16-4.新米プロと西生寺理人
『トリプルキャスト ファイヤーバレット メテオバレット サンダーバレット』
『ハイプロヴォケート』
『ブラスターアロー』
『海竜拳』
「「うーん」」
身内配信で共有されているBチームの動画を見ながら、トシさんと二人でうなる。やっぱりダメっぽいな。
チャレンジボスは炎の魔神ラフェル。これは超上級の中ではクリティカル無効という新規要素お披露目ボスで、ラフェル自体は火力一辺倒で防御が低いから選ばれている。
コレ以外の超上級ボスでは、店売り装備ではそもそもロクなダメージが通らない。
Aチームもチャレンジして既に2敗。まったく勝ち目の見えない2敗で、一旦休憩中だ。
いやもう休憩ってかこのまま上がりだろ。後はいい感じにオチ編集すればいいし。
「……リーダーさん」
「うん……俺もそう思うんだけど」
「ふふ、まだ何も言ってません」
「あれ、ああ、ほんとだそうだねw」
「ええ、でも、そうですよね」
だから二人で分かり合うなよ。なんなのお前ら。
「どうしたのさ」
「えーと、トシさん、この後パーティを入れ替えて、サザンクロスチームで挑んでもいいでしょうか?」
「え……えーと、まあ、良いけど」
「ありがとうございます」
「うん、これは肝は」
「グライドさんですね」
「だな」
目の前の画面ではダメージカット率85%のグライドが、既に蒸発していた。
「というわけでな」
「へいへい」
「まあそうだな」
「はい」
リーダー達が戻ったBチームに駆け寄ってパーティを分け直している。
何か数言話すと。着替えがいるとかでタウンに行き、着替えて戻ってきたその姿にはちょっと驚いた。
「え……ビショップ?」
「配信初お目見えってやつっすね。ビショップっす」
ええ、グライドビショップできんの?純後衛サポーターだよ?
リーダーもセリスちゃんも細剣士。ロイドだけはいつもどおりブラックマジシャンだ。
「じゃあ、行こうか」
「打ち合わせはいいんすか?」
「んー、まあ、いらないでしょ」
「少ししましたよ」
ぼくの純粋な質問に、二人が当たり前のようにそう返す。
いや、そんな一言二言何か話したのを打ち合わせとか言われても困るんだけど。
動画は自動撮影カメラに任せ、身内配信として共有された視点はロイドのもの。
開始初手、セリスちゃんのこのゆびとまれイカサマダイス貴方に特別な賞品をが飛ぶ。
最大ヘイトはセリスちゃん。
うーん、かわいい女の子キャラが巨大な敵にひるまず向かっていく様は、やっぱ見栄えがいいな。
「この絵は欲しいっすね」
少々無理を効かせてでも欲しい「絵」はこれなんだな、というのがわかる。人気は確かに出そうだ。
「VRアクション、根本的に女少ないからな」
「ジン、フレコは取れたか?」
「フレンド登録は取れましたよ」
「よし」
「たださあ、トシさん」
「ああ」
「デキてるなら、先に教えてほしかったんすけど」
違うって言ってたじゃないっすか。そっちの方向でリーダーの機嫌損ねる予定はなかったんすけど。
「え、彼が?」
「リーダーが?嘘でしょ?」
マコトさんとフミさんがこっちを見る。
「……悪い、本当に知らなかった。リスナー間でそういう噂はあるけど、いつものだと思ってた」
「いやデキてるでしょあれどう見ても」
「悪かった。誘うときはサシはやめておこう」
「了解っす」
ぴょんぴょんと敵の攻撃を避けていたセリスちゃんのプレゼントが切れる。
そのタイミングでリーダーがこのゆびからの同じコンボを発動してヘイトを奪った。
ちょこちょことバフを打っていたグライドがセリスちゃんにヒール。
画面のロイドは完全一人称ではないから何をしているのか全てはわからないけれど、ガツガツと魔法を入れている。グライドが隠匿でヘイト減らしてるか?
「さっきはちょっと焦ったな」
「すんません、行き過ぎました」
「一緒にいるのがロイドだったらもうちょっと押しても良かった。リーダーが一緒だとやっぱやりにくいね」
「くじ、逆にされましたからね」
「あれはバレたねぇ」
ああ、あれやっぱバレてたの。
リーダーのプレゼントも切れる。セリスちゃんが踏み倒しからMPポーション使ってまたコンボに入る。
MP半損許容すんのか。ポーションのクールタイムキツいはずなんだけどな……。
またリーダーとセリスちゃんがスイッチ。
ラフェルのHPはジリジリと削れていて、もしかしたらそろそろ奥義が見れるかもしれない。
少しづつバフやヒールで稼ぎ続けたヘイトが、とうとうこのゆびとまれを上回った。
敵の視線がグライドに向く。
『グライド!』
『女神の息吹!』
「ヒュゥ」
「ここで完全回復かあ」
グライドは覚醒技発動後、即座に蒸発した。
いや完璧だわ。
ヘイトはまたリーダーへ。
裏でセリスちゃんがこのゆびとまれを発動してる。――ああ、グライドいなくなったから隠匿がなくなんのか。ロイド落ちたら負けだもんな。
ヘイトがリーダーとセリスちゃんを行ったり来たりしながら、ラフェルの一度目の奥義が降ってくる。
そしてややあって――――
『だめだな、ここまでだ』
ロイドの魔法が、止まった。
「いやーダメだったねw」
「MP切れさえ回避できればギリギリ行けそうでしたよね」
「上級エリクサーか、EXポーション系が解禁されたらいけるか?」
「出来ればグレゴールの腕輪だけは欲しい。根本的にMP量が足りていない」
「つまりそれくらいあればラフェルは技量で倒せそう!」
「特化グレゴールと上級エリクサーなら通常プレイで十分作れますから、現実的なアンサーになりそうですね」
「ヒント:ロイドは現実的じゃない」
「そうでした」
サザンクロスがワイワイと喋りながら帰ってきた。
いや未だに倒せてないプレイヤーの方が多いボスに向かって何言ってんだよこの人達……。
あとセリスちゃんがめっちゃ楽しそうに喋ってる。何それ、そんな顔できんの。
「おっつかれリーダー!」
「お疲れ様ですトシさん」
「こりゃ編集が地獄だわなんてことしてくれたのよw」
「そこは頑張ってw期待してる!」
セリスちゃんは少し離れてロイドやグライドと楽しげに話している。
リーダーはそれを横目に確認してから、もう一度こちらのメンバーを、実に笑っていない目で見据えた。
「……トシアキさん、ジン君」
「どうしたリーダー、改まって」
「これは西生寺理人の言葉だと思ってほしいんですけれど」
背中がまたひやりとする。トシさんが背筋を一瞬伸ばしたのが分かった。
「セリスは弊社がマネジメントを担当しています。動画の出演を前提とするお誘いは、原則弊社を通して下さい」
「それは……もちろん」
「楽しく遊ぶだけのプレイを牽制するつもりはありません。ただ――彼女の少ないフレンドを嗅ぎ回るような真似も、可能な限りお控えいただければと」
変な声を出さなかったことは、ぜひとも褒めて欲しい。
「以上です。――――楽しかったよトシさん、また誘ってね」
「……ああ、もちろんぜひぜひ。次も彼女が一緒だと嬉しいな、いい絵が撮れるからさw」
「それは企画による~。あんま喋るタイプの企画はやってねーんで、そこは勘案してね」
「大事にしてるね」
「そりゃあね。――――そこの三人~、今日はてっしゅ~」
「あ、はい!ええと、ありがとうございました!」
「楽しかったっすー」
「終わり挨拶は撮りますか?」
「いや、終わりはデデンで落とすから大丈夫だよ!」
「ラッシュ結構きつかったんで俺は今日は落ちます」
「グライドさんお疲れ様でした」
「おつです~マコトさんたちもどうもっした」
「ああ、また遊んでくれよな」
サザンクロスのメンバーがパラパラと解散していって、後には俺達だけが残った。
「いや~、こわっ」
「リーダーが名前出すのは中々、怖いものがあるねえ」
「どうしますトシさん……トシさーん?」
「いやーちょっとまって、結構緊張したからまじで待って」
へたり込んだトシさんの頭をフミさんがべしべしと叩いた。
「はー……まあこっちは予定通りだな、そのまま上に伝える。俺もやりたくねーの分かってほしい。ほんとに」
「まあリーダーはそこは分かってるでしょ」
「次のEFO企画リーダー達呼べっかな~~大規模企画はサザンクロス出ないと絵が悪いんだけど」
「まーこれ以上ちょっかい出さなきゃ良いんじゃない?」
「俺だって出したくないんだよ~~~~」
スポンサー意向なんだよあのクソハゲ野郎~とさめざめと言うトシさんを見て、上に立つのはやめておこうとひっそりと思った。




