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第6話 『アイザイア・フェリシタル』 ③

 私は普段、王宮で生活をしています。そちらの方がお妃教育などで一々王宮にやってくるという移動の手間が省けるからです。時折実家に帰っておりますが、それでも一年の三分の二以上を王宮で過ごしているのが現状でした。


 ですがそれは私にとって決して苦ということではありません。確かに、最初は寂しくて泣いたこともあります。ですが、アイザイア様のお父様である国王陛下も、アイザイア様のお母様である王妃様も、私のことを歓迎してくださいました。もちろん、アイザイア様も私のことを支えてくださいました。


 だから、私はどんなに厳しくて辛いお妃教育であろうとも、耐えることが出来たのです。未来の為、恩を返すため、だと信じて。


 そんなことを思いながら、私は王宮のとある一室、自室として与えられた部屋から出て行きます。目的の場所は王宮内にある図書館。家庭教師から出された課題を済ませるためでした。


「やぁ、モニカ。おはよう」


 そして、とある廊下の一角を曲がった後。不意に私は声をかけられました。その声は、私が聞き間違えるわけがない声。透き通ったように美しく、私がいつも好きだと思っている声。


 ――アイザイア様の、声でした。


「おはようございます、アイザイア様」


 一礼をしてから、私はそう挨拶を返します。アイザイア様は、私の挨拶を聞かれて微笑みを深めてくださいました。長い金色の髪はいつものように後ろで束ねられており、その緑色の瞳もいつもと何一つ変わりません。それの一つ一つが、私の心を安心させてくれていました。


「ふふっ、モニカは今日もお勉強かな? 熱心なのはいいけれど、たまにはきちんと休憩するんだよ」

「分かっておりますわ。アイザイア様は、いつまで経っても私のことを子供扱いするんですね。……私だって、もう立派な大人ですって何度も何度も……」


 そして、またいつもの言葉が連なっていきました。六つも年齢が離れていると、自然とこんな関係が出来上がるのかもしれない。それに、アイザイア様は私のことを私が物心つく前から知っていらっしゃいます。それこそ、赤ちゃんの時のことだってまだ覚えている、とおっしゃるのですから意地が悪いです……!


「分かっているよ。俺は今日一日予定が詰め込まれているからね。……朝からモニカに会えてよかったよ。今日も頑張れそうだ」


 ですが、何でもない風にそうおっしゃるアイザイア様は、いつも私の上を行かれます。どれだけ頑張っても、どれだけ願っても、アイザイア様は常に私の受けを行く。共に歩んでいきたい、と思っているのに、それが叶わない。その感情は、時に私を焦らせるものでした。


「……ありがとうございます。では、そろそろ私は……」


 だからこそ、私はいつも素直になれませんでした。アイザイア様に、共に歩んでほしいと伝えたくても、自分が頑張れば全て解決するのではないか、という考えが頭をよぎるからです。


 だから、私は素直に自らの気持ちをアイザイア様にお伝えすることが出来ませんでした。


「そうだね。じゃあ、またね。モニカ」


 なのに、そう言われると私の心は悲しくなってしまうのです。いつだって、私の気持ちを尊重してくださるアイザイア様。ですが、それはきっと妹のわがままを聞いている。そんな気持ちで相手をしてくれている気がするからです。いつまで経っても、私はアイザイア様にとっての「妹分」であり、どれだけ頑張っても「婚約者」にはなれないのではないか。


 そう、思ってしまうと自然と辛くなってしまうのです。


 それが、私がアイザイア・フェリシタル様に向ける気持ちの、全てでした。

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