7-1.ソロアサシンと首刈り兎
5章9話直後からのお話になります。
「新エリアもう行った?結構楽しいよ」
フレンド:リーダーからパーティ申請が届きました。
パーティ申請を受理しました。
パーティリーダーは リーダー です。
「えと、行ってないです」
「じゃあ行ってみようよ。あ、キャラメインにしたら?最近レベル上げできてないっしょ?」
「えーと、ご迷惑になるのでは……」
「俺と一緒だったら大丈夫だよ」
……まあよく考えたら、リーダーさんの方が人気だから今更か。
お言葉に甘えてメインに切り替える。
藍色の髪に黄色の瞳、上忍装備に身を包んだ178レベルアサシンだ。
「こっちならレベル差もほどほどだね。じゃ、行きますか。セリス」
「――――あ」
「?どうした?あ、呼び捨て嫌だったりする?」
「いえ、それは全然。あーその、名前、セリスって、久々に呼ばれたなと」
「え、ニンカと組んでたよね?なんて呼ばれてんの?」
「”匿名希望ちゃん”と、呼ばれております」
「ごめん流石に後で言っとく」
「いや!えっと、全然嫌とかではないので!大丈夫です!」
一周回って名前を呼ばれると違和感がある、とは言えない雰囲気だ。
「あ、あの!新規エリアまだ情報何も見てなくて!どういう感じですか?」
「ん、んー、楽園の農場はねー、エリア的にはなんか、ほのぼのした場所」
「ほのぼの」
「アクティブモンスター皆無の果樹園、多種多様な薬草の生えてる畑に、かなり広い田園、天気は基本的には朗らかな晴れって感じ」
「あ、本当にほのぼのなんですね」
「うん、果実をもぐと高速でバックアタックから急所を狙ってくるお仕置きモンスターが出る。薬草はそっくりなマンドラゴラが一緒に埋まってて、うっかり引き抜くと即死絶叫を食らう。水没フィールド扱いで足を取られる田園フィールドにはドジョウって名前のモンスターが不可視状態でいて、踏みつけるとあほほどダメージ食う。あと不定期に激しい雷雨になって、雷雨中に来る大きい鳥型モンスターが凶悪な感じ?」
「ほの……ぼの……?」
「ほのぼの(200レベル基準)」
リーダーさんは、リーダーさんだった。私生きて帰れるだろうか。
「まーなんていうか、次のストーリー用のフィールドなんじゃね?って意見が主流かな。あんまりにアクティブモンスターが少ないから」
やってきました楽園の農場。
ほんとに朗らかな陽気だ。お昼寝に良さそう。
「じゃ、やっていきますか。りんご狩り」
「やるのはりんご狩りなんですね……」
「ポップ条件固定のモンスターだから、少人数で戦いやすいんだよね。あと最悪勝てなくても時間経過で消えるから、勝てそうになかったら全力で逃げる感じで」
「了解です」
新規フィールドは賑わっている。
楽園の果樹園はある程度スペースを開けつつパーティがまとまっている。なるほど、みんなこれから果物取ってお仕置きモンスター戦なんですね。
「イカサマダイス」
サイコロのエフェクトが踊り、宵闇の短剣を構える。リーダーさんに向かって頷くと、彼は良く実った大きな林檎をもぎ取った。
空気が変わる。
薄ら寒い怖気が周囲の空気を巻き取り形になる。
リーダーさんの背後に、漆黒の兎がゆらりと現れ、剣の様な大きな耳をまっすぐに彼の首に突き刺した。
彼は分かっていた動きでひらりと躱し、首刈り兎と相対した。
このレベル帯にしては非常に珍しく毒は有効らしいが、一定時間で消えてしまうボスなので毒だけでは倒せない。
正面はリーダーさんが持ってくれる。狙うのは、後ろだ。
「ポイズンショートソード!」
まずは毒を入れる。そう思って振った攻撃が空を切った。
え…動き、はっや!?
シュンシュンと跳ね回る大型のウサギ。
薄い耳の先がギラリと光ってリーダーさんを襲い、彼は盾で受け止めカウンターを入れ……られてる?当たってるのあれ?
ウサギの移動を線で追うように短剣を差し込む。
確かな手応えと、毒のエフェクトが走った。
よほど運が良くないと、スキルを当てられる気がしない。
そしてややぶれて見えるHPバーだけど……気のせいでなければ、ほとんど減っていない。
置き技に近いスキルをいくつか入れるけど、半分も当たらない。
何度目かの毒エフェクトが走り、相手のHPが削れる。
毒の入り方的にHPはそれほど高くはなさそうだけど、「毒ダメージだと半分くらいしか削れないと思う」と言っていたし、そろそろ制限時間が近いんじゃないだろうか。
どうする、どうする、どうする。
私の火力じゃ足りない。じゃあ、リーダーさんなら?
でも彼が正面を持ってる間は、多分まともに攻撃は入らない。
それなら。
「リーダーさん!」
「っ!?」
「ヘイト、もらいます!」
ジャンプブーストで飛び上がり近場の木から果実をもぎ取る。
首刈り兎がギロリとこちらを向いて、ヘイトが移った。
「え、ちょま、剣士の速度だときびし…!」
リーダーさんが首刈り兎に剣を振るうが、通常攻撃はともかくスキルが上手く当たらない。
ええ、分かってます。分かってますよ。右、左、後ろ、右、……今だ、正面。
突き刺すようなウサギの突進。
その鋭い刃のような耳に。
まっすぐ、手を突き出した。
MISS
手のひらに突き刺さる刃の耳。
MISS
甲を貫通して伸びてくる先端。
MISS
長い耳が完全に手の奥まで突き出して。
MISS
届いた頭を握り込む。
MISS
貫通による連続ダメージが続く。
MISS
右手の短剣も落とし、喉を掴み取る。
MISS
「奥義」
ウサギの向こうから、彼の声が響く。
「斬釘截鉄」
「まじビビったからやめない?それ」
「いやーこうでもしないと勝てないなーって」
「そこまでして勝つ必要のある相手じゃないからね?」
「できそうだったので、つい」
「いや……まあ良いけど、いいけど良くないよ?」
リーダーさんが笑いながら座り込み、私もそれに習って横に座った。
「首刈り兎初撃破、おめでとう」
「ありがとうございます。あの、参考までに、普通はどうやって倒すんでしょうか?」
「盾持ちが受けて、メイジ系が拘束技で捉えて、アタッカーが一閃する」
「あ、じゃあ似たような感じなんですね」
「ぜんっぜん違うからね?」
「リーダーさんならやってくれるって信じてましたし」
「いやそのっ……ほんと、そういうの良くないよ!?」
くすくすとした笑い声が、朗らかな空に響いた。




