16-2.新米プロと毒アサシン 上
(普通の女だな)
大会は初見殺し連発だった。あの作戦を本当に一人で考えたなら参謀としては確かに優秀だろう。本当に一人で考えたんならな。
動きは、まあ、始めて1年にしては結構良い。
継戦時間の長さはもちろん強みだろうけど、どうしても欲しいという程ではないと思うんだけどな。
配信慣れしていない喋り。明らかに緊張した表情。自信のなさげな視線。
トシさん達上位陣がどうやって勧誘するかと真剣に話し合っていたから、どんな切れ者プレイヤーが出てくるのかと思っていたけれど。
普通の、そう、クラスの後ろの方の席に座っているような女だ。
同い年のお前が来いと言われて意気込んできたけれど、肩透かしをくらった感は否めない。
まあプレイ技術も悪くはないし言動もあんまりわざとらしさのない天然っぽい感じだし、マスコットとしてはいいかもな。サザンクロスの顔採用は有名だから、本人の顔もいいんだろうし。
珍しくロイドが先にくじを引いたのでリーダーとロイドの組分けが逆になったけれど、それ以外は概ね想定通りに接近し、話しかける。
上からのオーダーは「仲良くなれ」。勧誘は無理のない自然な範囲まで。次に繋がるのがマスト、スポット助っ人が可能になればベスト。
ま、フレンドリーに行きましょ。フレンドリーに。
返ってきたのは作ったような笑顔。話にも距離感がある。異性慣れしてないやつか?サザンクロス男ばっかだろ、ってことはそういう演技か?
「ほいほいおしゃべりしてねーで、そろそろ行くぞ」
「はーい、行こっかセリスちゃん」
「あ、はいっ」
隣位置をキープして歩き出す。ま、企画は真面目にやりますよ。
「まあ中級でコケることはねーな」
「それはそうよね」
「セリスちゃーん、大丈夫?」
「えっと、その、すみません……」
一人だけ死んだ彼女に笑いかける。
回避の難しい範囲スキルを、癖のように攻撃姿勢で受けようとして死んだ。
「今日は完全無敵ついてないからねw」
「ごめんなさい……つい……」
「まーセリスの動きはイカサマダイスの完全回避ありきだからなー」
「うー、すみませんでした。気をつけます」
「この手の企画あるあるだあねw」
「今頃グライドもジャスガのダメ計間違ってたりすっかもな」
「それはそれで見たいすね~」
「マコトの撮影力に期待だな」
「自動撮影だから撮影力とかないっしょw」
グライドこそ、メンバーにほしいと思うんだけどな。
まあそのへんはトシさんも考えてるか。
「セリスちゃん」
「あ、はい」
「ほら、次行こ?やってりゃそのうち慣れるって」
「あ……ありがとうございます」
ふわりと微笑んだ彼女の手を引いて立ち上がらせた。
うんうん、いい感じじゃね?
その後は特に事故ることもなく中級ボスはクリア。
小休止を挟んで上級ボスを3つクリアしたら、とりあえず企画としては完遂だ。超上級?無理に決まってんだろ。あれはオチ用なんだから。
彼女が休憩中になにかの動画を見ている。
「何見てんのー?」
「えっ、あ、えと、次の、ローム古神殿のボス動画です」
「予習?」
「ええ、実は倒したことがなくて」
「そーなの?」
「毒無効ボスは、必須でない限りほとんど戦ったことがなくて……魔弱点突耐性ですよね、構成どうしようかな…」
「まー無難にクリティカルじゃね~?」
「そうですね、とりあえずそれでいいかな…すみません私双短剣ができないのと、クリティカル側のツリーはあまり育ってなくて、クリティカル構成にしてもあまり火力でないんです」
「ぜんっぜん倒せなさそうだったらその時考え直せばいいんだよ~。みんなでワイワイ考えるのも楽しいよ?」
「そう、ですね。ありがとうございます」
「サザンクロスではあんまりそういうのやらないの?」
「えっと、まだ入って日が浅いのと、私が入ってからは新ボス、フィツィロだけなので、構成相談するレベルのボス戦はしてないんですよね」
「もったいねー。みんなで構成考えてる時間が一番楽しいのに」
彼女が曖昧な顔で微笑う。まだギルドに馴染めてない感じ?これこのまま引っこ抜いていいやつ?
「ねー、サザンクロス楽しい?」
「えっと?はい、楽しいです」
「そっか」
気負いのない返事。嘘ではなさそう。仲の良いプレイヤーがいる、とかか?それだとあんま下げんのはだめだな。
「楽しいのはいいねー。企画も、楽しんでくれたら嬉しいな」
「ふふ、そうですね」
お、今の笑いは素っぽかったぞ。
「ま、攻撃姿勢受けはもう使わないでねw」
「使いませんよ…………たぶん」
「自信ねーのかw」
「普段からほとんど無意識なので、完全に止めるのは難しいですねえ」
彼女はあまりわざとらしさなく困った顔で微笑った。
「まさかここで詰まるとは…」
「MP切れかー。どうすっかね」
物理防御の高いボスゴーレムに対して、魔法火力不足でのMP切れ。
EXMPポーションが使えないのが完全に響いてんな。使えりゃ余裕なんだけど。
「ちょっと、レベルは低いんですが、ひとまず私がセージになりますか?」
「お、賢者持ってるの?」
「えっと、170レベルくらいなんですけど……。素材集め用キャラなので、振り方もちょっと甘くて……」
「まあ純魔火力あれば行けそうだし、一旦それで水エンチャあたり掛けてもらうのが良いんじゃねーっすかね」
「そうだね!お願いしよっか!」
「はい。えっと、着替えてきますね」
銀髪に翡翠の瞳。色味がガラッと変わった彼女が戻ってきた。
「配信とかする予定じゃなかったので、サブキャラの見た目は遊んじゃってて…」と頬を掻く。
「配信でピンクセリスとか緑セリスとか呼ばれてて、それはそれで人気になっちゃったんだよな」
「もう今さら揃えられなくて……でもエクストラまでキャラ増やすと見た目考えるのも大変なんですよね……」
おおう、まあ動画人気は正義だからな。
……いやそれに結構かわいいな。こっちの色のが好みだわ。
レベルは172。ここの適正が175だから、まあ行けるだろ。
「そういや銀セリスは動画初出じゃないっけ?」
「え、そうなの?ご挨拶する?」
「え、あ、じゃあ、ええと一応……サブキャラのセージです。っていっても、素材狩り用なのであまり動画では使わない予定ですけれど。よろしくお願いします」
「前衛職が魔法もできるのは結構珍しいよね」
「バレット8球操作とかは全然できないですよ。頭の使うところが違いすぎます」
「4球はできるの?」
「えーと、ギリギリ…2:2の高度維持までですね」
「このボスならそれだけできりゃ十分だあね」
「ボス入り直後にウェポンエンチャ水で頼む。それ以外のバフは多分いらん、攻撃に振ってくれ」
「承知しました」
「トシさんのウォーハンマーはこのゆびいける?」
「もっち」
「じゃあ俺とトシさんでヘイト取り合う感じだな。ジン君は足で稼いでスキル刺してくれ」
「りょーかいっす」
ちょっとばかり過剰な連携をとって……ボスは粉砕された。




