13-2.鍵垢なのは当人だけ
「セリスどうした?……っと、アネシアさんいらっしゃい」
なるべく急ぎで相談したいことがあります、とメッセージを送ったら、リーダーさんが駆けつけてくれた。
見た目はいつもどおりの金髪碧眼だけど、レベルが低い。サブソードマンのレベル上げをしていたらしい。
一番小さい会議室に私とシアさん、それからリーダーさんの3人が座る。
「お邪魔しています」
「すみません、今お時間大丈夫でしたか?」
「まあサブのレベル上げしてただけだから大丈夫だよ。今日は配信もないし」
「あの、シアさんのギルドの件で知りたいことがあって……ちょっと調べたんですが分からなくて」
「うん?」
「あの……実は……」
身内ギルドに入る方法は、管理権を持つプレイヤーから直接招待を受けるのと、招待コードから申請する方法がある。
妹さんとプレイ時間が合わなくて、招待コードを送ったそうだ。
喜んだ妹さんが招待コードのスクショをつぶやいたーに載せてしまった。
その段階では妹さんは鍵垢なので、すぐに消しなさいと言って消して、それで終わったそうだ。
妹さんのフォロワーが別の場所に転載して、今ひっきりなしに招待コードからの申請が届いているらしい。
「すごく……困っていて……ギルドって解散から一定期間私はギルドリーダーになれないので、そうすると他所からのギルド招待は届いちゃうじゃないですか……」
「ああ、なるほどね。えーと、招待コードリセットはどっかにあるよ」
「ホントですか!?」
「よかった!情報がぜんぜん見つからなくて困ってたんです!」
「あー、ギルド関係はゴミみたいなネット記事いっぱいひっかかるもんな……ごめん俺もやったことはないからちょっと待って。えーと、ギルド管理の、招待コード……発行じゃねーな、えーとこっちか?えーと……」
リーダーさんは内容の読めない仮想ウィンドウをいじくり回し、しばらくしてからあったあったと言った。
良かった、解決しそうだ。
「これだわ、招待コードの破棄。えーと、ギルド設定開ける?」
「はい」
「右下のその他の設定から、こっち入って、左下にあるこの項目の」
「えーと、ここに入って……あれ?」
「ん?」
「え?左下ですか?」
「そうだけど……あー、そうか項目数違うのか。ごめん画面共有してもらっていい?」
リーダーさんがシアさんの画面を覗き込んで設定を探している。
「ああこれこれ」
「あ!こんなとこに!?わかんないよーっ!」
「EFOそのへんのあんま使わない設定周り、ちょっと不親切だからなあ」
「ありがとうございます!助かりました!」
「妹さんにリテラシー周りはちゃんと話しときなよ」
「それはもう、サブリーダーに任命してすごい量の申請をすべて却下する作業をさせたので、死ぬほど反省しています」
「ひでえわw」
「あと、できればもう一件お願いしたいことがありまして……無理だったら構わないんですが」
「おう?俺に?」
「リーダーさんにというか……サザンクロスで、神出鬼没の解説動画を撮らせてもらうことってできますか?」
「そりゃ願ってもないけど、何でまた?」
「こちらも、メッセがものすごくて……ですぺなるてぃの方とか本当に毎日送ってくる勢いで……」
「あ、あー……ですぺなは、多分解決したから、もう来ないけど」
「そうなんですか?まあ、それ以外もすごくて。動画にしちゃって後は無視したいんですよね」
「最初から全部無視でもいいんじゃない?」
「うーん、せっかく遊び人選んでくれたわけですし、いい動画がないせいで諦められちゃうのは嫌だなーという気持ちもちょっとありまして……ただ自分でチャンネル管理とかは、ちょっと難しくて……」
「そういうことなら喜んで。親御さんに許可は取った?」
「取りました」
「準備いいなwじゃあ――――」
設定リセットをし終えたらしい二人が、設定画面をいじっていた距離で話し始める。
喉の下の当たりがじりじりする。なんでだろう、嫌な感じだ。
「~~~だな。そうすると……なあセリス、……セリス?」
「えっ!あ、はい!すみません聞いていませんでした!」
「いやそうだよなごめんwアネシアさんの解説動画、聞いたり実演したりする役がいるんだけど、セリスやる?」
「え、ええと、私でいいんでしょうか……?」
「まあやるなら相方か動画主じゃね?」
「ああ、そっか、そうですね。ええと……シアさん、は、どっちがいいですか?」
「どうせやるならセリスがいいです!」
「じゃあそういうことで。細かい調整は悪いけど今度、ロイドかドリアンがいる時にさせてくれ。あとでメッセするわ」
「あ、はい!ありがとうございます!」
シアさんがリーダーさんから離れてこちらに来る。そのことが妙にホッとする。
「セリスもありがとう!ほんっっっとうに助かったよ〜!」
手を取ってぶんぶんと振った。
「解決してよかったです」
ああ、嫌だ。
「すみません、私そろそろ落ちます」
「あ、そうなの?」
「はい、結構入ってるので」
「朝からだったもんなw」
「…………もうやりません」
「あ、じゃあ私も御暇します、ありがとうございました」
「おう、お疲れ様」
「それじゃあ、失礼しますね」
話す二人を見たくなくて、返事を待たずにログアウトを押した。
嫌だ、本当に。
胸のあたりがざわざわする。笑顔がうまく作れない。
友達に、こんな気持に、なりたくないのに。




