男爵令嬢vs公爵令嬢
「あら、こんなところに石が落ちているわね? 誰かが踏んだら大変、早く片付けなくてわね。あら、そういえばどこぞの男爵令嬢に似てる気がしますわね?」
「ええ、ほんとですよね。特に足腰が弱っていらっしゃるどこぞの公爵令嬢様がお転びになったら大変ですしね。きっと倒れちゃいますよね〜。」
ドドーンッッ
廊下のど真ん中で開催されるアーレン男爵令嬢vsミレイン公爵令嬢、に周囲の令息&令嬢は顔を引き攣らせた。
本来、身分の高い者に身分の低い者があの様な口の聞き方をするなどあり得ない。誰かが諭すべきである。が、賢明な貴族子女はそんなこと気にしない。自分の命が惜しいから。
「誰か! 殿下を早く呼んでこい! 呼んできたものには我が公爵家より褒美を与える! 補助隊は結界を張れ、校舎を守るんだ!」
宰相の息子、眼鏡真面目系イケメンのサントラ・アルマがそう叫ぶが、既に周囲は連携をとりそれぞれ持ち場に走り王子がいないか確認している。
そう、この学園では男爵令嬢vs公爵令嬢対策への素晴らしい連携プレイが出来上がっているのである。お陰で下位貴族、上位貴族、平民に関わらずコミュニケーションが取れており、これまでにない、身分の隔たりなき世代となっている。
「殿下をお連れしました!」
先ほど迅速に持ち場に走った特待生の平民であるレイナが言葉こそ丁寧ではあるが、ほぼ連行のような形で王子を連れてきた。
ちなみに彼女の持ち場はウサギ小屋。王子は隠せていると思っているが、小動物好きなのはバレバレである。
「よくやった! 後で褒美を届けよう! 殿下、後は頼みます! 校舎の半壊はもう勘弁してください。」
頭の切れるはずの宰相子息はさっさと仲裁を王子に丸投げした。
「だからなんでお前達は私のところにいちいち来るんだよ!? 今日はこれで五回目だぞ!? 一回くらいは自分達でどうにかしろ!」
そう、これでこのイベントも本日五回目。王子はその度に呼び出されるのである。1番ひどい時はトイレまで呼びに来られた。
「殿下くらいしかあれを止められないのです、諦めてください! 運命です、使命です、なんでもいいからお願いします。ほら、王子が騒いでる間にブリザードが吹き荒れ始めたじゃないですか! 大事ですよ!? 婚約者とのコミュニケーションは!」
アルマの発言に不満そうな顔をしてぶつぶつと文句を言っていた王子が絶句した。
「おまっ不敬だぞっ? 仮にも王子に対して失礼すぎるだろうが。宰相に言い付けるぞ!? それにどこがコミュニケーションだ! お前ら私を生贄にしてるだけだろう!?」
とは言いながらも、仕方なさげに王子は自身に身体強化を施し、さらに結界でこれまた自身を囲む。流石に校舎半壊は嫌だ。そして、ブリザードとサンダーによって隠れた二人に少しずつ接近する。
固唾を呑んで見守る令嬢令息が考えることは全会一致でただ一つ。王子が失敗した場合、いかにして自分が逃げるか。王子を助けるという選択肢は万が一にもありえない。
「お、おい。お前ら落ち着け。そのだな、ほら、校舎半壊にしたら公爵達から怒られるだろう? な? 落ち着け、頼むから。」
恐る恐る、王子とは思えない低姿勢で対話に臨む王子。どこの国に、手を合わせて懇願する王子がいるのか。
「申し訳ありませんが外野は黙っていてください! 半壊にしたところは魔法で直し、慰謝料をポケットマネーから払っているので問題ないですわ!」
「うるさいです、静かにしてください! 王子には関係ないことです!」
だが、王子は健闘虚しく、二人から同時に理不尽な怒りを向けられ泣きそうになっている。
「マジでお前ら不敬だろ! なんとかしろよ護衛! 」
「婚約者様と仲がよろしいのは素晴らしいことですので。」
必死に数メートル後ろに控える護衛に訴えるが、さらに三メートルくらい距離を取られ、王子の涙腺は崩壊目前となった。
「さぁ、決着つけますわよおおおお!!!!」
「受けて立ちます!!!」
不憫な王子には全く構わず二人の争いはいっそう激化していく。
「まて、待ってくれマジで頼むからさ、な?」
「しつこいですわ、婚約者の分際で!!」
「ちょっと黙っててください、王子。」
不敬にも程がある2人から炎を飛ばされ、説得を諦めて転移の呪文を唱えようとした瞬間、あたりは白い光に包まれた。
ドッカァァァンッッッッーーーーー!!
王子に全てを押し付けさっさと転移魔法で退避していた生徒たちは、あたりに鳴り響く音と、崩れ去る校舎の様子を見て置き去りにした王子に向けて合掌した。
ちなみに、転移の魔法は、高位貴族の一部しか使えず、彼らは大体、勿体ぶって大金を払った貴族にしか使わないが、この世代の者たちは一味違う。去年一年で使った回数なんと900回。アーレンたちが爆発を起こした回数と等しい。
なんだかんだ言って婚約者と相思相愛の王子の苦労はきっとこれからも続く
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