第36話 『モニカの嫉妬心』 ③
「……なんで」
アイザイア様の、そんなつぶやきが聞こえてきます。「なんで?」なんて、アイザイア様も変な質問をされますよね。私がここに居たらいけない、とでもおっしゃりたいのでしょうか? そう言うの、おかしいです。今までのアイザイア様だったら、こんなことなかったのに。だからこそ、私は振り返ることもせずに言葉を発しました。
「……なんででも、です。早くレノーレ様の元に戻ってください。私よりも……レノーレ様の方が、お好きなのでしょう?」
私はただそれだけを、言う。こう言えば、アイザイア様はレノーレ様の方に戻られるのではないか。そう、思ったからです。もしも、ここでレノーレ様の方に戻られたら、所詮私はその程度の価値しかない女ということなのでしょうね。アイザイア様にとって、私なんてそんなもの。そんなことを、思ったのです。
「……私よりも、レノーレ様の方が良いのでしょう? だからこそ、レノーレ様と一緒に居られたのでしょう?」
「……」
そんな私の問いかけに、アイザイア様は何もおっしゃってくださいません。ただ、黙って私の腕を掴まれるだけ。その掴まれた腕が、痛い気がしました。力は、込められていないはずなのに。どうして、痛むのだろうか。そう、思っていた。
「俺は、モニカの方があの娘よりもずっと好きだよ」
アイザイア様がそんなことをおっしゃってくださっても、私は信じられなかった。だからこそ、首を横に振りました。それは、私の明らかな拒絶でした。なのに、アイザイア様は引いてくださらない。ただ、私の腕を掴まれるだけ。
「信じられませんから」
だから、私はそう言っていました。信じられない。信じたくなんてない。けど、信じたい。そんな気持ちが、心の中で混ざり合い葛藤になる。胸の中で、ざわめきが強くなる。……もう、嫌だなぁ。
「そうだよね、信じられないよね」
私の言葉を聞かれたアイザイア様は、ただそれだけをおっしゃいました。そして、私の腕を放してくださいます。だから、私はそのまま立ち去ろうとしました。一歩一歩、足を踏み出してアイザイア様から離れようとする。だけど、そんな時、また後ろからアイザイア様が私のことを追いかけてこられて……私の腕を掴まれました。いったい、何だというのでしょうか。
「――何でしょうか」
「今は、信じられないかもしれないけれどさ。いつかは信じられるようになると、思うから」
「なんで」
「……信じてもらえるように、また頑張っていくからさ」
そんなお言葉とほぼ同時に、アイザイア様がどこかに立ち去って行かれた。それは、振り向かなくても分かりました。足音が、遠ざかっていくのが聞こえたから。
(……きっと、レノーレ様のところでしょうね)
自分で拒絶しておきながら、そんなことを思い悲しくなってしまう。判断を誤ったのではないか、と思ってしまう。そんな自分勝手な思考回路に、私はまた惨めになってしまった。
そして……これから起こる、波乱万丈な日々。アイザイア様の行っていたこと。すべてが――私の精神状態を、疲弊させていくのでした……。




