24-8.タイミングの合わない一週間
なんとなくタイミングが合わないときというのは、いつでもあるもので。
リーダーさんはほとんど毎日別のゲームの配信をしていて、EFOにはあまりログインしていない。ちょっと触ろうと思ったゲームが思いの外面白く、エンディングを迎えた後の要素コンプリートをしようとしているらしい。
文化祭楽しんでおいでと言ってくれた方たちには行く予定ではないのだとお伝えしたのだけれど、リーダーさんには伝えられないままだ。
いやまあ……伝えなければいけない訳では無いとは思うのだけれど、多分勘違いされているんだろうと思うとそれは何だか少し嫌だ。
やっぱり会話に割り込んででも訂正するべきだった。あの時はバタバタしていてそこまで気持ちが回っていなくて、後からその嫌な気持ちがじくじくと居座ってきている。
誰かギルドチャットででも聞いてくださればうっかり間違えて全体メンションで返事を書こうと思っているのに、サザンクロスは本当に皆さんのマナーが良くてそういったことは全く起こらない。
かといって自分からメッセージで送るのはなんだか自意識過剰すぎる気がしてしまう。
ギルドではリーダーさんに会わず、家は家でパパに会わない日が続いた。
急に関西へ出張に出かけてしまったのだ。
いつもは私の文化祭の日は必ず家にいたし、中学の頃は見学にも来ていたから、少し驚いた。
文化祭に行かない予定だと伝えたから普通にお仕事入れたのかな。
配信活動をするしないは、個人的にはする方向に気持ちは向いている。
なんだかんだ、ゲームは楽しいし配信も結構楽しんでいる。今後リーダーさんやロイドさんや、ニンカさん達と色々なゲームで遊びたいと思ったら、自分もその世界にいるほうが確かに良いのだろう。
そしておそらく、きちんと配信者にならない限り、彼の隣りに立つ資格をもらえない。
ただリーダーさんとの関係がどうなるかは一旦置いておくにしても、西生寺社長令息の会社で本格的に活動をするとなると、その時点でパパの仕事はやはり少し怪しさが出るのではないかと心配してしまう。
法的にも内規的にも問題なくとも、人の目はまた別のお話だ。その辺の肌感覚は、本人に聞いてみないと分からない。
配信アバターを利用するのか、リアルの顔を出すのかとか、
あとはプライバシー云々の話を始めると私だけでなく家族も巻き込まれるので、一人暮らしをするのか、この家でそのまま活動をしていくのかも含めて話し合わないといけない。
とりあえず数日悩んで私の中では本格的に活動したい方向に傾いていることを認識できたので、その話をパパとしたかったのだけれど……。
帰ってきたら相談があるとメッセージを送り、結局何も進展しないまま一週間が過ぎた。
10月21日、土曜日。
午前中は積んでいた本を崩してゆっくりと過ごして、お昼ごはんを食べてからEFOを起動した。
「こんにちは」
「あ、セリスちゃんこんちゃー」
「…………………え?」
ギルドにログインすると、談話室にはすでにそれなりに人が集まっていた。
ぽこぽこさんの挨拶に会釈をすると、隣りにいたリーダーさんがぽかんと不思議な顔をしてこちらを見上げた。
「えっと……文化祭じゃ……?」
「高等部三年は任意なので、私は不参加ですよ?」
「いや……誘われたって……」
「あの、話が移ってしまって言えなかったんですが、お断りしております……」
リーダーさんが何だかフリーズしてしまった。えっと、え?あの?聞いてますかね?
「リーダー聞いてなかったん?」
「あの後割とあっちこっちで話してたよね?」
「え、あ、はい。何か勘違いされてるの、少し嫌で……でもリーダーさんとタイミング合わなくて会っていなかったので、言ってなかったかと」
「リーダー最近ずっとハートレスやってたもんな」
「あー…………いや……こう、時間的に行けそうだったから、ついコンプしたくなっちゃって」
リーダーさんはそう言って、そして私の顔を見て、ふっと優しげに微笑んだ。




