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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
十六章 地震と落涙

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16-6.海の隠れ家

リーダー@サザンクロス  2日前

急ですみませんなんですが、オーバーワーク解消のため、数日お休みいただきます!

明日予定していた雑談枠は延期します。

明後日の定期なんかやる枠はロイドがなんかやるという噂です!何やるかは俺も聞いてませんw

つぶやいたーも封印するんで動きないけど、休んでまた元気に配信するんで待っててくれなー




 車を小一時間ほど走らせて来たのは海沿いに持っている隠れ家の一つ。

 観光ブーム時に貸別荘として建てられたここは、良く言えばおしゃれな、悪く言えば定住にするには明らかに収納やら何やらが足りない間取りをしている。建てた後に変わった法律の問題で建て替えできなくなってしまい、観光ブームが去り持て余して売られたものの買い手がつかず、捨て値になっていた所を買い叩いた。思いついたときにすぐ使えるようにと依頼している定期ハウスクリーニングの年間費が購入費よりも高いという笑い話のような別荘だ。

 3つほど一人になりたい時用の家を持っているけれど、結局ここが一番良く使っている。

 海が見える街、多分好きなんだろうな。車を転がして道の先に海が見えた瞬間とか、特に意味もなく気分が上向く。


 昨日は着いてから本当に一日中近所の海岸で海を見ていた。


 予備のVRマシンも、ノートパソコンも、タブレットすら持ってこなかった。一応スマホは持っているけれど、つぶやいたーとメッセージアプリを一旦アンインストールしたので、何か連絡が来るとしたら電話だけだ。

 電話番号レベルになると、本当に親しい人にしか教えていない。


 昨日と同じ海岸に腰掛ける。

 3月末の海風は少し冷たい。


 何か考えているような気もするのだけれど、思考が形にならなくて、浮かんでは消えて、浮かんでは消えていく。

 ざあと流れる波の音だけが時間を刻んでいる世界の中で。


 本当に親しい人にしか教えていないはずの携帯電話(スマートフォン)が、本日4回目の着信を鳴らした。


「――――もしもし」

『あ、やっと出たわ。俺俺、俺だけど』

「古典詐欺なら他を当たってくれ」

『ひっどw』

「なんだよ、おる」

『N駅に着いたんだけど、こっからどこに向かえば良い?』

「…………は?」


 聞こえてきたのはここから一番近い新幹線の駅名だ。いや何言ってんだこいつ?


『絶対くんなって話だったら近くのウマい店教えてくれ。それ食って帰るから』

「いや……来る前に聞けよそれは」

『来る前に聞いたら絶対くんなって言うじゃん』

「言うけど」

『ここまで来たらワンチャンOKかもしれんじゃん?』

「馬鹿なの?」

『そうだよ?知らなかった?』

「そこまでとは知らなかったね」

『で、どこ向かえば良い?』

「いやお前、結構いそがしいんじゃねーのか」

『んー忙しいよ。知ってんだろ』

「何来てんだよ」

『そりゃおめー、超落ちてるっぽいダチと酒飲む以上に大事な仕事なんてねーだろ』

「…………」

『で、どこ向かえばいいの?この辺ってことしか知らないんだけど』

「S線でM駅」

『了解、多分30分くらいで着く~今メッセ見てないよね?』

「見てない」

『あいあい~着いたらまたTELするわお迎えよろしく~』


 ぷつりと電話が切れる。


「……馬鹿じゃねえの」


 呟いた言葉が潮風に吹かれて海に溶けた。





「いやあのね、一人になりたい時用の隠れ家って聞いてたからね」

「おう」

「もっとこう、独居向けアパートみたいなのをイメージしてたのよ。何このおしゃれハウス」

「アパート1年借りるよりここ買ったほうが安かった。リフォーム費含めても5年でペイする」

「まじかよ」

「管理できなくなった別荘なんてそんなもんだ」


 駅でおるを拾って、スーパーと酒屋をはしごして酒と食料と酒と酒と酒と酒と酒を買い込んで、家に戻ってきた。

 いや酒買いすぎだろ何日居座る気だよ……。


「いやー飲んだことない酒いっぱいあって超嬉しいwこのあたりはあんま来たことなかったからなー」

「相変わらずだな」

「ふっふーん。リーダーの好きなやつとかある?」

「あー、その緑のラベルのやつは美味かった記憶がある」

「じゃあこれからだな」


 真っ昼間から買い込んだ酒を開封して、目の前にはつまみの山。

 …………まあいいか。休みだし。


「ほいじゃあヤケ酒に、カンパーイ」

「なんだそれ」


 プラコップに入れた酒を適当に飲みだした。


「んで、どうしたー?話聞くよ?」

「なんも」

「実家でなんかあった?ニャオニャオさんの件?トラ小屋のこと?それとも――セリスちゃん?」

「お前こそどこまで聞いてんの?」

「なーんも」

「嘘つけ」

「サザンクロスのメンバーは、だれもなーんも言ってないよ。強いて言うならロイドには体壊したわけじゃないんだなって確認だけした。俺が知ってるのは――――ニャオニャオさんが全然復帰しないこと。ハムさんが突然サザンクロスに入ったこと。ハムさんが抜けたら旧トラ小屋が自動で解散になること。トラさんが急にCCO配信したこと。あとセリスちゃんの件は、俺のところに山程メール来てる。そんくらい」

「お前のとこに来てんのは何のメール?」

「彼女につなぎとってくれーって、今プロやってる大学のサークル仲間から。全部俺のとこで止めてるけど、いいよな?」

「eスポーツクラブか……悪い、助かる」

「いいってことよ。セリスちゃん、ちょっと条件が良すぎるからなー」

「やっぱ、そうか」

「そりゃなー、没入型アクションVRで動画映えする美少女前衛プレイヤーで、参謀もできて、長時間プレイ可能なタイプで、プレイスタイルも避け一辺倒じゃなくて複数持てて、結構喋れて、動画に出る意志のある、実質無所属」


 条件を列挙すると、よそが欲しがる理由はまあ分かる。

 アネシアさんなんかは「動画に出る意思がない」ので、さほど話題になっていない。うちに一度出たのも「今後動画に出ないための動画」だしな。

 ニンカは分かる人には車椅子だと最初から分かっていて、引き合いはなかった。

 プレイが上手くて動画を撮るような女性は大抵大手事務所に所属していて、無所属というのはあまりない。

 いや無所属もクソも、あの子は個人チャンネルすら持ってねえんだっつの。


「本人の顔も良いんだろうなーって言われてるし」

「リアルの顔は出してねえだろうが」

「で、どーなの?」

「…………可愛いよ、すごく」


 サラッとした長い髪に大きめの瞳の、あどけなさの残る、ちょっと見ないレベルの可愛らしい少女だった。


「ホントに聞きたいんだけど、マジ顔採用じゃないの?」

「顔見たのサインの直前だぞ、狙ってるわけねーだろ」

「すっげえ引き。ニンカちゃんとかは?」

「ニンカもかわいいよ。あっちのが小動物っぽいな」

「マジかよ。どうやってそんなのばっか集めてんの」

「集めてねーっつの」


 サザンクロスの顔採用って言われてんのは知ってっけど、ヒャクパーの偶然に何言ってんだ。


「で、何があったの?セリスちゃん周り?」

「まあ……そう。セリスの引き抜き……ってほどじゃねーんだけど、動画とか誘うのにウチを通さないで接触しようとするやつが増えてな」

「うん」

「とりあえず話聞く機会を作ろうと思って、企画受けたんだ。トロイライト、トシの企画室。トシさんから話してくれればそれでよかったし、何も言わないなら、こう……こういう事があって結構困ってんすよねみたいな、相談の体で行こうと思ってた」

「なるほど?」

「でまあ、蓋を開けたら仕込みくじだし。腹黒ジン君はこっち見下してるし。かと思えばフレコ交換してその場で動画に誘い出すし。トシさんはそれ止めねえし」

「はあ~」

「カチンときてその場でちょっとキツめに言っちまって。そしたらなんか、何もかも嫌になっちゃってなー」

「それでここで抜け殻になってんの?」

「そう。最近色々起きすぎで、ちょっと疲れてるのもある」


 適当に酒を継ぎ足す。

 うーん、前に飲んだときは結構美味かったと思ったんだけどな。


「リーダーはさ~」

「ん」

「セリスちゃんのことどうしたいの?」

「どうって?」

「のびのび遊んでほしいのか、配信者として一緒にやってほしいのか~とか」

「のびのび遊んで欲しい」


 即答する。楽しく遊んでて欲しい。


「セリスちゃんはどう思ってんだろうね?」

「どうって?」

「勧誘一度蹴って、なのにサザンクロスに入るために大会入賞までした子だろ」

「うん」

「サザンクロスに入るだけだったら、声かけたタイミングで入りゃ良いわけじゃん」

「そうだね」

「でもしなかったんでしょ。わざわざ大会出て、目立つ形でサザンクロスに入って、動画出演も結構積極的だよね。サザンクロスの方で本数抑えてるんじゃない?」

「ほっとくとオーバーワークな件数入れようとするから、かなり絞ってる」

「ってことはさ、セリスちゃんはもしかしたら、のびのび楽しくってのは求めてないかもしれないよね」

「…………セリスが?」

「うん」


 ぽかんとしてしまう。考えたこともなかった。


「彼女にとってサザンクロスは、トップギルドではあるんだろうけど、それ以上に配信ギルドなのかもしれないじゃん。もしかしたら目立ちたいって思ってるかもしれないし」

「目立ちたいは、ないとは思うけど……」

「17歳だろー?わかんねーぞー」

「……」

「そういう話はしてねーの?」

「……してない」

「前にさー、ほら、俺が事務所所属するって話になったときにねころと揉めてさ」

「ん?ああ、あったな」


 事務所に入るなら俺はもう要らないですねとか言って引こうとして大揉めしてたやつな。


「そん時にリーダー言ったじゃん」

「何を?」

「そういう時足りないのは?」

「……だいたい会話」


 言ったよ。何なら最近も言った気がする。


「明日帰る時さー、車で送ってくんね?」

「はあ?お前東京だろ何時間かかると思ってんだよ」

「どうせリーダーの行き先も関東じゃん、乗せてよ」

「行き先ってお前……」

「え、だってセリスちゃん関東でしょ?」

「……いつ聞いたんだよ」

「イントネーションがちょい関東弁入ってるじゃん」


 わっかんねーよ。


「ってわけで、乗せてって。ついでにセリスちゃんの可愛い顔を拝ませてくれたら超嬉しい」

「……それは本人許可がいるから、ちょっと待て」



セリスはやや首都圏方言。だいたい標準語だけど、ちょこちょこ細かい発音が違う。

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