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「お待たせ」
「待ってたよ~。待ちわびたよ~」
「ごめんね。遅くなって」
「遅延はしょうがないよ」
再会してから2週間ほどして、家は少し遠いけれど会えないほどではなかったので、電車で遠出してアズちゃんと会っている。
「前も思ったけど、おしゃれだねえ」
「アズちゃんも似合ってるよ。雰囲気に合ってる感じ」
「やった!お気に入りなんだ~」
「そうなんだ。……じゃ、いこっか」
「うん!」
………
……
…
2人で買い物をした後に、ファミレスに行って昼食を食べた。朝早くに家を出たからか、なんだか眠くなってきた気がする。
「やっぱりミラノ風ドリアだったな~」
「うん。すっごいおいしかった」
「ペペロンチーノもおいしかったけどね」
アズちゃんのおすすめでドリアを食べたのだけど、アズちゃんは同じものを頼んでもなあ……、という理由でペペロンチーノを食べていた。
「じゃあ……」
――ポロロンポロロン……
微かに聞こえたその音に遅くなっていた思考が一瞬停止する。そして、すぐに眠気が飛んでいった。
普段、この音で電話がかかってくることはない。友達や家族からの電話ならメッセージアプリの無料通話だから、この音で電話がかかってくるということは、もしかすると……。
急いでバッグから携帯電話を取り出すと、そこには知らない携帯の番号が表示されていた。
「アズちゃん」
「例の人?」
「……かも」
手で電話に出るように促されて、応答ボタンを押し携帯を耳に当てる。
心臓がバクバクとして、時間が流れるのが遅くなる。
『もしもし』
「も、もしもし」
『えっと、……ユイ?』
「っ……うん」
ああ、サクだ。間違いない。
『あー……、久しぶり』
「……久しぶり、サク」
『お前、こんなところに携帯番号入れてたら危ないだろ。助かったけどさ』
「サクがなんも言わずにいなくなるから、電話番号も教えられなかったんじゃん」
「いや、それはそうだけど……。あの時は携帯持ってなかったし、そんな発想にならなかったんだよ。悪かった。ごめん」
「ほんとだよ。……ほんとに、寂しかったんだから……」
少し鼻声になってしまう。
…………会いたい。
「いいよ。行っても」
ちらっとアズちゃんの方を見ると、少し笑いながらそう言ってくれる。
「……サク、今どこにいるの?」
『え、ユイの秘密基地だけど』
「1時間半くらい、待てる?」
『……うん』
「じゃあ、行くから、待ってて」
『わかった。待ってる』
耳から携帯を離してしばらくすると、ポロンッと通話が終わる音が聞こえる。
「よかったね~、電話来て」
「うん。……ごめんね、アズちゃん」
「いいよいいよ。かわいい柚衣ちゃん見られたし~」
「んなっ、だから、違うって……」
「今度また遊ぼうね」
「……うん。じゃあ」
「うん。あとで電話しよ~」
手を振りながら小走りで駅へと向かう。
会える。サクに会える。……何を話そう。話したいことがたくさんある。2年半分、いろんなことを話したい。
…………
……
…
「はあ、はあ」
あと少し、あと少しでサクに会える。
持っていたタオルで汗を拭いて、息を整える。
「はあ……、ふぅ……」
もうすぐそこ。この距離なら、サクも私がきたことに気付いたかもしれない。
……よし。行こう。
秘密基地の入り口から、中をのぞく。
「久しぶり、ユイ」
やはり気づかれていたようで、サクが定位置の椅子の前に立っていた。
「サク……なんか、大きくなったね」
「あー、この2年でちょっと身長伸びたからなあ……。ユイは……あんまり変わってない?」
「んなっ、そんなことないですー」
「……そうだな。なんか、思ったよりかわいくなっててびっくりしたよ」
「……ほんとに?」
「えっ、……うん」
「そっかあ、ふふっ、良かった」
驚かせることは成功したらしい。
「また会えて嬉しいよ」
「うん。……私も、嬉しい!」
「うえっ!?」
感極まって、サクに飛びついてしまう。サクは驚いたような声をあげたけど、なんとか踏ん張ってくれて二人で倒れこむことはなかった。
……ああ、ほんとにサクがいる。嬉しい。本当に嬉しい。
「お前な……」
あきれたような声を出しながらも、サクは私を受け入れてくれた。
………
……
…
しばらくしてサクから離れて、定位置に座って話をしている。サクは、今は大学1年生で、ここから電車で30分くらいのところで一人暮らしをしているということを話してくれた。私もサクが通っていた高校に行っているということを話した。そして、そこで一番聞きたいことがあったことを思い出す。
「あ、サクの名前ってなんていうの?」
「あー、ちゃんと自己紹介しておくか。お互いに」
多分サクのことはこれからもずっとサクと呼んでいくんだと思う。でも、ちゃんと名前を知っておきたい。
「えーっと……ゴホンッ、八神雄作だ。よろしくな」
八神雄作……雄作……。
「えっ、名前の後ろ取ってたんだ」
「ユイとユウだとややこしいだろ」
「そんな理由……」
「ほら、次ユイの番。俺もユイの名前知りたい」
「へ、あ、わ、私の名前は……桜木柚衣、です」
「……サクでも被ってんな」
「あはは、そうだね」
そんなことを言った後に、しばらく静寂が流れる。多分だけど、2人ともお互いの名前を頭に定着させているんだと思う。
その静寂を破ったのは、サクだった。
「えーっと……これからよろしくな。柚衣」
「うん!よろしくね、サク!」
後日談的なお話が投稿されるかもしれない