24-7.配信は終われど仕事は終わらず
『十年後に笑い話として友人に話せれば、その選択は正解だった。少なくとも僕はそう思ってる』
ギルドの最年長は、そう言ってひらひらとログアウトして行った。
難しいだろ、それ……。
こちらもログアウトして腹にカロリーゼリーを詰め込み会社のワークスペースに入り直せば、親友がちょっと嫌になるサイズの書類を目の前に積んだ。
「IPの買い取りについての草案が上がった。確認してくれ」
「待ってね、ちょっとまってね」
リーガルグラスをオンに。明日は一日梅鉄で、明後日はできれば休みたいからな……今日やらんと……
ロイとシステムにチェックしてもらいつつ、長い長い契約書を上から眺め、確認事項をリスト化した頃にはそろそろ日付が変わろうとしていた。
「おーわったー……」
「おつかれさん、引き継ぐで」
びっくり箱が書き上がった確認リストを受け取っていく。箇条書きのリストをいい感じの文言に直して先方にメールしておいてくれるの、地味に助かるんだよな。
文章考えるだけだったらAIがやっといてくれんだけど、細かいニュアンスをメッセージラリーですり合わせようとするとどうしても人力が早い。
結局人類はメールを書く仕事から完全には逃げられないんだよな……。
「ふぁ〜〜〜〜、明日は昼からかー」
「梅鉄30年だと12時間くらいか?」
「一応企画書では10時間だけど、まー多分そんくらいだよね。昼くらいから始めて日付超えるくらいに終わるといいね、みたいな」
「完全に耐久配信やんな」
「それな。ちなみに当初予定は100年だった」
「無理やろ」
「無理だよ」
4人プレイ100年だと40時間とかになる。そうするとかかりきりになったとしても4日とかかかるわけで……流石にその企画は参加できないと宣言したら年数が減った。俺は20年って主張したんだけど、オークションの終値は30年だった。
実時間10時間って言うけどさぁ、それサクサクやって演出込み1年20分くらいの計算だろ……あのメンバーでそれは絶対無理だって言ったんだけどな……。
まー知らん。俺の翌日予定は休みにしたから、他の社長連中がどうなろうと知らん。俺は止めた。
「火曜のコラボどうなりそう?」
「ああ、ウィルス性胃腸炎だそうだ。延期だな」
「あー……そりゃだめだわ。大丈夫そう?」
「病院には行ったようだし、連絡も本人からだった。あれは安静以外に治療法もないしな……」
「だな。後で俺からもお見舞いの連絡入れとくわ」
月曜休みからの、火曜が空いて水曜がなんかやる枠で、木曜が動画上げる予定で、金曜軽く雑談の予定で、土曜日は公式情報の後に情報解禁枠か。ってことは火曜は軽くなんかやったほうがいいな。1時間くらいのゲームでも漁るか。
「とりあえずコラボ中止のお知らせ打って、なんか短めのゲームでもやるか」
「そうだな、明日探しておく」
「おう、よろしく」
っし。やることは決まったな。
「土曜の公式配信だが、ギルド内同時視聴の予定か?」
「ん?ああ、そのつもり」
「僕はいなくてもいいだろうか」
「いいけど、どうかした?」
「直前に人と会う予定ができて、帰宅が間に合うか分からない。バタバタするよりはどこかでタブレットから見ようかと」
「ほー、了解。夜配信だけど大丈夫?」
「そこは大丈夫だ」
「そか。まあ分かった。ロイドもいねえのかー、どうすっかね」
ロイドが公式配信の直前に予定を入れているのは珍しい。珍しいけど、まあそういうこともあるか。世間的には土日しか会えない人の方が多いしな。
「他にも誰かいないのか?」
「ドリアンは休みやろ。俺がいるからええんやけども」
「ああ、そうだったな」
ドリアンは来週は休みを取っている。びっくり箱が入ってくれて、スタッフの休みを入れやすくなったのは本当に良かったところだ。
「セリスも文化祭だって」
「……文化祭、行くのか?」
「行くんじゃない?別のクラスの男の子に誘われたらしいし」
「…………」
「………………」
いやその微妙な顔でこっち見るのやめてよ。
「さっさと言ってこいや。ホントに掻っ攫われんで」
「彼女が同年代と普通に恋愛するなら、俺はそっちのほうがいいと思ってるよ」
びっくり箱が険しい顔でこちらを睨む。なんでお前がそんな顔すんのよ。
「大丈夫、配信には出さねーよ」
「そういう話しとるんちゃうわ」
「大丈夫大丈夫」
届かない虹を諦める痛みにも、眩しい日差しから目を背ける後ろ暗さにも、
「――――そのうち慣れるよ」
梅鉄30年参加者は
社長(ガチ)、社長(ガチ)、社長(設定)、社長(あだ名)です。




