30-3.贈りたいもの
「これ、最近のアニメのオープニングなんだけどさ」
談話室でリーダーさんが再生したのは、今季話題というアニメのオープニングムービーだった。
高校生くらいの男女が街中を駆け抜け、ビルの上まで飛び上がり、振るった剣が光を放つ。
すんでのところで躱し、飛んできた光弾を弾き落とし、返す刀が打ち合わさって火花を散らす。オープニングの山場となる数秒のアクションシーン。
――――できそうだ。
「できそうだと思わん?」
思ったことと全く同じことをリーダーさんが言って、どきりとする。
「えっと、はい、エフェクトは無理ですが、それ以外はできると思います」
高い棒状の足場のあるエリアで戦闘できそうなところというと……ランダムマップPvPであたりが出るまでガチャをするか、建物風じゃなくてもいいならエルフの町に着くまでの森が巨木エリアなのでいいかもしれない。あとはクラウンベルシティの外壁ギリギリのところで戦闘エリアを展開したらいけるだろうか。ああ、崖とかいいかも。霊峰の街と反対側には崖があったはず。
ジャンプブーストで飛び上がって、壁走りを三歩、そこから通常飛び出しで体をひねって、後ろから追いつくリーダーさんの攻撃を避ける。ファストシュートを弾いて落下しながら剣を交える形か。うん、やっぱりいけると思う。
「今度ちょっとやってみようよ」
「あ、……えっと、はい、わかりました」
「ああ、撮影先行で、公開は大会後かな。隠しときたい札とかあるっしょ」
「えっと、はい、ありがとうございます」
壁走りは、まだほんの数歩しかできないとはいえ、隠したくはあるんですよね。
「リーダー、俺ら出てくるから〜」
「おーいてらー、どこ行くん?」
「双子迷路踏破し直してワープマーカーセットし直してくる……」
「おおう、頑張れ、ヘルプいる?」
「いらんとは思うけど、ダメそうだったらまた言うわ」
「あいよーがんばれー」
「頑張ってください、行ってらっしゃいませ」
サポートメンバーが三人ほど連れ立って談話室からワープしていった。
過去世界を含めて色々と重要箇所が増えたり、休憩所などで公式のワープ箇所も増えたりしているので、夏イベントからそろそろ半年になるけれど、まだワープマーカーの場所が安定していないらしい。素材集めに必要だし他の人もマークしているだろうと思ってマーカーを消したら、他の人もそう思って消した直後で誰も飛べなくなったりしている。こういった細々したことの管理も意外と大変だ。
気がつくと談話室にはリーダーさんと二人だけ残っていた。
心臓がとくんと脈打つ。心拍の急上昇を示すアラートが鳴る。
今だ、と思うのに、言葉が出てこない。
「…………どうした?」
言葉が出ない結果としてじっと見つめていたら、リーダーさんが首をかしげた。
「ぁ………あの」
「うん」
「り、りーだーさんに、」
「俺に?」
視線が落ちる。顔を上げていられない。現実だったら声にならなかっただろう言葉は、しかしVRの中で正確に発せられた。
「ばれんたいんを、送りたい、と言ったら、ご迷惑、でしょうか」
「それは……ゲームの話?」
時間が止まったかのように固まってしまったリーダーさんが、しばらくの沈黙の後に言った。
EFO内でもすでにバレンタインイベントは始まっている。昨年と全く同じ仕様のアイテム採取イベントで、今年も大量の「あ」とだけ書かれたチョコレートが飛び交っている。
けれど、そうではなく。というかゲーム内だったら断らずに送ります……。
「いえ、あの、リアル、で……」
「えっと…………」
リーダーさんの困った声が耳をかすめて、胸の下の痛みをごまかすように、服を握りつぶす。
「えっと、あの、あー、えーと」
「すみません、あの、ご迷惑でしたら、いいので」
「いや!えっと!それ、あの、……サザンクロス宛てだったら、会社の私書箱宛てに送ってもらえればいいんだけど。サイズ制限あるけど小包も届くから。ただ……その……」
「……はい」
「もしも、その、もしも、俺宛てだと、ちょっと難しくて……サザンクロスの住所だと全部ロイドが受け取っちゃうし……家の荷物は家のものが一旦受けるから、特にこの時期の飲食物は基本俺のとこには届かなくて……」
リーダーさんにしては珍しく歯切れの悪い返事。そっと顔を上げると、口元を隠して視線を逸らした彼の、赤い耳が目に入った。
「その……当日じゃないんだけど」
「はい」
「来週、二月の十日なら、用事があって。東京に、その、出るんだけど……」
「えっと、それは……」
時間を、作ってくれる、ということ、でしょうか?
「ほんっとに忙しくて予定詰まってて、前みたいにお昼一緒にとかは出来なくて。だから駅で一瞬チラッと会ってすぐ解散とかになるんだけど」
現金なもので、さっき心臓が掴まれるような痛みを発していた場所が、一瞬で泣きそうなほどの嬉しさで上書きされる。
「だから、えーと……俺宛て、かなって……」
「リーダーさんに、受け取っていただきたいです」
「ありがとう。こっちの予定確定したらメッセージ送る。ほんとごめんなんだけど、直前に時間変更とかになるかもしれない」
「お忙しいのは存じてますので、私が時間を合わせますから」
「なるべく、なるっっっっっべく時間ずらさないようにはするんだけど、ちょっと俺だけの予定じゃないもんで……そこはほんとごめん」
「大丈夫ですって。深夜でもいいですよ」
「寝て」
「大丈夫ですって」
「この間ふにゃっふにゃだった子は寝てください」
「ちゃんと深夜になるってわかってれば大丈夫ですっ!」
「いやぁ……あそこから挽回するのムリじゃない?」
全く信じてもらえない。本当に、深夜までかかるとわかっていれば事前にお昼寝したりして対応できるんです。本当ですってば。
そんな話をしていたら、背後で誰かのワープ音が聞こえた。
転送されてきたのはボロボロのぽこぽこさんとおもちさん、それからENVYさん。先程出ていった御三方だ。
「…………リーダー」
「おう」
「へるぷ」
「はいはい」
双子の悪夢はかなり前のエリアなのでレベル差はあるんですが、あそこ敵の連携が強いのでそれでも結構きついんですよね。
特に今回三人中二人がワープマーカー用に奇術師ですし、やはり無理でしたか。
「セリス、一緒に行く?」
「あ、じゃあ、はい。ご一緒します」
しゅるりとキャラクターをファイターに変更する。あそこはアサシンでは入っていけない。
自分の顔は赤くないだろうか。
そこだけを心配しながら、パーティに参加した。




