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「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
一章 ソロアサシンはトッププレイヤーに誘われる

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1-2.ソロアサシンはパーティーに参加する

2025/01/17 改稿

 このゲームは、いわゆるクリティカルゲーだ。

 アサシンはそういう意味で人気職で、パーティーに一人はいるとやりやすいと言われている。

 クリティカル攻撃は属性耐性や一部の防御力を無視するので、上級ボス以上には当然のようについている属性ダメージ無効を無視して属性追加ダメージが入る。

 武器もクリティカル率を上げるエンチャントが流行りで、スキル振りもクリティカル率を上げられるなら素の火力より優先と言われてるほどだ。


 ところが先日のアップデートで、「クリティカル攻撃を無効化する」というボスが追加された。半減とかクリティカルじゃなくなるとかじゃなく、無効だ。攻撃がクリティカルになると、与ダメージがゼロになるらしい。

 まあうん、運営もバランス調整大変だったねという感じだ。

 最新ボスなんて私には関係ない内容だったから、チラ見した公式BBSでトップランカーたちが絶叫しているのをほのぼの眺めていた。


「私、アサシンですよ? クリティカル無効ボスにアサシン連れて行くとかないですよね?」

「あれ、君クリアサなの?」

「違いますけども!毒アサですけども!どの道毒も無効じゃないですか!?」


 ロイドが耐えきれないというようにブハッと吹き出した。


「おいリーダー、そのくらいにしておけ」

「ごめんごめーん。あのね、俺らがほしいのは火力じゃないんだわ」


「……火力じゃ、ない?」


「そ、俺らがほしいのはズバリ、避けタンクなんだよ」



「よけ、、タンク?」


「ヘイトを集めてひたすら避けるタイプのタンクだ」

「あ、はい、存じております」


 概念だけは知っているけれど……。


「実は、ラフェル戦で防御特化装備に身を包んだウチのギルドのタンクが、5秒で溶けた」

「サザンクロスのタンクが溶けるとか、全プレイヤー受けるの不可能なんじゃないでしょうか?」

「そうなんだよねー。今までずっとタンクが受けて俺らで攻撃するスタイルだったから、タンクがいないと何回やってもうまく行かなくて」

「頭を抱えていたところに、ビッグノーム相手に毒アサで大立ち回りをしているプレイヤーがいると、ギルドメンバーが教えてくれた」

「大立ち回りって……」

「パーティー推奨フィールドでソロ狩りでしかも全避けは、十分大立ち回りだと思うよー?」


 リーダーがニコニコ笑う。


「で、どうかなー?報酬はゴールドと、ドロップアイテムの分配、あとうちのギルド倉庫に今よりいい装備があれば持っていっていいよ。宵闇の短剣とか確か素で毒が付いてるからいいんじゃない?」

「宵闇の短剣……!」


 それは欲しい。確か宵闇の迷宮のボスドロップだ。もちろん毒耐性ボスだから私には倒せないボスだ。


「ああすまない、そちらの装備状況を聞いてもいいか?」

「えっと、リリパットの盾に回避30%、服は忍の青装束で、頭と靴が回避5%、胴とズボンが回避10%を積んで、セットボーナスに回避10%が乗って合計70%です。武器はスライトダガーで毒エンチャントですけど、こっちはまあボスにはあってもなくても同じだと思います」

「清々しいまでの回避特化だな」

「確か上忍の青装束が、頭と靴も10%までエンチャ積めるはずだねー。そっちに変えれば10%上がるから、そっちにしよう」

「倉庫にあったか?」

「無けりゃとってくればいいっしょ。ボスドロじゃないから余裕」

「上忍の青装束は、胴だけ回避10%完成してます。それ以外はエンチャ失敗で装備壊しちゃって……上忍装備はエンチャ適性低いので、失敗率高いですよ」

「「課金で余裕」」


 わー、これがトップランカーかー。


「じゃま、商談は成立ってことでいいかな?」

「は、はい、お世話になります!」

「じゃーこれフレコ、今日は上忍装備揃えるから、明日とかログインする?」

「学校があるので、夕方からならいます」

「じゃあ夕方からだね。インしたらチャット送ってよ」

「わ、わかりました」





 翌日ログインすると、本当に上忍の青装束(回避特化)が完成していた。

 聞くまい。これにいくら掛かるのかとか、聞くまい。しばらく課金ショップを覗くのはやめよう。エンチャント奥義書の値段は調べないようにしよう。


「あとこれ」


 といって渡されたのはフェニックスの風切羽だった。


 このゲームでは死亡するとデスペナルティを負う。所持金半減、30分間攻撃力ダウンと獲得経験値50%ダウンのデバフが付き、始まりの街に戻される。

 そのうち、所持金半減・攻撃力ダウンを無効化するアイテムはNPCショップで売られている。フェニックスの羽というアイテムだ。使用すると直近で立ち寄った街で獲得経験値ダウン状態で起き上がる。

 フェニックスの風切羽は完全上位互換で、経験値ダウンも無効化する上に、その場で復活するかタウンに戻るかを選べる。ただしクールタイム1時間なのでボス戦でゾンビ戦法はできない。

 当たり前だけど、課金アイテムだ。


「ボスで死んだら迷わず使ってタウンに戻っててよ。巻き込んどいてデスペナまで入れるとかないっしょ」


 ――本当に、しばらく、ショップは覗くまい。


 それから「敵意の塊」を受け取る。使用すると一定時間敵のヘイトが集まるアイテムだ。こっちは上級錬金で作れる、トップランカー必須アイテムらしい。ゲーム内で作れるアイテムということで安心して受け取った。


 動きの近い手頃なボスで練習し、スキルのクール時間を置いて魔神ラフェルに挑む流れになる。

 手頃なボス(Lv195)なのは、もはや突っ込まないことにした。



 魔神ラフェルの弟神という設定の、剣神リフェルだ。序盤しょっぱなから横薙ぎの剣撃をくらって頭上にMissが表示された。

 思ったより間合いが広い。これがボス。

 二撃目の打ち下ろしをサイドステップで避ける。そのまま円を描くように背後に回り込むと、敵も巨体に似合わない機敏な動きで振り返る。

 すかさずリーダーのバックアタックが決まって、よくわからない桁数のダメージが入った。

 リフェルが大きく息を吸い空気を溜める。咆哮だ。伏せて這うような姿勢になると、頭上をビリビリとした空砲が通った感覚がした。

 すぐに立ち上がってバックステップで移動すると、大剣が私の居た位置に突き刺さる。

 ロイドの大火球の魔法が溜まり、頭上から火の玉が降り注ぐ。アサシンのジャンプブーストスキルを使って高く飛び上がると、足元を横薙ぎがかすめた。

 リーダーの剣撃が決まる。ロイドの雷撃が当たる。私がバックステップで避ける。

 ロイドがバフを掛ける。リーダーが奥義スキルを使う。私が地面に這いつくばる。

 ロイドが氷柱を放ち、リーダーが剣撃を入れたが、咆哮から立ち上がるのが間に合わず二回目のMissが発生する。

 剣を右肩に縦に構えたリフェルの左脇にロイドの奥義が突き刺さり、リフェル戦は終了した。




「即席パーティーの割には良かったんじゃないか?」

「初手ミスしちゃってすみません……」

「いやいや、イカサマダイス舐めてたけどすごいね。高レベルボスの初撃を絶対にスカせるならマジで一考の余地があるわ」

「スキルレベル上げが結構大変なんです。クールタイムが一時間なので回数が稼げなくて」

「なるほどねー。あ、休憩どこでする?」

「休憩前に、穏やかな平原に行ってもいいですか?」



 イカサマダイスは十回分の命中と回避を使い切らないと解除されず、クールタイムは解除から一時間なのだ。

 穏やかな平原というのはいわゆる最初の平原のことで、プチスライムとかがいる。


「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、で、スカ」

 9割命中の攻撃スキルを十回使い、九匹のプチスライムを倒す。

 残ったプチスライムが突撃してきた。


 Miss


 ぴょんこぴょんこと振り返り、また突撃してくる。


 Miss


 超初級モンスターなので動きが遅い。


「ぶっははははははっはははははは!やべえ、高レベプレイヤーがプチスライムに棒立ちしてんのなんかすっげーウケる!超シュール!」


 リーダーがツボに入ったらしく笑い転げながらスクショを撮った。




 穏やかな平原は上空にモンスターが湧かないので、適当な木の上で休憩することになった。


「あー笑った笑った。ごめんねスクショ撮っちゃったけど消したほうがいい?」

「あー……名前載ってないなら好きにしてください。よくここで同じことしてると、初心者さんがスクショ無断で撮っていくので慣れました」

「いやその気持がすげーよく分かる。めっちゃウケるもん」


 ひとしきり大笑いしたリーダーが、そうだ、と動画のURLを送ってきた。


「これ、一番イイ線いった時の失敗ラフェル戦の動画。よかったら見てよ」

「あ、はい。じゃあ遠慮なく」




 リフェルの甲冑をローブにして、大剣を杖にしたようなモンスターが目の前に現れる。

 初手は横薙ぎ。からの打ち下ろし。杖を前に出して横に振ると、前面120度くらいの範囲に炎攻撃。また横薙ぎ、杖を前にグッと出して火の矢が飛んでくる。何度か似たような攻撃をいなし――すごい、ここまで全部ジャストガードしてる。ジャスガは被ダメージ90%カットだったっけ?あ、ここでタンクがダウン、すかさずフェニックスの風切羽で復活。からのボスの奥義メテオが降ってくる。時間差でランダムに降ってきてるっぽいかな……。ここまで5分。そしてメテオを4発食らって、またダウン。

 そしてターゲットがリーダーに向かう。

 炎の波状攻撃を食らってダウンからの、フェニックスの風切羽。奥義を撃つもののHPは削りきれずダウン。最後にロイドに攻撃が向かい、同じくダウンして全滅した。



「最初の3撃は横薙ぎ、打ち下ろし、炎の波状攻撃で確定のようだ。その後はこちらの動きに合わせてランダムで、だいたい5分で奥義ゲージが溜まる」

「なるほど……見た感じ回復は使ってこないみたいですね」


 最後にちらっと映ったボスのHPはちょうど半分くらいだった。

 10分間ボスの攻撃を避け続ければ勝ち、避けきれなければ負けということで良さそうだ。


「シンプルに難しいなぁ」

「そーなんだよねー。こっちの攻撃もシンプルに攻撃力のみの計算だから、武器とか専用に作り直したよ。攻撃力特化」

「メインのクリティカル率特化武器は、行ってみたら20連続無効とか出たからな」

「あれくっそ笑えたよね」

「乾いた笑いだったけどな」


 ふふ、と笑いが溢れる。

 二人がこっちを振り返り、慌てて謝った。


「す、すみません、楽しそうだなーって思って……」

「楽しいよー。君はソロ専なの?ギルドとまで言わなくても、フレンド共闘とか楽しいよ?」

「あ……、その、私、人と喋るの、得意じゃなくて。コミュ障っていうか、その……」

「言っちゃなんだが、なんでMMOなんだ?オフラインゲームも大作多いだろうに」

「…………人が、歩いてるのが、好きなんです」


 自分とは関係ないところで、人がプレイを楽しんでいるのを、ちょっと遠くから眺めながらプレイするのが好きなのだ。

 広い世界で、街にはNPC以外の人が溢れかえって、アイテム交換や、パーティー募集や、ただ喋っているだけだったり、ぼんやりしていたり。

 思いがけない事がどこかで起こる世界で、私がその中の一人になれることが面白くて、好きだ。


「オフラインゲームには、自分の他にはNPCしか居ないので、それが寂しくて」

「あー、何となく分かる」

「MMOの楽しみ方も人それぞれだな」

「俺たちずーっとトップランカーだからねー」

「おかげさまで休憩場所が木の上だけどな」

「あ、これそういうことなんですね」

「俺らくらい有名になっちゃうと、街中だとあっちこっちから声かけられちゃって休憩にならんのよ。いやスキルのクールタイム的にはOKだけど、そうじゃないでしょ?」


 ケラケラとリーダーが笑う。


「ああそーだ、メールしといたアレ、確認してくれた?」

「あ、はい大丈夫です。1時間くらい録画できる設定でした。私の方は名前出さなければOKです」

「りょーかい。10分ありゃ倒せるボスだから余裕だね」

「俺たちが10分持てばな」


 それなーと肩をすくめるリーダー。


 新しくなった上忍の青装束を見る。ステータス画面の回避率には80%の文字が浮かび、全体的に少しだけステータスが上がっている。


 10分。あのボス相手に、10分。




 ――――そんなの、できるかな。


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