1-4.ソロアサシンとエンドロール
敵意の塊に反応してラフェルがこちらに振り返る。
直後にリーダーも復活して何かを言ったけれど、横に転がって攻撃を避けていたので聞き取れなかった。
リーダーのバックアタックが決まる。
飛んできた火の矢を3回×4本避け、杖での物理攻撃も躱す。
イカサマダイスの判定が一回残っているので、もう手動回避は失敗できない。
火の鳥から何度も逃げ、転がり、避ける。
ねずみ花火をいなし、攻撃を避けて、避けて、避けて。
ラフェルが杖を高く上に上げた。
って、奥義モーション!?奥義って二回目来るの!?
ふと見るとラフェルのHPが赤く染まっていた。残り1/4でも奥義が出るのか!
とにかく避けないと。炎をまとった隕石が山のように降ってくる。
避けられる?避けきれるか?
隕石落下には一瞬間がある。
落ち着くために大きくいきを吸って、吐いて、その時気がついた。
地面が赤い。
大理石のような白い地面が、赤い斑柄になっている。
あ、これ落下地点だ。
ほとんど一面真っ赤だけど、よく見ると濃淡がある。普通なら多分、もうすぐ落ちるところが濃いはずだ。
自分の直感を信じて下を凝視する。
もうすぐここに来る。
次はこっち。
その次はここ。
次がここで、その次はこっち。
よし、ここだ!
何個かの隕石が落ちた後で、白い床を発見して棒立ちする。
上を見上げるとたしかに隕石は見えるが、ここの真上には降らなかった。
よし、避けきった!
そしてすかさず後ろに避ける。ラフェルから火の矢が突き出てきた。
あっぶないな!ほんとに!!
そうやって何度も攻撃を避けていると、ラフェルが杖をグッと前に差し出した。
波状攻撃が来る。何も考えてないけど、とりあえずダッシュで左前に抜け、ギリギリのタイミングで右にジャンプする。
もうちょっと、もうちょっとだけ滞空時間がほしい。
ダメ元で下に向かって攻撃を入れてみる。なんか微妙に紫のエフェクトが出ているけれど意味はない。
体が落下する。落ちるな、落ちるなと念じながら下に短剣を振る。
火の中に落ちる直前に、足元の炎が消えた。
へ? ほんと?
悩んでいる時間はない。ダッシュでその場から逃げると杖が地面に叩きつけられた。
何が良かったのかわからないけど、下に向かって攻撃してたらほんのちょっとだけ滞空時間が伸びるっぽい。なんだこの小技。
まあいいや! 助かる! これで行く!
避ける。避ける。避ける。避ける。
波状攻撃を横に一度避けて、ジャンプで右に避けて、ジャンプ中はとにかく下に向かって攻撃を入れ続ける。
よし、避けきった。そして後ろからくる鳥を避ける!
いける! なんか行ける気がしてきた!
避ける。避ける。避ける。ここでジャンプ!
火の鳥を避けるためにジャンプをしたところに横薙ぎのモーション。あ、だめだ。これは死んだ。
しまったなぁ。敵が割と着地狩りをしてくるから、ジャンプしないように気を付けてたんだけど、やっちゃった。
下をすり抜ける火の鳥。その横から迫ってくる巨大な杖。
念の為一応空中ガードモーションを構える。
眼前まで迫った杖は、
体をすり抜けていった。
「……へ?」
魔神ラフェルが杖を取り落とす。
頭を抱え、唸るような響きを上げて、
体の端から、光の泡になった。
「へ? え? え???」
「「ぃよっしゃあああああああああああああああ!!!!!」」
フィールドの反対側から怒号が聞こえる。
ぽかんと立ち尽くす私に、二人が駆け寄ってきた。
「やったよー!初討伐!完!!了!!!」
「え、え、これ討伐、ですか?」
「それ以外に何に見えるんだよ!いやほんっと良かった!」
「ありがとうな、途中、復活してくれて」
「そうそう!タイミングも完璧だった!」
「え、あ、は、はい……はい!」
そうしている間にもラフェルの体が少しづつ崩れ、光になっていく。
ふわふわと浮かび上がる光の海。
よく見ると光の一つひとつに、ローマ字でなにか書いてあった。
「……名前?」
「あー、ボス討伐とかやってないんだっけか。超上級って言われるボス討伐に実装されてるやつだよ」
「エンドロールだな。光の泡の一つ一つにスタッフの名前が入ってる」
「知りま、せんでした」
「ここ、撮影禁止なんだよ。討伐者にしか見せないの」
「なんででしょう?こんなにきれいなのに」
「エンドロールだから、ゲームの一つの到達点に行った人にしか見せないんじゃないかな」
魔神ラフェルの体が少しづつ泡になっていく。
泡になる時にふわりと文字が浮かび、それが空に上っていく。
きれいだ。とても。
そして最後は一際大きな泡になり、ゲームディレクターの名前が表示された。
魔神ラフェルの居なくなったフィールドに、帰還ポータルが現れる。
「そんじゃま改めて、魔神ラフェル、討伐お疲れさまー!!!」
リーダーがロイドが手を強く打ち付け、ぱぁんという小気味の良い音が鳴った。彼は私の前にも手を差し出してくる。
「え、あ、え、えと、お、おおお疲れさまです!」
慌てて遠慮がちに手を弾くと、ペチン、と音が鳴った。
「ほんっとうにありがとうね!あそこで復活してくれなかったら流石にムリだったよ!」
「い、いえ、こちらこそ結構ミスしてしまっててすみませんでした!」
「無事討伐できたミスはミスに数えなくてもいいだろう」
「そうそう!いやー本当は気持ち的にはこのまんまどっか居酒屋とか入り込んで打ち上げしたいんだけど、攻略1号動画を作んなきゃいけないもんでして!」
「あ、はい、分かってます。サザンクロスの解説動画は私もお世話になってるので、ぜひ早めに作ってください。私のもすぐに送りますね」
「そう言ってくれると助かる!じゃあ細かい話は動画上げ終わったらってことで!」
「またそのうち誘ってもいいか?」
「え……は、はい!もちろんです!」
「じゃあまた今度ね!」
二人がログアウトした。
私も帰還ポータルの上で手頃な街の名前を選び、早々にログアウトする。
「また今度、だって」
部屋の中で機器を取り外す。
「私にも、できたなぁ」
役に立てたんだ。本当にできたんだ。
部屋に置いてあったぬいぐるみを抱えて、少しだけ微笑った。