第12話 『ビエナート侯爵家での夜会』 ③
「あら? モニカ様じゃありませんか。ごきげんよう」
不意に、そんな声が聞こえてきます。なので、そちらに視線を向ければそこにはレノーレ様がいらっしゃいました。意地の悪く見える笑みを浮かべたレノーレ様に、先ほどまでの様子はなく、強気な態度だけです。相変わらず煌びやかで豪奢なドレスや装飾品を身に纏っておられます。そんなことを思いながら、レノーレ様の後ろにいらっしゃる取り巻きの方々に視線を向けた。彼女たちは、いつものようにレノーレ様のお言葉にだけ同意するのでしょう。いい加減、一人で喧嘩を売りに来ればいいのに。私はそう思いながら、必死に笑みを取り繕っていました。
「はい、ごきげんよう。本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
それだけ言うと、私は一礼をしました。私もレノーレ様も笑みを浮かべ、楽しそうに会話をしているように表向きには見えると思います。ですが、その内情はどろどろとしていました。これは、腹の探り合いであり相手に付け入る隙を探しているのです。私は、こういったことが苦手でした。それでも、貴族ということから少しぐらいは出来るのです。
「……あらあら、相変わらず今日も貧相な格好で。こんなのが未来の王妃だなんて、フェリシタル王国の未来が心配ですわ。王妃になるのならば、絶対的な権力を見せつけ、周りの手本になるような生き方をしなければ」
レノーレ様はそうおっしゃると、やたらに豪華な扇を取り出されました。もちろん、レノーレ様の後ろにいらっしゃる取り巻きさんたちは、レノーレ様のお言葉にだけ同意します。これは、いつものことですので気にしてはいけません。そう、自分自身に言い聞かせ、笑顔だけを浮かべる私。ですが、その言葉を聞いていくにつれ、どんどんその笑みがひきつっていました。
――いい加減にしてくださらないと、こちらも我慢の限界ですわ。
手のひらを握り締めながら、私はそんなことを思っていました。
「……周りの手本となるのならば、贅沢をする必要はありませんわ。仕草や性格で手本となるべきなのですから。……レノーレ様には、そう言うことが出来ないのでしょう? ですから、権力を見せつけることしか頭にないのです」
「なっ!?」
負けまい、と反撃を始めた私の言葉を聞いていくにつれ、レノーレ様の顔が真っ赤になっていきます。それは、きっと怒りからくるものだったのでしょう。今まで、確かに私はレノーレ様に反撃をしたことはありません。だからでしょう、きっと、心の中では思っていたのでしょう。私は反撃してこない、と。
笑顔で反撃をする私の言葉は、止まりませんでした。私自身も止めようとは思っておらず、今までの鬱憤を晴らすかのように、言葉を続けていました。
――今まで、散々我慢してきたのですからこれぐらいは良いでしょう?
そんな裏に込めた気持ちが、きっとレノーレ様にも伝わっていたのだと思います。レノーレ様は、それが許せないのでしょうね。だって、無駄にプライドが高いお方ですから。
そう思った私の予想は……大方当たっていました。
「あんたみたいな女!」
そう叫び、レノーレ様は勢いよく手を振り上げられたのです。
――少し、痛い目を見ればいい。
きっと彼女は――そう、思っていらっしゃったのでしょう。