13-3.本当に鏡を出すやつがあるか
「セリスー、今日ヒマ?」
ギルドハウスで倉庫をいじっていたら、ニンカさんが声をかけてきた。
「えっと、この後シアさんのギルドにお呼ばれしているので、あまり暇じゃないです、すみません」
「あや残念。……シアさんて、アネシアさん?」
「はい、そうです」
昨日の今日で「よかったらギルド来ませんか」と声をかけてもらった。昨日の終わり私絶対感じ悪かったし会いにくいな、でもここで会わないとずるずると気まずくなりそうだな、シアさん相手に気まずくなるのは嫌だな……とだらだらと考えて、結局承諾した。
リアルの用事が終わったらすぐに行くと言われて、今は待っている状態だ。
「それあたしも行ってもいい?」
「えーと、シアさんに聞いてみないとですけど」
「聞いて聞いて!立ち上げ直後のギルドって実は見たことないんだよね!」
「そうなんですか?」
「あたしがここ入った時はもうギルドレベルマックスだったんだよねー。小さい苗木のギルドの樹って見たことないのよ」
「なるほど、聞いてみますね。って言っても、今リアル用事らしいんで戻って来るの待ちなんですけど」
一人で行くよりもいくらか気が楽かもしれない。
そう思いながらメッセージを送った。
「おじゃまします」
「おっじゃましまーす!」
「いらっしゃい、セリス!ニンカさん!」
若葉ギルド支援セットだけが置かれた談話スペースに腰掛ける。
真っ白な壁に壁掛け棚がつけられ、色々なぬいぐるみが雑多に飾られていた。
「あ、これサブクエストでもらえるやつですか?」
「ですです。壁がさみしいねーって話をしてたら、ネットでこれが飾れるって見たので。皆で持ち寄ったんでなんかごちゃごちゃしてるんですけどねー」
「ウチのギルド、あのクエストで貰えるぬいぐるみのコンプを目指す部屋があるよ」
「え、そんなのありました?」
「あるある。壁一面にずらーっとぬいぐるみが並んでる。おもちが管理してるから、セリスも持ってたらあげてみて」
「あ、はい。今度聞いてみます。まあそれだけあったら被ってる気がしますが」
「コンプするとコンプ称号があるらしいんだけど、まだ出ないんだよねー」
「どんだけ種類あるんですか、あのクエスト報酬……」
「部屋数ってどれくらい増やせばいいんですかねえ?」
「ギルド員6人だっけ?じゃあとりあえず20くらいでいんじゃない?」
「それくらいでいいんですか?」
「一般的にはギルド員の2〜3倍くらいって言われてる」
「ああ、そんなもんなんですね」
「サザンクロスは配信用の部屋とか、茶番劇をやる用の家庭風エリアとかで一般にはいらない部屋が多いので……」
「茶番劇やる用の家庭風エリアwwなんですかそれ見たいwwww」
「動画あるよー、これこれ」
「ここがギルドの樹ですー」
「樹……?」
「葉っぱ?」
「ええ、はい、樹というよりはまだ芽ですね」
「これがあそこまで育つの、楽しみですねえ」
「いやー最高レベルはムリですよ。半分も行けるかは微妙です」
「そうなんですか?」
「ギルド員だけでレイドをやるクエストとかあるんで、6人じゃちょっとむずいですねえ」
「なるほど……それは大規模ギルドにならないとムリですねえ」
「さて、改めまして」
談話室に座り直して、シアさんが頭を下げた。
「昨日はありがとうございました。ほんっっっとうに助かりました」
「あ、あの!ぜんぜん!私は結局お役に立てなくて!」
「いえいえ!リーダーさん呼んでくださって助かりました」
「大体聞いたけど、大変だったねー」
「はい……妹は交友関係も広いので……中にはそういう人もいると勉強になったみたいです。勉強代が私の胃壁だったことについてはちょっといいアイスで手を打ちました」
「まあ中学生だっけ?そんなもんっていやそんなもんよね」
「情報の授業でリテラシー関係はやってるはずなんですけどねー」
なかなか実感にはならないですよね、とシアさんは肩をすくめた。
妹さん――イモリアさんには実はまだ会ったことがない。運動部で、EFOは本当に趣味程度であまりやっていないらしい。
「セリスも、ごめんね」
「謝られるようなことは何もないですよ。お役に立てるかは微妙ですけど、いつでも相談して下さい」
「いやそっちじゃなくて……あの、結局リーダーさん頼っちゃったので」
「?リーダーさん呼んだのは私ですが?」
「セリスが嫌そうだったから」
「……いやそう……でしたか?」
「うん。彼氏さんと話し込んじゃったの嫌だったかなって、後で思って。だから、ごめんね」
――――――――うん?
「え!?セリスそういうやつ!?」
「え?は?へ?あの?」
「……あれ、違った?」
「いや、え……あ、あの!ち、ちがいます!」
「あらら、それは勘違い……でもない?」
「かんちがいですっ!あの、そういうのはご迷惑になります!」
え、え?何で?何でそんな話になってるの?どこから?なんで?
「あ、あー、これはまたなんというか、ええと……」
「落ち着けセリス~、アネシアさん鏡ある?」
鏡?え?何で?どういう?
シアさんが何かしら操作して、テーブルの上に鏡が召喚される。
そこには、耳まで真っ赤に染めた藍色の髪のアバターが映っていた。
ばたんとテーブルに突っ伏す。
ちょっとまって、だれこれ。
誰かが頭を撫でてくる。どっちだろう。
……いや手が二つになった、二人ともだ。
「なにそれ超聞きた~い、リーダーってマジ?いつから?」
「昨日のアレで気付かないのはそれこそリーダーさんくらいのものですよセリス~」
「え、昨日なにあったの?あ、アネシアさん名前呼び捨てでもいい?」
「どーぞどーぞ。いや昨日リーダーさんにギルド設定教えてもらってたんですけど、ほら初期ギルドとカンストギルドじゃ設定項目数が違うんで、リーダーさんが言った場所に設定がなくて。画面共有して見てもらってて」
「あーそりゃしょうがない」
「結構距離近いまま動画撮影の話とかしてたら、気付いたらセリスがちょ~びみょ~な表情してて」
「見たいw」
「あ、やっちゃった、って思う表情でしたねー。それでそそくさとログアウトしちゃうしで」
「まじか」
「それで今日リーダーさん抜いて謝りたかったんですよー」
「なるほどなー」
「セリスも分かってると思ってたんだけど、もしかして分かってなかったやつですかね?セリス~?」
ぜんっっっっぜん分かってなかったですね!?
おそるおそる顔を上げると、大変に良い笑顔のニンカさんがこちらを覗き込んでいた。
「で、で?リーダーとはどんな感じなの?」
「あのっほんとうにちがうんです!」
「そういうのはもうちょい違うって顔できるようになってから言え~!」
「本当に、本当に、違うんです。あの……相手として見られていないというか……その、そういう意味では、多分避けられて、います……」
「え?」
「そう、なんです?」
どこまで、話していいんだろう。話していいんだろうか。いいとは言われたけれど、本当に?
「セリス、顔色悪いです、大丈夫?」
「っす、は、すみません、大丈夫です」
「ねえ、それさ、収録の前にリーダーと喋ってたやつ?」
「………………………そうです」
「黙ってろって言われた?」
「いえ……信頼できる人相手なら、話していいって」
「あたし、信頼できない?」
「信頼してますっ!」
「アネシアは?」
「してます、もちろん」
「じゃあ話しちゃいなよ。一応ウィスパー入れようか」
ニンカさんがテキパキとパーティを組んでウィスパーモードに入る。
彼女に押されて、ぽつりぽつりとあの日のことを話した。
ニンカがアネシアの状況を知っているのは検索魔がネットの一部で話題になっているのを知っていたからです。




