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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
三章 トップアサシンと人魚の足

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3-2.トップアサシンと初めての

 種族の決定、外見の決定、コンソール基礎操作の説明。

 設定項目の中の「歩行補助システムの強度」を最大値に設定。



 しかして完成したアバターは、しっかりと地を踏みしめて立っていた。



 前に歩く。

 父や母の歩き方を思い出す。

 足首がバネのように地を蹴り、膝が柔らかく曲がり、すっと足が前に出た。


 一歩、二歩、三歩。


 膝も足首もぐらつかない。


 四歩、五歩、六歩。


 足の裏に体重がかかり、大地の感覚が返ってくる。


 たったそれだけのことで鼻の奥がツンと痛む。


 走ってみたい。

 そう思った直後に、無機質な白い世界だったはずのキャラメイク空間が、どこまでも続く草原に切り替わった。

 体育のマラソンをしていたクラスメイトの姿を思い浮かべる。

 足が一歩を踏み出して、踏み出して、踏み込んで、一瞬だけ、体が浮いた。


 一歩ずつ、一歩ずつ、足を踏みしめて大地を蹴る。

 風が頬を切る。景色が後ろに伸びていく。


 止まりたい、と思うと足が止まり、景色が止まった。

 スタミナ消費というシステムに関連付けられた足の疲労感すら、心地よかった。


 あたしは自分でもよくわからないままうずくまってボロボロと泣いた。



 30分ほどして、チュートリアル未完了のアラートに反応した運営の人が来るまで、歩いたり、走ったり、泣いたりを繰り返していた。






 ……さて、別に歩いたり走ったりだけがチュートリアルではない。

 次はジャンプ、そして攻撃防御のチュートリアルに入るのだが…………


「ジャンプの仕方が、わからない?」


 運営の人が困った顔で首をかしげる。



 ジャンプというのは、私にとっては本当に未知の動作だった。

 さっき走っているときに体が少し浮いたが、それを縦にするのはどうしたらいいかわからない。

 そして、健常の人は、歩行補助があればジャンプもできるらしい。


 先ほどとは違う涙がじわりと目尻に浮かんだ。


「うーん、分かりました。つま先立ちはできますか?踵を上げて、下げて、上げて、下げて、ああ上手です。それでいけますね。ちょっと待ってください」


『…………で、~~~~の動作の、ーーーーー設定のとこから、そう、モーション登録するから、あとスキル項目のXXXXXXを権限付与して、できた?おーけー?じゃあはい』


「すみません、確認できました。もう一度つま先立ちを何度かしてもらえますか」


 どこかに通話していたらしい運営の人に促されるまま、また何度か踵の上げ下げをする。この動作も少し楽しいのが、一周回って少し恨めしい。


「はい、OKです。ちょっと飛ばしてスキル動作の話をするんですが、スキルを発動したいと思いながら、スキル名を声に出すか、思考でスキル名の名前を念じるかで動作します。まずはスキル名を唱えてみましょう。【ジャンプブースト】」


「え、えっと、ジャンプブースト」


「はい、その状態でちょっと勢いよくつま先立ちをどうぞ」


「え?はい?え?えわわわわええええええええぶえ」


 体が勢いよく上に飛び上がって、着地に失敗して地面に激突した。


初ジャンプ(・・・・・)、おめでとうございます」



 ジャンプブーストは本来ジャンプ動作中に、所定のジャンプ高度を追加するというスキルらしい。


「レベル20になると開放される転職というシステムで、シーフか遊び人という職業を選択すると取得できるスキルです。

 今回は運営権限で、ニンカ様のアカウントに直接特殊なジャンプブーストを付与しました。つま先立ちの状態をジャンプ中という判定に書き換えているので、ジャンプブーストのスキル中につま先立ちになれば、擬似的にジャンプが可能になります」


「え……え?それいいんですか?」


 本来レベル20になったら開放されるスキルを先渡しでもらってしまったのは、ありがたいけれど本当にいいのだろうか?


「“すべての人に、ゲームを”。わたくしどもの基本理念でございます。もしユーザー努力にて通常のジャンプを習得したと判断した場合には、スキルの設定を通常に戻させていただきます。

 さて、大変申し訳有りませんが、他のユーザーの心証を鑑み、ジャンプブーストを思念発動できるようになっていただきたいのです」

「それは……そうですよね」


 他の人が入手できないスキルをレベル1から使っていたら、それは確かに周りがいい気分にならないだろう。


「ジャンプブーストのみ、思念発動の受信強度を一番ゆるいものに変更しました。何回か試していただければ問題なく発動できると思います」


 いくつかの注意事項や特例の承認書類というものを提示して、サインの入ったそれをしまい込むと運営さんは帰っていった。


 あたしはその日一日中、チュートリアルフィールドで走り回って転げ回って飛び回って遊んだ。


 さすがにゲームの中とは言え、人目のあるところでこれはできないだろうと思ったから。もしかしたら運営内ではチュートリアル未完了アラートというものが鳴りまくっているのかもしれないけれど、そこは勘弁してもらおう。



 すべての人に、ゲームを。



 この日あたしは、初めて足を手に入れた。

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