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「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
七章 ソロアサシンはトップギルドに誘われる

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7-3.ソロアサシンはトップギルドに誘われる

 敵意の塊の効果時間中のため、そこら中のモブ敵が反応するのだけど、リーダーさんがすごい勢いで片っ端から倒していく。

 始めは歩いていたはずの移動は段々と早足になり、今は全力疾走に近い。


「ここ、中継地点、登録しとくと良いよ」


 途中一箇所だけ止まったのは中継ワープポイントで、近隣のタウンからこのフィールドに入る時にここに直接飛べるようになるマーカーだ。

 本当にその登録の一瞬以外はほとんど止まらず、なので私はリーダーさんが何を焦っているのか良くわからないまま付いて行った。


 そして走ること10分少々。

 到着したのは遠くから見えていた古びた石造りの神殿だった。


「ここ、ボス戦するところですよね?」


 神殿前にはボス戦前に調整をしているらしいプレイヤーが2パーティほどいるが、他に人は見当たらない。

 ちらちらとこちらを見られてはいるが、誰も話しかけたりはして来なかった。最前線って民度いいんだな……。


「そう。こっちが入口」


 神殿の中に入る。

 あまり人が出入りしていない体なのか、どことなく埃っぽい気がする。


 最奥には明らかに何か置いてくださいと言わんばかりの祭壇がある。

 祭壇の側面には文字が刻まれており、近づくと訳語が浮き出て見える。



 神への供物を捧げよ



「ほう?」

「急いでた理由は分かった?」

「いや、え?ここ、稲供えたらボス戦って言ってましたよね?」

「うん、今プレイヤーが供えてる稲はこれ」


<神に捧げる田園の稲> ランク3 木

 神に捧げる田園から採れる稲。



 ()()()()()()()()()()()()、まさしくこれが供物だろう。


 はい、ここでもう一度さっきの稲を見てみましょう。


<雷光の御子> ランク5 木雷

 雷を宿した稲穂。

 雷の子にして神饌。


 神饌、つまり神様への供物ですね。

 つまり、えーと?


「普段採れるのは、"神に捧げる田園"の稲ではあるけど、"神に捧げる稲"ではない……?」

「そういうことだと思う。こっちが、正しい捧げ物だ」

「それは、どこかに情報は……」


 リーダーさんがにっこり微笑って、祭壇を指差す。


「ま、やろうか。鬼が出るか蛇が出るか。覚悟はいい?」

「……即死しないように気をつけます」


 完全体ボスが出てくるかもってことですよね。即座にイカサマダイス打てるように構えとこう。


 私はそっと、雷光の御子を祭壇に置いた。




 世界がざーーーっとセピア色に染まる。

 次いで強い光に一瞬視界が真っ白になり、戻ったときにはあたりはすっかり一変していた。


 視界いっぱいに広がる田園には、重たく頭を垂れた稲穂が、黄金色の絨毯のように広がっている。

 茜色から薄墨に変わるきれいなグラデーションの夕暮れの空が上空いっぱいに見える。

 郷愁的な景色に思わず息を飲む。


 振り返った先には先程入ってきた神殿が――大変にきれいな姿になって佇んでいた。


 見上げた空の先に稲妻鳥のようなものが見えて慌ててイカサマダイスを発動しようとするが、発動に失敗した。


「あれは多分映像だね。実体はないと思う」

「そう、なんですか?」

「マーカーが出てない」


 言われて手で丸を作り拡大状態で確認する。確かにマーカーが見えない。

 プレイヤーには青、NPCには緑、ノンアクティブ敵には黄色、アクティブ敵には赤のマーカーが付く。

 一部隠匿状態の敵でマーカー非表示の事があるけれど、まあアレだけ見えていて隠匿ということはないだろう。


「攻撃系のスキルが発動しないから、多分非戦闘エリアなんだと思う。ちょっと歩き回っていいかな?」

「はい、行きましょう!」


 リーダーさんに付いて歩き回る。

 どこまでもどこまでも続くように見えた田園は、ある程度から先に進めなかった。

 反対側も神殿より向こうには行くことができなくて、景色はいいがエリアとしては大分狭いようだ。

 田園に実った稲は回収することができたが、こちらは何の変哲もないランク2の<稲>だった。

 神殿の中はきれいな内装になっているだけで特に変わらず、強いて言うなら祭壇の上にはきれいな皿に盛られた雷光の御子が捧げられている。

 神殿の奥にワープポイントがあって、おそらくそこから元の場所か、タウンに帰れるのだろうことが伺えた。


「ストーリーエリアかな」

「そんな気がしますね」


 多分、次のストーリーでここに来ることになるだろう。そういう予感がする。

 神殿外の階段に腰掛けて田園風景を見ているだけでいつまででも時間が潰せそうな、美しいエリアだった。


「きれいです」

「いつまでも続く夕暮れ。誰かの記憶、とかかな。神殿もきれいになってるし」

「そうですね。前回のストーリーは緑の慈母神についてでしたし、今回は雷鎚の神?の話ですかね」

「かもねー」


 時折吹く優しい風。さざなみのように広がる稲穂の擦れる音。遠くに聞こえる稲妻鳥の鳴き声。

 ゆったりと眺めていた私に、リーダーさんが声をかけた。


「ねえセリス」

「はい、なんでしょう?」

「もし君が良ければなんだけど」

「はい」

「うちのギルドに入らない?」



 それは多くのEFOユーザーが欲してやまない、サザンクロス(さいきょう)への招待だった。



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