5-3.トップタンクと果樹園
「……いど、グライド」
「っ……と、すまん、何だ?」
「何だじゃないが。薬草系のリストアップ終わったぞ、果実系はどうだ?」
「あ……いや悪い、終わってない」
「まあ知ってる」
書き込みマップを共有しているので、手が止まっていること自体は筒抜けだ。
「気になるなら合流してきたらどうだ?嫌とは言われないだろ」
「いや、女友達と遊んでるときに突っ込んでいくヤローとか控えめに言ってキモいだろ」
「あの二人なら気にしなさそうな気がするが……まあ、気もそぞろなら普通に解散するか。流石にこのレベルで手が止まってると進まない」
「あー……すまん」
「まあ、グライドもそういうところがあるんだなというのは初めて知った」
「~~~~~」
言葉にならないため息を吐いてへたり込む。
新エリア中層、どうも安地らしい場所の採取物のリストアップ、なんていう脳死でできる作業で手が止まってしまうとは、自分でも思っていなかった。
「明日はニンカも合流だろ、それまでにその顔戻しておけよ」
「……俺今、どういう顔してる?」
「そうだな、奥歯に物が詰まったような顔をしている」
「どんな顔だよ……」
いやマジ、どんな顔だよ。
「何を気にしているかは聞かないが、言いたいことは本人に言っておけよ」
「言いたいことがあるわけではねえよ」
「どうだか。で、解散でいいか?」
「あー、そうだな。解散で」
プレイヤー:ロイドがパーティを解散しました。
ロイドはあっさりとパーティを解散して、じゃ、と短く挨拶をしてどこかに飛んでしまった。
こういう時のあいつはあまり長居をしない。話を聞いてほしいと思っている時もいなくなってしまうので、いいのか悪いのかは良し悪しだ。
果樹の幹に背を預けて座る。
楽園の果樹園、と書かれたこのフィールドに、今のところプレイヤーはまばらだ。
今最前線にいるようなプレイヤーはあまり植物系の採取を必要としていないから、あまり常駐するプレイヤーがいないのだ。
おそらく完全な安地ではなく、条件ポップ系のモンスターが出るだろう、というのがロイドと俺の共通見解だった。
果実を取りすぎた場合のお仕置きモンスター的なものがいるんじゃないだろうか。条件ポップ系は基本的にボス属性なので、さすがに二人で挑むのはやめておいた。
柔らかな日の照る朗らかなフィールドだ。200レベルフィールドなのでうっかり敵にぶつかったら即死しかねないが、そこに目を瞑れば昼寝に良さそうな場所だと思う。
「匿名希望ちゃんと一緒に行くからいい、か」
ニンカとのチャットルームを開く。
ギルドメンバー情報の中の彼女は順調にレベルが上っていて、何をどうしているのかすでに110レベルだった。
助っ人さんとは問題なくレベリングできているらしい。本当に明日には二次職で合流する気のようだ。
顔向けできない、というのは多分こういうことを言うのだ。
助っ人さんと一緒に組むと聞いたときに、なにか黒い感情が腹の底からせり上がってきて、喉のあたりを焼いた。
自分が思ってしまった感情に遅れて理解が追いついて、ただひたすら自分自身に嫌悪した。
俺は、ニンカはどうせ自分以外とは組めないと思っていたのだ。
その上もうそうではないと気付いたときに、嬉しいよりも先に怖かったのだ。
何が相方。何がパートナー。
明確に言語化されてしまった感情を叩きつけるようにログアウトを選択して現実に戻る。
階下からは酔っ払いの声が響いていた。




