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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
九章 第四回公式大会

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9-8.本戦 一回戦第七試合 トラキチボンレスハムVSユーリンあんこ大好き

「とーらーきーちーか~~~~!!!!!」


 待機ルームで公式配信を開きながら、相棒(ニンカ)が唸った。


「どうした?」

「うぬぬぬぬ、この、ユーリンさんとあんこさん、応援してるんだけど……」

「そうなのか?」

「元々ユーリンさんは第二回大会のときからずっと応援してるの。今回はあんこさんとペアだしぜひ勝ってほしかったんだけど……」


 大会で応援しているプレイヤーがいるというのが、まず初めて聞いた。

 え、そんなことマジで一度も聞いたこと無いけど。いつもリーダーたち応援してたじゃん。


「へ、へえ?配信とかやってる感じの人?」

「たまーに配信っていうか、グリッチ動画みたいのは上げてるけど……再生数2、3桁とかのメモ動画的なやつ?」

「んっと、じゃあ知り合いなのか?」

「知り合いと言えば知り合い……グライドと組む前に、野良で一緒に遊んでくれた人」

「……それ、俺聞いていいヤツ?」

「――――ユーリンさん、あんこ大好きさん、ブレンナさん、神速のカス振りさん、ゆめおいびとさん、なつめのはなさん、マルカスさん、それから、グライド」

「?」

「野良で組んで、最後まで楽しく遊んでくれた人の名前」

「全部言えんの、ってか全部覚えてんの……?」

「なんかねー、こういうのどうも忘れらんないタチで。その中でこういう大会出てるのはユーリンさんとあんこ大好きさんだけなんだよね。だからいつも応援してたの。ユーリンさんは本戦常連なんだよ」


 ニンカが本当に楽しそうに話すから、何も言えなくなってしまう。


「――――ブロックされたことはさ、別にいいんだよ」

「すまん、顔に出た」

「んーん、いいの。あたしと組むと周りに迷惑かけちゃうから、ブロックは仕方ないかなって思ってる。それよりも、遊んだその時はちゃんと楽しかったって言うことのほうが大事なの」

「そうか」

「うん」


 そしてもう一度トーナメント表に目を落とし。


「とーらーきーちーか~…………」

「そこはもうどうしようもないからな」

「そーなんだよねぇ……勝ってほしいけど、これは流石に無理かなー……」

「ま、しっかり応援はしようか。ほら、始まる」



『さあ第七試合!ユーリン・あんこ大好きペア対、トラキチ・ボンレスハムペアです!』

『今大会唯一のファイターの登場だー!!!最強のファイターはどこまで貫くのか!?』

『パートナーも見極めの上手いボンレスハム選手!ビショップは予選では動きにくかったけど、本戦では強いぞ!』

『対するユーリン選手はいつものソードマンじゃなくて細剣士だ!?』

『最強のファイター対瞬速の細剣!なんだそれかっこいいな!』

『パートナーのあんこ大好き選手はバレットの繊細な操作が上手なブラックマジシャン!これは目が離せない!』

『さあカウントダウンです!』


 カウントダウン! 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 GO!


 ユーリンさんが駆け出す。狙いはボンレスハムのようだ。

 あんこさんが魔法の発動モーションに入る。

 トラキチは槍を手にしただけで動かず、そしてユーリンの切先が届くよりも少し早く、ボンレスハムが杖を大きく掲げた。



女神よ英雄を歌えへーロースアエイデテアー



「は?」

「え?」


『『うっそだろおおおおぉぉおぉおおお!?!?!?!?』』


 解説の大絶叫と共に、ボンレスハムが大爆発する。


 そして後には、




 全ステータス+200%、リジェネ状態の、トラキチが残った。




 女神よ英雄を歌え。

 ビショップのスキルツリーの中で、ないもの(・・・・)として扱われているスキルだ。

 取得に必要な前提スキルは、確かヒールⅠ、アタックアップⅠのみ……だと思う。あまりに使われないので、よく覚えていない。

 2人パーティ時のみ発動可能なこのスキルの効果は、パートナーに30分間全ステータス+200%・リジェネⅢを付与するというトンデモ効果だ。

 そのトンデモに対する対価はHPの全て、全損。このスキル使用による死亡はいかなる方法でも回避できず、死亡したキャラクターはバフ発動中いかなる方法でも復活できない。

 そしてスキル取得に必要なスキルポイントは、――――200ポイント(・・・・・・・)


『女神よ英雄を歌えは!200レベル分のスキルポイントを全部注ぎ込んでようやくこのスキルだけ取れるとかいうとんでもスキルだぞ!』

『スキルポイント重すぎてこれ取ったら他のスキル何も取れないぜ!』

『あれおま、ボンレスハム、お前それ予選棒立ちだったってことじゃねーか!?』

『知らないひと多すぎると思うから解説するよ!30分全ステ+200%・リジェネⅢ付きっていうバカバフスキルだ!』

『ペア専用!発動者は死ぬ!復活不可!』

『使われなさすぎて一瞬なんのスキルが発動したのか分かんなかったぞ!!!!』


 現在レベルカンストプレイヤーの所持スキルポイントは諸々合わせて250程度で、前提スキルとこのスキルを取ったら残りは48ポイント。レベル40プレイヤー並にしか残らない。

 更に言うと2人パーティ時にしか発動できないので、残された側は一人になってしまうという特大のデメリットを抱えており、どこぞのブラックマジシャンのロマン砲よりもない(・・)扱いのスキルである。


「え、大会って、登録したらスキル振り直しできないよね?」

「できない、白紙の奥義書も、白紙の指南書も使えなくなる」

「1週間、あの状態(・・・・)だった、ってこと???」

「びっくりすることを言ってもいいか」

「これよりびっくりすることある?」

「あのスキルの発動にかかる時間は、本来1分だ」

「今10秒くらいで発動したけど」

「そう、つまり残りのスキルポイントを全てチャージタイム短縮に注ぎ込んでる。他のスキルは下手したら本当に一つも取ってない。更に言うと10秒まで短縮するには、防具と杖とアクセサリー全部特化が必要だと思う……」

「うっそでしょ…………」


 ニンカの顔がわかりやすく引き攣った。

 画面では余裕の表情で手の感触を確かめるトラキチと、頬を引きつらせながら構え直すユーリンさんが映っている。

 少し長い沈黙。解説が終わるのを待っていたらしいトラが槍を構えた。

 素早さ三倍のトラキチが旋風のようにユーリンさんに接敵したと思ったら、中級スキルを入れて即落ちさせた。

 そのまま武器を剣盾に持ち替えると迫っていたバレットをジャストガードし、残りの球も切り落とす。

 そしてまた目にも止まらぬ速さであんこ大好きさんに接敵し、――――試合は終了した。


『げええええむせっとおおおおおお!!!』

『圧倒的だ!圧倒的すぎる!こんなのアリかよ!?』


『あ、ボンレスハム選手からメッセージきましたよ!』

『なんだなんだ!?』

『”予選ではちゃんとアタックアップⅠとヒールⅠを打ち続けていました”』

『『そおおおおいうもんだいじゃねええええええええ』』


 そりゃまあ、アレだけチャージタイム短縮してれば初期スキルなんてチャージゼロ秒で打ち放題だろうよ……初期スキルはクールタイムは短めだし。200レベルプレイヤーに今更ヒールⅠを打ったところで焼け石に水だけども。

 目の前では茜色の髪の相方がテーブルに突っ伏して震えている。


「応援、する暇すらなかった……」

「メッセージとか、送らないのか?」

「いや、えと、IDは知ってるけど……多分、ブロックされてるし……」

「送ってみろよ」


 ぽんぽんと頭を叩く。多分大丈夫だと思うから。


「なんて送ろう……」

「また遊ぼうって送っときゃいいんだよ」

「………っ………、おく、れた」


 ニンカが泣きそうな顔でこちらを見る。


「良かったな」

「うんっ、うんっ、よかった!」


 へにゃりと笑った彼女の頭を、とりあえずわしゃわしゃと撫でておいた。



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