7-4.人気投稿者とショート動画
大急ぎで仕上げたショート動画を投稿し、つぶやいたーにネタバレの可能性アリ注意と但しを付けて投稿した。
ものすごい早さでユーザーWikiが更新されたのを確認し、そのうちの一部だけ書き換える。
発見者 匿名希望
流石に今回は俺の名前が入っているのは嫌だ。現状では実質名前出しに近いものである件については目をつぶってもらった。
ワークスペースの解錠音がして、親友が顔を出した。
「よっ」
「お前、何をしていたんだ?」
「あ、もう動画見たー?」
「動画を見た他のプレイヤーからメッセージが来た。動画はこれからだ」
稲妻鳥の落雷を避け、高速で稲を回収し撤収、鑑定結果を表示するというだけの1分動画だ。
――使い所は例のあそこです。撮影禁止だったのでどうなるかは自分で見てね。非戦闘エリアでした。
とだけつぶやいたので、今頃新規エリアは人でごった返していることだろう。
「てっきり、ニンカかグライドのところに居ると思っていたんだが」
「合ってるよー。グライドと話して、ニンカのところにけしかけて、ニンカといっしょにいたセリスと合流して一緒に遊んでた」
「遊んだ結果が新規要素の発見と動画投稿か……本当に何をしているんだお前は」
「んー、強いて言うなら、勧誘活動?」
「ああ、結果は……芳しくなかったか」
「そんなに顔に出てる?」
「そうだな、ギルメンの前には出ないほうがいいだろう。また捨てられそうな子犬みたいだと言われかねない」
「……ほんとに、俺どんな顔してるの?」
ロイは「気になるなら鏡を出せ」とだけ言って、何か考え始めてしまった。
絶対見ないよ。絶対だ。
「うちのギルドに入らない?」
そう言うと彼女はぽかんという顔をして、それからぐるぐると瞳を彷徨わせた。
正直なところ、ためらわれることすら想定していなかった。
ニンカとはちょくちょく組んでる様だし、相方関連の込み入った相談もし合うような仲のようだ。
俺やロイドともそれなりに話すし、何度か遊んだ感じ誰かと一緒に遊ぶのが嫌という気配は受けなかった。
そもそもそのレベルで嫌だったなら、最初の誘いにも乗らなかっただろう。
だから多分彼女は、自分から声をかけるのが苦手なだけで、イツメンが固定されればそれはそれでいいというタイプなんだろうと思った。
レベルはギルドメンバーと比較すれば低めだが、180近いのだから十分に超上級クラスでも連れていける。
何よりアレだけのプレイヤースキルがあれば、レベルなど飾りだろう。
それに、彼女の状況に罪悪感もあった。
なんと言っても最初に倒したボス、炎の魔神は、倒せる予定ではなかったのだ。
グライドがボス挙動をすべて見終わる前にジャスガするか蒸発するかの二択で、できれば避けタンクができる人に頼んで視点が欲しいと言っていた。
それで、ゲーム内検証のつもりで誘い、――――クリアしてしまった。
俺もロイもクリアに浮かれてあまり深く考えずに動画を作成し、結果として彼女と、イカサマダイスがバズった。
数日経って少し下火になり始めたところでディレクターズインタビュー内で動画が紹介され、普段サザンクロスチャンネルを見ないような人の間でも彼女が話題になり、状況が再燃した。
あの動画から3週間経った今でも、彼女は普通にプレイできない状態が続いている。
うちのギルドに入れば、とりあえず状況は改善する。
ギルド員が匿うことが容易になるし、ログインやキャラ切り替えにギルドハウスが使えるようになる。つきまとい行為に対し「サザンクロスギルドからブロックする」ことを宣言もできる。
ギルドからブロックされると、サザンクロスが主催するイベントに参加できなくなるので、ある程度EFOをやっている様な人たちであれば最低限の民度は保たれるだろう。
そういうことを伝えたら、彼女は泣きそうな顔で視線をウロウロさせながら、
「フラレると思ってなかった」
「言い方」
「いやだって、そうじゃん?」
「まあ、そうだが」
「考えさせてください、だって」
「ああ、明確に断られた訳ではないのか」
「うーん、そうだけど……」
「色々なギルドから勧誘が来ているだろうし、最終決定権は彼女にあるからな」
「それは分かってるけどさ~!」
「まあ、後でニンカにそれとなく聞いておいてもらおう。何か事情がある可能性だってある」
「うー、そうだね、そうしよう」
ニンカって「それとなく聞く」ってできるのかな?まあいいか。
「ニンカとグライドもやらかしてるが……まあこちらはもうどうしようもないな」
「なんかやらかしたの?」
ロイが見ていたページを共有してくる。公式BBSの見慣れた形式で、タイトルにはこう書かれていた。
【メイン盾】ボートタウンで愛を叫ぶ【メイン火力】
…………本当に、なにをやらかしたの?




