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「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
五章 トップタンクと気持ちの名前

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5-1.???と映画のチケット

「タカ!これ3番テーブル!」

「あいよ!餃子お待ちどう様!ごゆっくり!」

「タカちゃんこっちビール!」

「あ、俺も!」

「はい!ビール2つ!」


 それほど人は多くなくとも、酒の入った大人が4人もいればそれなりに騒がしい食堂で、皿や酒を運んでいく。


 家のこの古い食堂を継ぐ気はないが、それはそれとして手伝いはしなければバイト代という名前の小遣いがもらえないので、混雑時間に給仕の仕事を手伝っている。

 ゲームの時間の確保とカネの確保の両立にも、自宅徒歩ゼロ分の職場はまあありがたいと言えばありがたかった。


 そうこうしている内に一番近くのビルの定時になり、一番いそがしい時間がやってきた。

 といっても本当に毎日来る常連ばかりが席を埋め、数年前、中学か高校くらいの頃まではちょくちょくいた新入社員もここ数年はほとんど見ていない。



「若いのはみんなVRワークだよ。出社してんのはVR慣れしてないおエライサンの相手をしてる中管だけ」


 常連のシュウさんが少し前にそう言っていた。


「今はほら、オフィスワーク用のVR機なら定期券買うくらいの値段でレンタルできるからさ。うちは上の人たちがVR要介護だから俺等は出社だけど。もう都会の会社だと登記用の住所くらいしかないんでしょ?」


 ニュースでもやってるじゃん?とビール片手に回鍋肉を摘んで話していた。


 VRがあれば自宅から顔合わせもできる。

 二昔前の様な、距離感覚も何もない全体でのオンラインビデオ通話ではなく。

 一昔前の様な、結局はキーボードやコントローラー操作を必要とするような疑似VRでもなく。

 没入し実際にその場にいるように会議ができ、全体の声を遠くに聞きながら近くの人との細かい打ち合わせもできるフルダイヴVRは、全世界的に疑似オフィスとしての役割を果たしていた。


 VR歩行が難しい中高年を椅子に乗せて必要な場所にガラガラと引っ張っていく行為は「VR介護」と呼ばれていて、ちょっとした話題になっている。

 最近のVRオフィスには要介護者を引っ張っていく専用介護AIとかもあるらしい。




「そういえばタカちゃんって映画とか行く?」


 常連のゴトウさんが鞄をあさりながら言った。


「映画、っすか?」

「そう、最近の子はもうみんなVR鑑賞かなー?お客さんからほら、隣町のショッピングモールの映画館、あそこのチケットもらったんだけどさ。おじさんもう長時間映画とかキツくて。若い子にどうかなって」


 映画館の優待チケットというものをひらりと渡される。

 どうやら座席購入時に割引になるタイプのクーポンらしい。割引率が90%とかいうなかなか見ない数字だが。


「なんだっけ、最近はホログラム使って3D投影でやるんでしょ?彼女と行ってきたら?」

「いや、彼女とかはいないんすけど……」

「ええー、大学生でしょ?恋人の一人くらい作っときなよー。社会に出ると出会いがないぞ~」


 ゴトウさんはそう言ってぐいぐいとチケットを俺のポケットに押し込んだ。


「それこそ娘さんにあげたらいいじゃないすか」

「それ言う~?もう娘がさ、ぜんっぜん口きいてくんないのよ~思春期っていうの?嫁さんもさ~」


 あんたが毎日飲んだくれて帰ってくるからだろ、という言葉はチケットと一緒にそっとポケットにしまい込む。

 近くの常連たちと愚痴大会が始まったところでそっと席を離れて、もう一度チケットを見た。




 映画館って、車椅子は入れるんだろうか。



 調べたことも、気にしたこともなかった思考が頭をかすめて。



「タカちゃん、ビール~!」

「あ、はーい!」



 客の声に流されて消えた。


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