9-21.本戦 三位決定戦
『さあ始まります三位決定戦!』
『選手の入場だあああああ!』
『爆発バフ!トラキチあーんど!ボンレスハム!』
『初見殺しのお手本!セリス&アネシア!』
『さあ二人はあのバフにどう立ち向かうのか!』
『負けた人にはホント申し訳ないんだけど、セリスアネシアペアのびっくり戦毎回めっちゃ楽しみなんだよね!』
『超分かる。エンターテインメントって感じ!』
『しかし相手は強さの象徴!トラキチ+200%だ!』
『なんだよその言い方wwww』
ぼっくんさんとけっとCさんの騒がしい解説を聞きながらフィールドに立つ。
隣のセリスはこういうとき、少し表情が読めなくなる。
「はじめまして、ボンレスハムです。助っ人アサシンさん」
「えっと、は、はじめまして……セリス、です」
「俺は一回会ってるな」
「そう、ですね。リーダーさんとご一緒した時に、ちらっと」
「そっちは」
「通りすがりの遊び人、アネシアです。どうぞよろしく、最強のファイターさん」
「例のネトストだな」
「すみませんその件は誠にご迷惑をおかけしましたほんとどこまで話伝わってる感じでしょうか本当にごめんなさい反省してるので許して下さい」
「あの、大丈夫ですよ。もともと知り合いでした」
「……そういう事になったのか」
「そういうことでした。最初から。フレンド登録はしていなかったので、合流が難しかっただけです」
セリスが少し強めに言う。
やばい泣きそう。
「さて、今回はどんなびっくりが出てきますかね」
「……楽しみにされているところすみません、今回はびっくりはないです」
「おや、言ってしまってよろしいので?」
「ええ。10秒で私達が勝つか、30秒でトラキチさんが勝つか、どちらかです」
「分かってんじゃねえか」
トラキチさんが獰猛に口元を上げる。
「その30秒が20秒にならねえ程度に、楽しませろ」
セリスが隣でアルディアナを構える。
『さあ始まります!カウントダウン!』
カウントダウン! 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 GO!
「「イカサマダイス」 貴方に特別な賞品を」
少々アクセサリーで無茶をして、命中率を10%上げてきた。今回に限り、百発百中は使わない。
初手の狙いは――――トラキチさんだ。
槍の振り回しで爆弾が切り捨てられる。
完全無敵を盾にセリスが正面から突っ込む。いつもと違い、攻撃をほとんど避けない。
セリスの頭にMISSの表示が踊る。
初手はボンレスハムさんは狙わない。時間猶予がたった10秒しかないので、中距離の奇術師と近距離のアサシンペアでは、後衛を狙う余裕がないのだ。
「ジャンプブースト」
残り5発全ての爆弾を蹴飛ばして後方に回り込む。
「月夜の魔人」
誰に向かってくかなんて知らない。ハムさんに向かってくれればラッキーだけど、鎌はまっすぐトラキチさんに向かっていった。
後ろに目でも付いているのか、剣のなにかのスキルで切り落とされる。
「踏み倒し イカサマダイス 百発百中 貴方に特別な賞品を!」
MP半損がなんだ、こっちの猶予は10秒なんだよ!
追加の6発をボンレスハムさんに叩き込むと、即座に移動してきたトラキチさんが拳スキルの百裂拳で相殺する。いや完全相殺じゃないな、多少入った!
トラキチさんの顔が凶悪に歪んだ。
また爆弾を4発動時に投げ捨てる。自爆で身代わりチャームが光って、HPが1残る。
「カードスロー」
トラキチさんにカードを投げる。セリスも追いすがり短剣スキルで挟撃をする。
――いやもう間に合わないな。タイムアップ。
「女神よ英雄を歌え」
視界が光の奔流に飲まれて、ボンレスハムさんが消えた。
いや何回見てもとんでもないな。
エフェクトも、バフも――――覚悟も。
+200%がついたトラキチさんが即座にターゲットを私に移す。
「神出鬼没」
高速で迫る剣を見て、フィールドの反対側、初期位置に転移する。
いつの間に槍に持ち替えたのか、信じられない速度で彼が突っ込んできて、
世界が、暗転した。
□■□■□■□■□■□
シアさんが落ちた。
トラキチさんが即座に剣に持ち替えてこちらに向かってくる。
立ち位置に気をつける。中央やや右より。ステータス画面が出るところ。
(シャドーダガー)
スキルを真横に発動する。
影のような小さなナイフが横に飛び、地面にぶつかる。
視界外でカツンという小さな音が鳴り、彼が一瞬止まった。
「奥義 真理の刃」
真正面から短剣の初級奥義が突き刺さり、
「五月雨切り」
一切怯まず発動した剣スキルに貫かれ、世界の色が、消えた。
『勝者!トラキチ&ボンレスハムペア!』
『ぐっどげええええむ!』
『すげえ!トラに奥義刺さった!!!!グッドゲームウェルプレエエエイド!!!』
「びっくりは、ないんじゃなかったんですか?」
復活したボンレスハムさんが苦笑交じりに言う。
「すみません、思いついちゃったので、つい…」
「いつ思いつかれたので?」
「シアさんが落ちた後です。無発声スキルってジャンプブーストくらいしかやったことがなくて、そもそも発動するかが賭けでした」
「セリスは本当にセリスですねぇ」
「シアさんそれ褒めてます?」
「褒めてます褒めてます」
そんな話の向こう側で、トラキチさんが金色の目をこちらに向けている。
「――――GG、そのうち再戦しろ」
「ご容赦願いたいです」
はたして私の返事は聞こえたのか。次の瞬間にはフィールドから消えていた。
「さて。私も失礼しますね」
「はい、対戦ありがとうございました」
「ありがとうございました」
ボンレスハムさんは、ふわりとした笑顔を残して退場した。