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6-3.とあるリスナーの述懐2

『っしゃログイン!ユーザーネーム"トラ"がベータ組に取られててな。トラキチでやってくんでよろ』


「トラキチって自分で言うのかよwwww」


 トラ印のバトルキチガイ、トラキチ。ぶっちゃけアンチが使う蔑称なんだけど。自分で名乗ってくの強すぎないか。そういうところ大好きだよ。

 別にユーザーネーム被ってても生体認証込みだから使えるはずだけど、名前二番目を嫌がってるところもらしくて(・・・・)いい。


『ストーリー?ああ、なんか必要そうだったら裏でやっとくわ。とりあえずレベ20で就職できるらしんで速攻で上げてく』

『ジョブか、あーまあとりあえずファイターだろ。どうせ俺様が使うジョブが最強扱いになるんだからいんだよ』

『お、ギルド作れんじゃん。作るぜ、トラ小屋。イツメンが入り終わったら残りのギルメン募集すっからお前ら来いよ』

『ギルドランキング。ですぺなるてぃとオルタナティブ、それからサザンクロスね。まあこのへんはベータ組が初動強いわな。首洗って待ってろ、すぐ抜いてやっからよ』


 この頃は本当に楽しかった。

 ゲーム自体の出来もかなりよかったのもあって、ストレス低く始められた。なんだかんだでNPC交流にみんな疲れていたというのもあったんだろう、それなりに有名ゲームからの移住者も多かった。

 トラの配信を見つつストーリーをやりつつ後追いしていたが、笑えるくらいの速度で差が開いていく。あーコレがトラだよなーと思いながら、いつも配信を見ていた。



『あー、スコラン(スコアランキング)は無理だろ。あれシーフ以外でトップはとれねーよ、今んとこシーフやる気はねーから。っぱ正面からぶち当たってこそアタッカーだろ』

『ああ?ギルメンが偏ってる?いンだよ物理アタッカーは最強の俺様がいんだからよ』

『っしゃ、見たかオイ、オルタナティブ抜いたぜギルラン3位!』


 楽しかった日々がおかしくなり始めたのは、一回目の大規模イベント、1on1PvP大会のときからだった。

 決勝で当たったサザンクロスリーダーに、負けたのだ。


 準決勝までは本当に圧倒して勝っていた。

 槍剣拳各武装すべてを試合中に(・・・・)瞬時に切り替える試合運びは圧巻だった。


 決勝のリーダーだけが、トラの変幻自在なスキル運びに一切怯まず、剣士が持てる最大サイズの盾を片手にジャストガードをしきった。

 優勝インタビューで、第1試合のトラを見てから大慌てでギルメンに作ってもらった装備だったと話していた。

 即日トラメタ装備を用意できる分厚いサポート体制と、それを使いこなす本人の気質が合わさった、完璧な試合運びだった。

 二年近く経った今でもソードマンタンクのお手本動画として紹介されるほどだ。当時はまだ二次職がなかったので、ファイターなのに。

 それでもトラだって一歩も引かず、名試合投票で二位にトリプルスコアをつけた熱い試合だった。


 いい試合だった。相手が一歩上だっただけで、試合中に装備コマンドから武装を切り替えるという離れ業が話題性抜群だったし、それを使いこなすトラキチ(プレイヤー)も絶賛されていた。

 誰もトラを罵ったりはしなかった。



 ――――トラ自身を除いては。



『あのクソ野郎に、ぜってえ勝つ。俺は最強になる』



 そこからのトラは、控えめに言って修羅だった。

 コンマ何秒に関わるスキル回しの研究に始まり、全武器のコンプリートと使い比べ。レア武器レア素材回収のためにギルドのサポートメンバーはずっと駆けずり回っていて、少しでも集まりが悪ければ容赦のない怒号が飛んだ。

 そして何よりも、PvP練習のためだけ(・・)に高位ファイターをギルドにスカウトした。

 …………サンドバッグにされる日々に、最初の(・・・)ファイターが1週間で引退した。歴代所属ファイターの最長記録である。


 ハーフバースアニバーサリー大規模アプデで二次職が追加された。トラは『どう考えてもファイターが一番強い』と言って転職しなかった。

 リーダーがソードマンに転職したと聞いて、スカウト対象がソードマンになった。

 すでにファイター系プレイヤーに悪名は響き渡っていたが、ギルラン2位(・・・・・・)のギルドに無条件で所属できるというのは魅力的なのかいつも一定数所属希望がおり、……平均所属日数は、3日だった。


 その後第二回大会の2on2PvPでは、サポメンが育ちきらず3位だった。ペア戦なのにほぼ一人、しかも一次職(ファイター)で3位まで上り詰めたのは驚異的だが、世間の目は冷ややかだった。


 なにかの拍子にサザンクロスのメンバーに会えば口悪く罵り。リーダーに会えば場所タイミング問わずPvPを申し込み煙たがられ。

 リーダーが配信で『失礼なやつだな』でさらっと流しているのが気に入らないのか口調がどんどん悪くなり。


 ある時、公開されていたギルド会議の様子が非公開になった。


 しばらくして、ファーストクロニクル時代から支えていたサポメンが引退を宣言した。


 そのあたりを皮切りにボロボロと欠けていく古参。新規に入ったメンバーもほとんど居着かず、いつ動画を見てもギルドハウス映像には違うギルドメンバーが映っていた。

 トラはトラで新規ギルメンを全く把握していないらしく、「おい」とか「お前」としか呼びかけていない。

 配信の同接はどんどん減り、新規ボス討伐ですら明らかに再生数が落ちた。


 俺も動画の配信を見るのが怖くて、リアタイで追わなくなった。アーカイブ視聴なら嫌になれば飛ばすこともできるから、基本的にはそちらで見ていた。




 だからその日何があったのか、俺は知らない。




 ただあの日、公式発表で公開された新ボス最速撃破記録には、確かにこう書かれていた。


 不倒の双対 トール・トゥール 初撃破

 MVP リーダー(サザンクロス)

 ダメージランキング

 1位 トラキチ(トラ小屋)

 2位 リーダー(サザンクロス)

 3位 ロイド(サザンクロス)




「…………は?共闘?サザンクロスと?嘘だろソレだけは絶対ない。あ、アーカイブ!配信アーカイブは!?」



 トラもリーダーも新規ボス討伐配信をしていたらしい(・・・)のだが、どちらもアーカイブは公開されていなかった。




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