16-7.明日の予定は
Subject: 明日の予定ってありますか?
サザンクロスの西生寺理人です。
急なことを聞くんだけど、明日の予定って聞いても大丈夫かな?
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
お疲れ様です、川内紬です。
今短縮授業期間なので、明日は12時頃まで学校です。
特に予定はないので、14時にはEFOに入れます。
どうかなさいましたか?
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
もしよければなんだけど、近くに行くのでお昼ご一緒しませんか?
おるもいるので、嫌だったら断ってくれていいので。
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
えっと……よろしいんでしょうか?
休養期間と聞いていますが、お仕事してませんか?ちゃんと休んでらっしゃいますか?
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
ちゃんと休んでるよ、おると遊んだ帰りなんだ。
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
そういうことでしたら、お邪魔でなければ喜んで。
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
ありがとう。
12:30頃に学校最寄りの駅前に車停めます。
悪いんだけど今メッセンジャー見れなくて。着いたら電話くれますか。
080-XXXX-XXXX
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
承知しました。
制服のままでいいですか?
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
車移動だし、紬さんが気にならないなら制服でいいんじゃないかな。
アレルギーとかある?
Subject: Re:明日の予定ってありますか?
承知しました。
アレルギーは特にないです。楽しみにしています。
おるがやけにでかいスーツケースを持ってきていると思っていたら、中身は殆ど空だった。
そこに余った酒を嬉々として詰め込み、とんでもない重さになったそれを車に積み込む。
「よしっ準備OK!」
「お前のその酒にかけてる情熱はなんなの」
「世界の酒が俺を呼んでいる」
「体壊すぞ」
「健康診断の数値は正常範囲だぜ〜」
「意味わからん……」
時刻は朝8時前。12時過ぎに向こうに着くならもう出ないといけない。
目的地を設定し、車が滑り出す。
高速に乗ると完全自動モードに切り替わり速度が上がった。
「案外あっさりOKでたねえ」
「そうだな。まあ、本人がいいならいいけど」
「楽しみ〜」
「外には漏らすなよ」
「しねーよ」
ダラダラと会話をしながら車はぐんぐん進んでいく。
完全自動運転専用車線では時速150kmまで出せる。SAも何もかも無視すれば、東京まで4時間だ。
「トシさんの件さー」
「ああ」
「夜にちょっと調べたけど、ほら、最近ちょっとランク落ちてんじゃん」
「んー、すまんプロリーグの方の事情はあんまり詳しくない」
「まあ、落ちてんだよ。ベテランが2人抜けて新人が上がったばっかで。あそこは育成チームがしっかりしてっから、ちょい落ちたくらいだけど」
「移行期ならそんなもんだろ」
「そうなんだけど、どうもスポンサーのほうが何かせっついてるっぽいな」
「……やっぱプロになんてなるもんじゃねーわ」
「気持ちは分かるけどトシさんの前では言うなよ」
「言わねーよ。ってかそういうことなら先にこっちに話通せよな。そしたらプロレスくらいやったのに」
俺を怒らせて、怒られましたって伝えることが目的なら、言っといてくれよ。
そしたらこんなにへこまなかったのに。
昨日おるにぐだぐだと話したおかげか、気持ち的には少し落ち着いてるけどさ。
「ワンチャン行けたらラッキーくらいの気持ちはあったんじゃねー?」
「かもな」
車は予定通り12:20頃に現地に到着した。
ちょうど下校時間なのだろう、制服の男女がぞろぞろと駅に吸い込まれていく。
「高校か〜何もかも懐かしいねえ」
「おるは普通校だっけ?」
「そうだよー。進学校って言うにはちょい下くらいだな」
「制服だった?」
「うちは私服だった。制服は中学の時だけだね。リーダーは?」
「制服は……最初の小学校で1ヶ月だけ着てたくらいだな。その後はオンライン校からの専門学校だったから……っと、もしもし、西生寺です」
『川内です。今駅前に……あ、すみません見えました、行きます』
「お待たせしました」
「ちょうど着いたとこだよ。乗って」
「お邪魔します。ええと、おるさん……で合ってますでしょうか」
「…………お、おう。えーとこんちゃっす、おるです、よろしくねセリスちゃん」
「はい。あの、どうかしましたか?」
「あの……思ったこと言っていい?」
「?どうぞ?」
「思ってたのの10倍可愛い子出てきて困惑してる」
「えっ、えと……」
「困らせんな」
「いやー言われ慣れてるっしょ?」
「いや、いえ、あの、えっと、ありがとう、ございます?」
「はー。顔出したら一瞬でファンクラブできそうだね」
「非公式ファンクラブならもうあるぞ」
「え!?何ですかそれ!?」
「あー知ってる知ってる、ファンサークルでしょ、つぶやいたーの」
「知らないです!?」
「勝手に集まって勝手に楽しんでるだけだから、何も手出ししてないからね。正式にファンクラブ作る気があったら言ってくれ」
「ないですっ!」
わたわたと焦る彼女に少し笑いがこぼれる。
「さて!」
「ああ、何食おうか」
「じゃあ俺は帰るから」
「は?」
助手席にいたおるがかちゃりとシートベルトを外し、さっと車を降りた。
「トランク開けてー」
「いや、ちょいまて、飯は!?」
「え、俺は可愛い女の子の顔を拝んだから帰るよ?」
「ちょっと待て!?」
「トランク開けて〜俺の酒〜」
いや……おま……
「おーれーのーさーけ~」
「わーった、わーったから」
ラゲッジのロックを外すと、おるがでかいスーツケースをどかりと持ち出した。
「あんがとねー。じゃあ、俺これから仕事だから!」
「そういうことは先に言え……」
「また酒飲もうな、今度はうまいやつ」
「――ああ」
「そっちも、そのうちちゃんとおしゃべりしようねー」
「え?ええと?え?あ……はい?」
「じゃ、まったねー」
がらがらとスーツケースを転がしながら、おるは本当に帰った。
――――本当に、帰りやがった。
「え…………え?」
「あーうん、どうしようね」
「え、ご一緒するんじゃ……?」
「うん……そのつもりだったんだけどな」
「どう、しましょうか。解散しますか?」
「あーいや、よければ昼はこのまま一緒に行こうか」
「よろしいんでしょうか……」
「いいよ。ちょっと話もしたいし。シートベルト締めてくれる?車出すよ」
「あ、はい」
やりやがったなあいつ、と思いながら、車を出した。




