26-3.第五回公式PvP大会 予選 Day1
セリス視点
『第五回公式PvP大会!予選Day1、スタートです!』
12月2日、朝10時。第一予選がスタートした。
ギルドには普段この時間にはログインしていないようなメンバーも揃っていて、賑やかだ。
大会議室のディスプレイにたくさん表示を並べて、公式配信からはトシアキさんと佐々木さんの声が響いている。
一斉に何百試合も行うので、試合自体は最初はランダムピックアップ式で前衛後衛各10試合が見れるようになっているらしい。午後からは戦績上位プレイヤー5試合と、ランダムピック5試合になるとかなんとか。
メイン画面ではその時の表示で面白そうなものをお二人が選んで、解説している。
「おうおう、多い多い。避けアサ多いねえ」
「まー今回の予選ルールだと避けアサにしてみたいよねー」
「そうですねえ」
前衛の部配信画面10試合のうち、7試合にアサシンが映っており、その全員が上忍の青装束にリリパットの盾だ。
ワンサイドゲーム狙いですね。
「まあ、これで勝てるのは最初の3試合だけですよ」
「下の方ならもっと勝てると思うけど、上位レートと当たるようになったら勝てないよね」
私の言葉に、隣りにいたドドンガさんが同意した。ドドンガさんは大会は出ない予定らしい。
アサシンのクリティカル率は普通にスキルを振った場合は武器補正も込みでだいたい130%あたりになる。
アンチクリティカルはつけようと思ったら100くらいまでつけられる。
素の攻撃力同士の殴り合いになった場合、ベース攻撃力の低いアサシンで短時間で相手を倒すのは難しい。
受ける側は回避率80%だったとしても、5回攻撃されれば全回避成功率は30%ちょっと、10回も攻撃されればたったの10%だ。上忍装備は無装備よりも防御力が落ちるので、通常攻撃でも場合によっては試合が終了する。
自分で言うのもなんですけれど、回避アサシンというのは本当に手動回避ができるプレイヤーでしか成立しないのだ。
この大会のアサシンの何人がきちんと避けられるのかはわかりませんが、とりあえず最初に映った7人は全員手動回避はできていませんね。
その構成ならアサシンよりも細剣士の方がいいと思うんですけどねえ。細剣士なら即死しにくいですし。
遊び人派生職、ちょっと敬遠されすぎてますね。今でも普通に強いんですけども。
「お、グライド」
「おおー、映った映った」
「ウォーハンマーか。無難に勝ちに行ったな」
「普通にグッドゲームで勝ち上がる気っぽいね」
「スクリーン3オルタナの人だな」
「Funyaさんですね」
「おお、グライド勝ったな」
「やっぱアサシンに比べると試合時間が長いね」
「そこがちょびっと不利よなー」
「まあグライドはインターバル短めだから、その辺でカバーかねえ」
勝利ポイント制だと、基本的には試合数が稼げるほうが有利ですからね。
「お、後衛、ジン君じゃね?」
「おおー奇術師だ!」
「彼ってメインランサー?」
「ランサーモンク奇術師だったはず?」
「ほー。全体的に機動力系だね」
「うっは、さすがうまい」
「12月にバッチリ出てこれるプロチームは強えなあ」
全く途切れぬ観戦はあっという間に時間が過ぎていき、12時ちょうどに解説画面が切り替わった。
『ということで、解説バトンタッチ!今大会前衛の部チャンピオン役、ギルドサザンクロスの、リーダーと!』
『後衛の部チャンピオン役、ギルドサザンクロスのロイドです』
『広報もバトンタッチ、ここからは矢口が入りまーす!佐々木のおしゃべりファンの方すみません!昼飯食ったら戻って来るのでちょっと待っててください!』
『佐々木さんなら飯食わないで居座ると思ってたわ』
『それを偉い人の前で言ってしまったがために強制休憩でーす』
「言ったんかいw」
「そりゃだめだw聞いちゃったら休ませるしかないw」
「っと、映った映った」
「いやー……ちゃんと来たねえ」
午後に入ったのでピックアップが上位レート者に偏る。表示には見慣れたプレイヤーが何人も映った。その中の一つの画面を拡大表示する。
「頑張れよ」
「出れるの今日だけなんだっけ?」
「そう言ってた」
痩躯の体に緑の髪を揺らすレンジャーが、迷路の壁を駆け抜けた。
「…グライドが映ってねえな」
「ぽんすけもおらんな」
「このタイミングで映らないのは結構きついねー」
「お、ねむ蝉勝った」
「グレイトゲーム、えーと、125%か。まあまあ」
「魔法かすらなきゃワンサイドゲームだったな」
「後衛のワンサイドは出すのむずいから、そこは仕方ない」
「大胆なことやってんなー」
「これ初日しか通用しないだろ」
「初日だけ通用すりゃいいんだよ」
「それはそうか」
リアルだったら息が止まるだろうほどに画面を見つめる。過去これほど真剣に誰かの試合を応援したことがない。
昼食の呼び出しでゲームをログアウトすれば、ただ観戦していただけなのに背中にじっとりと汗をかいていた。
・・・
・・
『第五回公式PvP大会 予選 Day1』
『最終結果の発表です!』
18時になり、全工程が終了した。
解説は時々休憩で抜けつつ基本的には佐々木さん、トシアキさん、リーダーさん、ロイドさんの4人がずっと座っていて、最終結果発表も4人で行っていくらしい。
大会議室に大きく映ったメイン配信画面の前で、祈るように腕を組む。
『予選最初の突破者は~』
『前衛の部』
『夜梟さん、ギルドRTA友の会所属!おめでとうございます!』
『おめでとうございます!』
「あー……」
「ぽんすけは最後の方映ってたけどなあ。追いつけんかったか」
『後衛の部――――』
「どうかな」
「どうだ……」
『ねむねむ蝉、ギルドサザンクロス所属!おめでとう!』
「っしゃあ!」
「きたきた!」
「おお~!突破した~!」
はあああああ、と止まっていた息を吐き出すのと、グライドさんとぽんすけさんがギルドに戻ってくるのはほとんど同時だった。
「まーけたまけた」
「だめっしたー」
「お疲れ様です」
「おかえりー」
「いやー、夜梟さんつええ」
手近な椅子に、二人共崩れるように腰掛けた。
「RTA勢はなー、壁移動がめちゃめちゃ上手いんだよね」
「普通に年季が違うからね。よく食いついたよ」
配信画面には解説席に転送された夜梟さんが疲れ切った声で挨拶をしている。
うん、あの、なんていうか、連戦の後すぐに喋らせるの、やめたほうがいいかもしれないですよ……。
『お次は後衛の部突破の、ねむねむ蝉さんです!』
『どうも、サザンクロスのねむねむ蝉です~、え、ほんとに今喋るの?オレ今ぜんぜん頭回ってないんだけど』
『それだけ出し切ったということでしょうか?』
『出し切ったと言うか走りきったというかですねえ』
『ほんとにめっちゃめちゃ走ってたよね』
『正直、後衛の部の初日の勝ち方はコレしかなかったと思ってるよ』
『みんなが打ち合いする気のところを高速で間合いを詰めて、ゼロ距離でも当たるスキルでインファイトして勝つ。そうだね、私もこのルールで後衛で試合するならそうするかな』
『Day2以降は対策されてしまうから、本当にDay1でしか使えない戦法だな』
『実はオレ予選今日しか出れないんで、今日でだけ通用するやり方で来ました』
……リーダーさんの表情が、少しおかしい気がする。お疲れなんだろうか。
「やっぱ僕はこの長時間ずっと戦闘のこと考えてんのムリだわ」
ぽんすけさんがふうと息を吐いて言った。
「やっぱしんどい?」
「うん、おっさんにはもうしんどいや。明日以降はキャンセルだね」
「そっか。お疲れ」
「お疲れ様です」
以前も大会の長時間拘束が辛いとおっしゃっていましたからね。そこばかりはどうしようもない。
「グライドは?」
「12月日程は全部出ます。1月からは入社予定のところで直前インターンがあって…出れないかもなんすよね」
「そっかー、がんばー」
ねむ蝉さんの挨拶も終わって、一旦その場は解散ということで談話室に移動する。
グライドさんはこのままニンカさんに会いに行くらしく、ログアウトした。
ニンカさん、落ち着いて見ていられる自信がないって言って、今日いらっしゃらなかったんですよね。
オフで家族と見てると仰ってましたけれど…会いに行くってことはニンカさんのお宅まで行くんでしょうか。
夜に家族と一緒に食事とか?あ、でも明日も予選だしそこまではしないのかな。
き、気になる……こういうの、ニンカさんは絶対に教えてくれないんだけど、グライドさんだったら教えてくれるだろうか。
しばらくして、少し人の減った談話室に入室ベルが鳴る。
振り返った先に転送されてきたリーダーさんが、その場に崩れ落ちた。




