
俺はこのヤバ過ぎる空間から逃げる事だけを考えていた。
ダンジョンポータルが見えた。
俺は全力疾走でダンジョンポータル目掛けて走る。
その途中でつまずいて転んでしまった。
嘘だろマジかよこの状況で!?
そう思いつつも俺は石畳の廊下に倒れる。
痛いし情けないしもう嫌になってくる。
そんな事を考えていたらさっきまで俺が立って走っていたら背中があったであろう場所を無数の光の剣みたいなのが通過した。
あのまま走っていたらグサッとやられてたわ。
しかし安心してる場合じゃなかった、なんとその光の剣はあろうことか俺が生き残る唯一の可能性であるダンジョンポータルへと降り注ぎ。
そのダンジョンポータルを破壊して消滅させてしまったのだ。
その光景を俺は確かに見た。
舞う土煙は広がり、通路を満たしていく。
絶句するしかなかった。
「おやっまさかあの攻撃を躱したのか? 案外、人間風情にしてはやる方だったか?」
あの金髪ヤバ女の声だ。
白虎に話しかけてる時は聞こえなかったが、その声は間違いなく美声である。
だからなんだって話だけどな。
自分を殺そうとしてるヤツが美人とか美声の持ち主かなんてどうだっていいだろう。
逃げ道はない、逃げる手段もない。
だったら……。
「そう言うお前は人間じゃなさそうだな、人間にはそんな鳥みたいな翼とか背中から生えてないしな」
俺は右手側のポケットへと手を入れながら話をする。
土煙の向こうから金髪ヤバ女が現れた。
漆黒の翼を背中から生やし、黒い仮面で顔の上半分を隠してるがその表情が若干イラついたのは分かった。
「……人間風情が減らず口を叩くな、楽に始末する気が失せてしまうぞ?」
始末しないでいただきたいね。
いきなり出て来て殺そうとしてくるとか、コイツ見た目は堕天使っぽいが脳内はバーバリアンが何かなのかよ。
「それで慈悲でもかけてるつもりか? 頭が悪すぎる発言してるとお前の主ってヤツの程度まで高が知れてくるぞ」
「……死ぬといい」
金髪ヤバ女が無数の光る剣を出現させて俺に放ってくる。
俺も躱そうとするが、そもそもその魔法攻撃のスピードが速すぎだ。
光る剣のスピードに全くついていけない俺は殆ど身動きを取れなかった。
しかし全ての光る剣は俺に当たらずに紙一重で通過していった。
「ん? この距離で外してしまったかな?」
「……っ!」
コイツ、なんて白々しいヤツなんだ。
どう考えても外す訳がない、この金髪ヤバ女はわざとギリギリで魔法を外したのだ。
その理由は俺でも分かる。
コイツは俺をなぶって遊ぶつもりなのだ。
主とやらを馬鹿にしたのは相当にヤバかったらしいな……この頭のおかしい金髪ヤバ女はどうやら本気で怒っているらしい。
だからと言って殺されてやる理由には到底ならない。
俺は殺されたくない、だからやれる抵抗は最期までやってやる!