30-2.枕元のぬいぐるみ
『でもさー、するなら今じゃん?』
部屋で一人、熱い頬を抑えて言葉を反芻する。
――――そんなことは、分かっているのだ。
リーダーさんは、ギルドと同時に、配信そのものもとても大事にしている。
コメント拾いも、リスナーとの交流も、同じくらいの規模の配信者と比べるととても多い。
彼が大切にしているものに、できるだけ誠実に向き合いたい。
何かあって後から色々起こるより、先に色々と決めてしまったほうが間違いなく良い結果になる。
周囲が気を使ってくれていることも分かっている。
少なくとも悪くは思われていないことも分かっている。
少なからず私を見てくれていると、多少は自惚れている。
だけど。
「…………怖い」
休暇旅行では私にだけ来たらしい返信。
お土産で私にだけついていたストラップ。
夜道を歩く時には皆さんの輪から抜けて送ってくれて。
プレゼントには毎回、ゲームだけれどアクセサリーをくれて。
もしかしたら私にだけそうしてくれているのかもしれない。
そう思ったら、胸が締め付けられるほど嬉しくて。
でももしかしたら、私以外にもそうなのかもしれない。
そう思ったら、お腹の底が締め付けられるほど怖くて。
「…………怖いなあ」
鞄からシーサーストラップを解く。
枕元のクマのぬいぐるみの腕に一つずつぶら下げて、にぎにぎと握りしめながら、クマのお腹に顔を埋めた。
「やるならたしかに今なんだよ。それはね、分かってるの」
ぽつぽつとクマに向けて喋る。
うんと小さな頃からの、弱音を吐くときのくせだ。
「やっぱり、バレンタインかなぁ……」
だめだったときに、お互い気持ちの誤魔化しがきくのは、やはりそこだとは思う。
去年はゲームで渡してさらっと流れてしまったけれど……。
いやまあ、去年は去年で結果的にギルドメンバー全員に挨拶ができたので、アレで良かったとは思っている。お陰で一年間楽しく過ごせた。
「チョコレート……」
甘い物はあまり食べないとおっしゃっていた。
量は多くないほうがいいはずで。というかそもそもどうやって渡せばいいんだろうか。
頭が爆発しそうで、とりあえずクマのお腹におでこをぐりぐりと押し付けた。
実は1-4からいるぬいぐるみ君。




