9-2.予選 Bグループの窓の向こう
「「うーーーーーーーーん」」
予選Aグループの配信を開いて、二人で同時に声を上げてしまう。
「予定してた動き、だめですねこれは」
アネシアが難しい顔で言った。
「セージの覚醒効果ってPvPだとフィールド全域なんですね……」
「正直、乱戦の場合は正面敵対のAI判定だと思ってましたね……」
「ね」
セージの覚醒技の「敵性キャラクターの強化を解除」という効果、勝手に「解除する対象をセージが選択する」あるいは「敵対状態をAI判定」だと思い込んでいた。
PvPをやったことがないのと、そもそもPvP大会の告知があって検証内容の出し渋りがあったのとで、そのあたりの細かい仕様はよく分からなかったのが大きい。
とにかく、セージの覚醒技は大規模PvPだとフィールド全域効果になるらしい。困った。
元々奇術の時間を使用して私が首刈り人間になる戦法を予定していたので、作戦がたった今ゴミ箱に捨てられたところだ。
『さあ始まります予選Bグループ。選手の入場です!Bグループは7ブロック898人になります!』
『カウントダウン! 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 GO!』
二人で開いている公式配信からカウントダウン音声が入り、予選Bグループがスタートした。
豪華なバフのエフェクトが乱れ飛び、セージのさざなみのような覚醒効果が広がってエフェクトが消え、そしてまたバフエフェクトが乱れ飛ぶ。
そうこうしている間に前衛組は前衛組でスキルが飛び回り、あっという間にフィールドの人数は半分ほどになった。
振り分け表を確認する。
予選の仕様の問題で仕方ないのだけど、全体的にビショップとロイヤルガードは少ない。アコライト系はパラディンが多い。
奇術師対策なのか、予想していたよりもセージが多く、なんならブラックマジシャンより多いくらいだ。
アサシンはまあまあいるが、全体数で考えたら少ない気がする。乱戦になると死にやすいからかな……。
うーんうーんと手持ちスキル一覧を表示し、詳細を開いては閉じ、開いては閉じ。
できれば予選くらいは突破したい。
このままじゃ話題にもならず、何もできずに死ぬことになる。
いくつか目のスキルを開いて、まあこれは前提スキルだから取ってるだけの死にスキルで、と閉じようとして、はたと手を止めた。
外部ブラウザをもう一つ開き、ユーザーWikiを表示する。
使ったことのないジョブのスキルツリーを確認し、いくつかのスキル詳細を見る。
それからいくつかのジョブでおすすめのスキル編成の項目を開き、PvPでのおすすめ装備の項目を見比べて……
――――なるほど、私はもしかすると、とんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
「シアさん」
「ん、はい、なんですかセリス」
「絶対に死ぬなと言ったら、可能ですか?」
「予選でですよね?」
「はい」
「えーと、初手事故はどうしてもあります」
「まあそうですよね」
「でもそれ以外だったら、今回の予選ルールで逃げに回った奇術師を殺すことは不可能です」
アネシアが紫紺の瞳を向けて、
「奇術師というのはそういう職です。私は現在の奇術師――遊び人の動きなら、誰にも負けないという自信があります」
なんてったって年季が違いますから、と少しいたずらっぽく笑う。
「OK、シアさん、最悪ダメージはゼロでいいです。絶対に死なないでください」
「了解しました」
「ということで、作戦を説明します」
開いているBグループ予選では、トラキチさんが颯爽と予選通過を決めていた。
Bグループ本選出場者
シード:ななな(ランサー)・ぽいみん(ビショップ)
第1ブロック:恋歌(ソードマン)・緋想(ブラックマジシャン)
第2ブロック:オリオン(モンク)・Icebreaker(セージ)
第3ブロック:ゴースト(ブレイダー)・除霊するぞ☆(レンジャー)
第4ブロック:ユーリン(細剣士)・あんこ大好き(ブラックマジシャン)
第5ブロック:トラキチ(ファイター)・ボンレスハム(ビショップ)
第6ブロック:チーズケーキ(パラディン)・うに(ブラックマジシャン)
第7ブロック:きりんさん(奇術師)・ぞうさん(モンク)




