表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/61

第3話 『モニカ・エストレア』 ③

「とりあえず、王宮内でもぶらぶらしようか」


 アイザイア様のその一言で、私とアイザイア様、そして数名の侍従たちは王宮を散歩することになりました。王宮内を散歩、とはいっても特に行く当てもなくぶらぶらとしているだけです。歩きながら、会話をするだけ。そんな時間。でも、私はそんな時間がすごく好きでした。いつもお妃教育などで時間に追われているため、何でもない時間はとても大切で、とても大好きな時間だったからです。その時間を、大好きな人と一緒に過ごせるのならば……これ以上に、良いことはないでしょう? そう言うことです。


「いつも思うが、お妃教育はどうだ? 辛くはない?」


 いつものように、アイザイア様がそんなことを尋ねてくださいます。現状を尋ねてくださる、ということも私にとってとても嬉しいことの一つでした。私に興味があるのだと、思えるからです。政略結婚と言えば、愛のないものが多いです。ですが、私だって年頃の女の子の一人。少しぐらい、結婚に夢を見たっていいじゃないですか。愛されたい、って思ってもいいじゃないですか。


「厳しいですけれど、辛くはないですわ。これも、全て将来の為ですから。私、アイザイア様のお隣に立派になって並べるように、頑張るって決めましたの」

「……それは、頼もしいな。楽しみにしているよ」


 そうおっしゃったアイザイア様が、数回ポンポンと私の頭を軽くたたかれました。その行動は、私が幼い頃からずっと好きだった行動でした。とても落ち着いて、心地の良いものなのです。でも……その行動に、少なからず不満があるのもまた事実。


「もう、いつも言っておりますが、子供扱いしないでくださいませ! 私だってもう十八。立派に大人の仲間入りをしているんですのよ? 頑張って淑女になろうと努力しておりますのに……」


 フェリシタル王国での成人年齢は十六歳です。そして、男女ともに正式な結婚が認められるのが、その一年前の十五歳。貴族の場合、社交界デビューを十二歳辺りで済ませ、デビューから二、三年かけて婚約者を探すのが常です。


 ですが、私は生まれてすぐにアイザイア様と婚約しました。お妃教育は呑み込みの早い、若い頃からするべきというフェリシタル王国の伝統の為です。


「そう言うところは、本当に子供だな。淑女は子供扱いされたぐらいで怒ったりはしない。……まぁ、モニカの場合は可愛らしいから許せるけれど」

「……私だって、もう立派な大人ですのに! いつまでも可愛らしいとか言われたくありませんわ。いい加減、綺麗だと褒めてくださいませ!」


 そんな言葉を名が捨てて、私が拗ねたようなフリをすれば、アイザイア様がすぐに笑い出されます。それは、周りから見ればとても仲の良い婚約者同士の戯れ、にしか見えないと思います。


「無理だな。少なくとも、あと二年は可愛らしいままでいてくれ。二十歳になったら……いくらでも綺麗だと言ってやるから」

「……本当、ですか?」

「あぁ、本当だ。俺はモニカとの約束は破らないからな」


 アイザイア様のそのお言葉を聞いて、私は嬉しくなりました。私だけが特別だ。そう、言われている気がしたからです。


「約束、ですからね」


 にっこりと笑い、私はそう言いました。ずっと、この関係が続けばいいのにな。この時の私は、偽りなくそう思えていたのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ