第28話 『この気持ちは……何?』 ①
あの日から、またしばらく経った頃。私は王宮内を気分転換に散歩していました。のんびりと歩きながら、時折控えさせているヴィニーと会話をする。今は自由時間の為、私についてきている侍女はヴィニー一人だけ。というか、こっちの方が安心できます。ヴィニーと私だけだと、気が楽なんです。
(……はぁ)
ですが、私の気持ちは浮かなかった。だからこそ、心の中でため息一つ着いて、ドレスの上で輝くエメラルドのペンダントを握り締めました。あの日以来、私はこのペンダントを肌身離さず持ち歩いております。それは、そう言うお約束だから、です。それ以外の理由なんて、一つもない。普段だったら、アイザイア様からのプレゼントということもあり、すごく嬉しかったでしょうし、心が躍ったでしょう。だけど、そうならないのはきっと募った不安と不満の所為なのでしょう。それは、容易に想像がついた。
そんなことを考えたとき、不意に数人の女性の笑い声が聞こえてきました。この声は、貴族の方ではなさそうですね。きっと王宮の侍女でしょう。その声の聞こえる方に視線を向ければ、そこにあったのは侍女の休憩室。あぁ、やっぱり侍女か。そう思いながら、私は通り過ぎようとしました。
「あっ、ねぇねぇ、アイザイア様最近不機嫌じゃない?」
「あ~、分かるわぁ。もしかして、また婚約者の方と喧嘩でもしたのかなぁ?」
しかし、そんな声が聞こえたため私は足を止めてしまいました。それを怪訝に思ったのでしょう、ヴィニーが小さく「モニカ様?」と話しかけてきました。だから、私はただ小さくため息をつきながら「何でもないわ」とだけヴィニーに告げた。
最近の王宮内の噂はもっぱら二つ。一つは第二王子殿下のジャスパー様の専属侍女がまた代わったということ。そして、もう一つは……私とアイザイア様の関係が、歪になっているということです。喧嘩でもしているのではないか、と誰もが思っているようですが……。ただの喧嘩だったらどれだけよかったでしょうね。実際はもっと、違うことなので。
そして、私は心の中で「何とかしないとなぁ」と呟き、その場を立ち去ろうとしました。ですが、立ち去ることが出来なかった。次に……侍女たちが言った言葉が気になってしまったから。
「あっ、でもさぁ、最近アイザイア様どこかの貴族のご令嬢と個人的に会っているらしいわよ? もしかして、そのことが原因じゃない?」
「そうそう。確かビエナート侯爵家のご令嬢……だった気がするわよね。あのご令嬢、アイザイア様のことを狙っていたわよね? つまり、心奪われちゃったとかぁ?」
「ありえない……とまで言えないわよね。あの人、婚約者の方とは真逆のタイプだし。婚約者候補筆頭だったらしいしね、元々」
そんなことが聞こえてしまったから、私は立ち止まってしまったのだ。アイザイア様と、他のご令嬢がお会いしている。しかも、その相手はビエナート侯爵家のご令嬢……つまり、レノーレ様だなんて。その言葉を聞いた際に、心がチクリと痛んだのはきっと気のせいではないのでしょう。胸を押さえて、込み上げてくる感情を抑えました。あぁ、気にしたらダメだ。……これは、ただの噂なのだから。私はそう自らに言い聞かせて、その場を立ち去ったのでした。




