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「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
八章 サブリーダーの太陽

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8-5.深夜の全力疾走

 部屋着のスウェットをそのままにスマホと鍵をひっつかんで外に飛び出す。

 スニーカーの踵を踏んで苛立ちながら、脱げなければとりあえずいいとそのまま駆け出した。


 駆けながらスマホの着信を鳴らす。メッセージアプリの方も、電話の方も反応がない。


 徒歩10分の距離を今までで一番早く駆け抜けて、親友の住むマンションの扉を合鍵で開ける。

 靴はある。救急車の音はしない。心肺機能停止(クリティカルアラート)の場合は救急へ状況が飛ぶようになっているから、とりあえず最悪の事態ではないと信じたい。


 玄関の明かりをつけ家に上がる。

 足早にリビングをつっきって作業部屋に入る。


「ロイ!」


 薄明かりのついた部屋の中には、棺桶のようなVRポッドがでかでかと置かれ。







 すやすやと寝息をたてる親友が、そこにいた。







 リーダー@サザンクロス   1分以内

 ロイドですが、寝落ちでした。念のためVRポッドのバイタルチェッカーを起動しましたが、脳波・血流・心拍すべて異常ありませんでした。

 皆様には大変ご心配おかけしましたことをお詫び申し上げます。

 このあと起きたら説教です。




 つぶやいたーに投稿し、動画配信のコメント欄にも書き添え、方方の心配メッセージに対して返信を行う。

 そこまでしてようやく安心して親友の寝顔を覗き込めば、色素の薄い髪に隠れるように、目の下に隈が浮いているのが見て取れた。


 親友(ロイ)が体調管理を失敗するのは本当に珍しい。

 よく色々やりすぎて寝不足になる俺に比べて、こいつは時間を守ってきちんと寝るし、調子が悪いときは毎回必ず事前に伝えてくれていた。


 今にして思えば、ここ数日ちょっと様子がおかしかった。

 なんだかタイミングが合わなくて色々な打ち合わせができなかったり、ワークスペースへの出入りが少なかったり、要件が終わるとさっと帰ってしまったり。ギルドハウスで見かけるときはいつも何かウィンドウを操作していて……。

 どれも一つ一つはたまにあることで、それほど気にしていなかった。年末年始に襲い来る色々な法的書類の処理を任せてしまっているので、そろそろ忙しい時期か?くらいに思っていた。


 それでも、例えば去年であれば、忙しいから今週は配信出れないとかそういうことを教えてくれていた。

 今日の配信だって、最初の告知だけいてくれれば後は別行動のていでロイは上がってしまってもよかったのだ。

 なんとなく、最近一緒に遊べてないしよければ一緒に大量虐殺すっかと誘って、ロイも少し考えた後にそうだなと普通に返してくれた。


 ――――普通、だっただろうか。


 なんだか思考時間の長いぼんやりとした返事ではなかったか。

 配信中の雑談も、普段なら匿名希望(セリス)の状況に配慮して彼女の話題は早めに切り上げるはずじゃなかっただろうか。


 俺が、気づかなきゃいけなかったのに。



 作業用のデスクに腰掛けて、ただぼんやりとスマホを眺める。

 つぶやいたーの先ほどの投稿に、安心したコメントや、起きたら一応病院受診を勧めるコメントが多数ついている。


「病院受診は勧めてみます。というか今年忙しくて健診サボってた気がするから、行かせますっと」


 何もしていないと思考がどんどん悪い方向に進むので、他の配信状況や新作ゲームの情報を仕入れることにする。

 年始のいろいろが落ち着いたら、他の新作ゲームも多少手を出したい。人気タイトルの新作が出るはずなので、ストーリークリア程度はしたいところだ。



「っ、はっ」


「ロイ?起きたか?」


 ポッドの中から彼の声がする。

 だけど返事はなくて、ただ苦しそうなうめき声だけがかすかに響く。


「ロイ?どうした、起きろ。ロイってば」


 顔色を真っ青にしてうなされている親友の肩をグラグラと揺らす。


 ややあってロイは薄っすらと目を開けて。


()は……」

「おう、どうしたロイ。変な夢でも見たか?」

「なん、で……?」

「なんでって、配信中にぶっ倒れた親友の様子を見に来たんだが?」

「はい、しん……」


「配信は!?」


 がばりと跳ね起きたロイの頭にデコピンを一発。


「中断した。とりあえずお前が寝落ちてたことはつぶやいといたから」

「それは……すまない」

「ん。とりあえず、体調が悪いならちゃんと言え。別に今日の配信はムリに二人でやる必要はなかったんだから」

「いや、体調が悪い、わけでは」

「体調が悪くないやつは目の下に隈こしらえて配信中に寝落ちた挙げ句うなされたりしないの!」

「っ、うなされて、いたか」

「結構起こしたけどなかなかおきねーし。ビビったんだけど」

「なにか……言っていたか?」

「?誰が?」

「あ、いや、なんでもない」

「……で、体調はどうした?」

「なんでもないよ」

「ロイ」


 うつむいて顔を上げない親友の顔をぐいと引き上げる。



「なんでもない顔ができないなら、なんでもないなんて言うな」



 親友の瞳には、確かに恐怖の色が灯っていた。



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