31-3.問題
セリス視点
紬さんは新幹線に1人で乗るのは初めてで、なにかもたついても大丈夫なようにかなり早い時間の新幹線を予約しました。
今日日乗り換えでもたつくようなシステム設計はされておらずとてもスムーズに進み、会場に予定よりかなり早い13時半頃到着しました。かなり早く着きましたが会場準備は万端で安心しました。
17時までに会場にお越しください、それまで自由にお過ごしくださいと言われて部屋に通されました。
電車の長時間移動で疲れた紬さんは少しだけ休もうとベッドに横になりました。
それでは問題です、今何時でしょうか?
答えは16時20分。
こんなに寝る予定ではなかったと強く主張したい。
大ホールは人で溢れていた。
そこかしこに話し声が溢れ、カメラを構えた人達の姿も多く、会場そのものにも定点カメラが置かれている。
ステージ脇にはEFOのゲームイラストパネルや協賛企業のパネルが並び、壁にはフラワースタンドが飾られていた。
リーダーさんやロイドさんの姿も見えたのだけれど、挨拶に動き回っているようで近づくのは難しそうだ。後でご挨拶出来るといいのだけれど。
知り合いを探しつつフラワースタンドを眺めていく。フラワースタンドには企業名の他にも個人名が書かれているものもあって、アイドルの水無瀬さんのファンとかかなぁ、と一つ一つ眺めていたら、その中のひとつに『マデランをあげ隊』の名前を見つけてしばらくフリーズした。その後そっと写真を撮った。
名前入ってないし私宛ではないですよね、なんてボケは流石にかませないので、後でつぶやいたーに載せておこう。……あれ、お花の写真って載せていいんだっけ?個室内は動画も写真も自由にOKで、オープンスペース内は写真だけOKだけど他者の映り込みは原則NGで、SNSに載せたい場合は映ってる人に個別に許可が必要で……お花はいいのかな?後で誰かに確認しよう。
そんな事を考えていたら「一緒にお写真撮りましょうか?」と声をかけられた。
声をかけてきたのは同行者腕章をつけていらっしゃる女性だったので、誰かのマネージャーさんなのだろう。ありがたく一緒に撮ってもらい、ご挨拶にと名刺をいただいた。
名刺を持っていないんですと謝りつつ受け取ったら、何故かぞくぞくと周囲に人が集まってきて次から次にと名刺を渡されてしまった。
何故かっていうか、そうか、CRUCISのティザームービーが出たからですよね。細かい話が聞けそうなリーダーさんたちは今動き回っていて捕まらないのでしょうし、そしたら次は私かニンカさんですけど、車椅子は囲えませんよね……。
次から次に渡される名刺の山を手からこぼれないようになんとかかんとか受け取って。えーと、えーと、え、誰の名刺だこれ。いっぺんに渡されて、企業名も顔も名前も何一つ一致しない。
わたわたと受け取っていたら、集団の奥から追加で誰か近づいてきた。
「楽しそうですね、僕にはいただけないんですか?」
聞き覚えのある声。
そこには私と同じくらいの少年と、それからトシアキさんが立っていた。
「どーも、久しぶりセリスちゃん」
「はい、お久しぶりです、ジンさん。トシアキさんも」
「久しぶりだね。――みなさん、選手同士の交流の場ですので、付き添いの方が囲ってしまう状況はお控えください」
トシアキさんがそう言って周囲の人を散らしてくださった。
た、助かりました……。
「あしらえるようになんなよ、アンタもこっち側になるんでしょ?」
「え、あ……えーと、まあ、まだナイショということで、一応」
「はいはい、そういう感じ?」
「はい、そういう感じです」
ジンさんに連れられて移動する。固定カメラの回っているホールを出てしまったけれど、どうやら近くの部屋のいくつかが休憩室になっているらしい。
いや本当に助かりました。こういった場にも慣れないといけないんでしょうねぇ……。
「口調、今日はそういう感じなんですか?」
「別に、いつもこっち。このへんカメラ入ってないし」
「お猫さんしか知らないので、少し新鮮です」
「うっざ」
嫌そうにされてしまいました。
前回少し意地悪をされていたようなので……私にではなく、リーダーさんに意地悪をしていたようなので、これくらいは許していただきたいです。
「……大会」
「はい?」
「アンタが、来ていいって言ったの?」
どことなく気まずい顔。
うーん、リーダーさんからも会いたくないなら来ないでもらうって言われたんですけれど、予選を通過できる人が順当に来ればいいと思っていたので、そこに私の意思は特にないのですが……。
でもまあ、一応気にしてくださっていたんでしょうね。
「気にしていませんとだけ、お伝えしています。大会自体は、実力で上から順に来るのがいいと思っていますよ。直接はお伝えしていなかったですね、予選通過おめでとうございます、本戦がんばりましょうね」
「……あんがと」
「なにも。ああ、そうだ」
「なに」
「武器チェンジファイターを勉強する企画を今度やろうって、お誘いいただいていましたよね。流れちゃってますけれど」
「まあ、いやあれは」
「四月以降でしたら、お受けしたいです。まだご一緒してくださるつもりがありましたらサザンクロスにご連絡いただけますか?」
「……企画しとく。覚えとけよ?絶対やるからね?」
「はい、お待ちしています」
個人チャンネルでやる企画も考えないといけなかったので、面白い企画になると嬉しいですねえ。リスナー側に需要があるかは分かりませんが。
「VRマシン、もう乗った?」
「いえまだです。もうすぐ開会式と抽選会が始まってしまうので、ちょっと時間が微妙で」
うっかり開会式を寝過ごすところだったことは、出来れば気づかないで貰えると嬉しいですね。
「あっそ。ヒューレッドの最新モデル入ってる、他と使用感違うから乗っとくといんじゃない?」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「まあ僕は普段からいいの乗ってるから、コケるようなことないけど。アンタ本番ですべんなよ?」
「気をつけます」
処理速度があまりに違うと歩行意識のズレで転ぶことがあると聞いているので、今夜や明日の朝に慣らさないといけない。
日頃から強いマシンを使っている人たちの方が、こういう場では有利なんですかねえ。
「ほら、あっちのブース」
「あ……えっと、ありがとうございます」
ジンさんが指さした先にはニンカさんがいらっしゃった。――――ん?
「僕は挨拶まわりに戻るから、じゃーねー」
「えっ、あ、はい…………え?」
ニンカさんもこちらに気づいて手を振って近づいてきた。――背後の男性と一緒に。
いや、え、え?はい?なんで?
「セーリス!なんか囲まれてたって聞いたけど大丈夫だった~?」
「いや、え?は、はい。私は別に……え、あの、え?」
「ふふふ~ん?」
「あ……え?な、なんで……グライド、さん?」
え……グライドさん、ですよね?え、同行者腕章……じゃない、これ会場スタッフの腕章……え?はい?




