閑話 ウィーククエストの裏側で
ロイド視点
「あの、俺ちょっと談話室行くわ」
リーダーはそう言って、そそくさと錬金室から出ていった。
装備なんて二人で相談して必要そうなものをリストアップしたのだから、ルームに残っているわけないだろうに、そこには気づかないんだな。
僕と遊ぶことを放棄しないでくれたことを喜ぶべきか、もう少し自分の気持ちに正直になってほしいと思うべきか。難しいところだ。
一時間の少し前くらいで連絡を入れるとして、さて。
一時間か、半端に時間が空いてしまった。いっそログアウトして少し時間を潰してきてもいいんだがどうしたものか。
とりあえず手持ち無沙汰に倉庫を開く。よく使う素材を検索で引っ掛けていけば、思ったよりも倉庫は充実している。僕達がいない間に大分復旧してくれたらしい。
一人で取りに行けそうな素材の復旧度が高い。この埋まり方はセリスだな。
魔法職ソロ向けの素材もそれなりに充実していて、いよいよやることがない。
前衛がいれば煽り鳥でも狩りに行っても良かったけれど、今は手の空いている人はみんな談話室なんだろうな。
ふう、と息を吐いて、錬金室のベンチに腰掛ける。
一時間弱だとアプリ切り替えも面倒なので、ここでこのまま情報収集でもするか。
外部ブラウザを開いてEFOのBBSを表示する。
十窓ほど開いてざっと流速の速い掲示板を開いて話題を拾っていく。PvP関連の情報はやはり関心が高いな。大会の残りの招待枠を予想するスレッドがPart5まで伸びている。次の発表は明後日だったはずだな、少し発言は気をつけないと。
ぼんやりと眺めていれば、錬金室の扉が開く音がした。
「お、ロイドか」
「グライド」
メイン盾がひょっこりと顔を出した。
「準備中?なんか装備準備が終わってないって聞いたけど」
「あー……まあ、準備は終わったんだが、リーダーがパーティ行動中のようだから、時間を潰していた」
「……ああ、なるほど」
「そちらは?」
「んー、ニンカが来るの待ち。今日は大学の用事だからちょっと遅いんだよな」
「なるほど」
お互い手持ち無沙汰らしい。
「こういう時」
「ん?」
「普通はどうするんだろうか」
「あー……、そっすねえ……」
今後はこういうことも増えるんだろうけれど、正直経験がなさすぎてどうすればいいのか全くわからない。
「まあ、他の友達と遊ぶんじゃないっすか?」
「他の友達、か……」
先約が入っているときに一時間だけ時間を潰そうと提案できる相手というのは、少々難しい気がする。
「いや別に、俺でもいいじゃん。そんな『いないな』みたいな声出されるのはちょっと傷つくぞ」
グライドが微妙な顔をしてそう言って、こちらはこちらで少し困ってしまった。
「あ、いや……グライドには一度断られているから……そう呼んでいいのか、実は少し測りかねている」
「え?………………あ、あ~……」
ギルドに入った当初、フレンド申請を棄却されているので、友人と呼べる距離にはあるものの、友人と呼んでいいのかは正直分かっていない。
一応通じたようで、グライドは気まずげに何かコンソールをいじった。
ぴろん♪
<プレイヤー:グライド から フレンド申請 が届きました>
「…………」
「あー、その……ギルド来たときは、正直長く居れるのか分かんなかったから……。なんかあったらニンカ連れて高跳びする気だったんで……。単にタイミングのがしただけで」
<フレンド申請を受理しました>
<詳細はフレンド一覧よりご確認ください>
「本当に、今更だな」
「まあ、そっすねえ……いや完全にタイミング逃しただけなんだよ、ほんとに」
グライドがバツの悪そうな顔で頬を掻く。
「もうずっと、友達だろ?少なくとも俺はそのつもりだったんだけど」
「そうか…………そうだな」
「っし、ーーーーそれで、どうする?どっか行く?」
「ああ、リーダーと一時間で再合流する予定なので、軽くだけどな。煽り鳥でも落としに行くか」
「あいよ」
パラディンに装備を変えた彼からのパーティ申請には、フレンドの文字がついていた。




