11-4.ワークスペースの溜め息
リーダー視点
「――――ということがあったんだ」
あの後続々と到着するトラ小屋メンバーに囲まれながらひたすらジャストガードの練習をする彼女を横目に過ごすこと2時間。
セリスの疲労困憊でその場はお開きとなった。
「………………どこから突っ込めばいい?」
「いや、本当に……」
EFOからはログアウトしてやってきたサザンクロスワークスペースで顛末を話すと、二人が頬を引きつらせた。
「あ、あとセリスが大会の完全一人称を録画してるらしくて、どうすればいいかって」
「彼女は爆弾発言しかできない病でも患っているのか?」
「ちょっと可能性はあるけど……サザンクロスに入るなら必要なんじゃないかと思ってたらしいよ」
「専業でもない彼女にそこを求めるわけないだろう……」
ロイドの言いたいことも分かるけど、彼女はそのへんの塩梅をよく分かってないんだよな。多分動画自体あまり見ないんじゃないだろうか。
「……ひとまず、完全一人称の大会動画はアップロードだけしましょう。解説はもう他所に任せましょ、ムリでしょ捌くの」
ドリアンが頭を抱えながら言った。
動画の扱いは条件付き二次利用可でいいと言っていたので、そうしてしまおう。
大会解説はハタさんじゃ分からない部分が多すぎて、どうしても俺かロイドがいる。今は案件が多すぎてとてもではないが手が回らない。
「トラキチの擬音祭りって、あれ本当に解説だったんですね……」
「それはまじで思った」
「セリスに例の動画を見てもらって、解説を付けてもらうか?」
「少し古い動画だから一応トラの許可も要るけど、本気で一考の余地があるよな。セリス自身に解説させるよりはいくらか心理負担も少ないと思うし」
実は以前、サザンクロスの前衛の希望でトラキチに武器チェンファイターの解説をしてもらった時があった。
一応動画も撮ったけど、今日とほぼ同じ大量の擬音語と意図のつかめない単語の羅列で説明が埋まり、俺を含め誰一人理解できなかった。
セリスは紹介動画で聞いた感じある程度文章で言語化できているから、翻訳できるなら是非頼みたいところだ。
「で……お前のスキルを見切ったって?」
「うん……大会で使ったやつだけだけど、だいたい分かってた。あのタイミングでスキル分かるなら、全部ジャスガできると思う」
「とんでもないな……」
「トラ以外にあれできる人、いるんですね……」
「それで、再戦か……」
「どう思う?」
「受けるしかないだろう」
ロイドが盛大なため息を吐いた。
「やっぱり?」
「ええ、まあそうでしょうね……日時指定は?」
「来週、土日のどっちかじゃないかな…」
「午前なら予定はないです。午後だと、リーダーの時間が厳しいかと」
「来週午後…ああ、インタビューと打ち合わせか。そうだった」
「打ち合わせの方は、事情を話したらずらせそうな気もしますが…まあ、午前のほうが無難でしょう」
「だね。それで言っとく。セリスの予定は?」
「選別がよおおおおおおおおおやく終わったので、これからいくつか裏とりです。その後リスト渡して乗り気のものだけピックアップしてもらって、そこからスケジューリングですよ。来週いっぱいはどうせなんにも動けません」
「あーよかった。それならなんとかなるわ。ちなみにハタさんの手はどれくらい埋まってる?」
「一周回って空いてます。あなた達の解説がないと進まないところで全て詰まったので」
「よし、初心者動画をとるから編集してもらおう」
「あ"あ"?」
ドリアン、声がトラみたいだよ。
「いや大真面目に、セリスがギルドのことなんも知らなくて、まじでイチから説明必要なんだ」
「…………ああ、なるほど」
「どうせなら説明風景撮って、それを丸投げして編集してもらおうかなって」
「それならハタさんだけでいけますね。よかった何言い出すかと思いました」
「俺の信用の無さよ……」
「普段の言動の賜物ですね」
「解説は誰が?」
「グライドに頼んだ。カメラはドリアンの手が空いてなければびっくり箱に頼む」
「私でいけると思いますが、まあびっくり箱ならそっちでも大丈夫でしょう」
なんとかなりそうな気配を感じで、ほっと息を吐く。
綱渡りな予定だが、ギリいけそうだ。
「彼女は」
ロイドがポツリと言った。
「2時間、連続で戦闘ができるのか…」
「…………やっぱ、そこだよな」
「ああ、それは大分、話が変わる」
完全没入VRでの、標準的な連続戦闘可能時間は20分と言われている。
EFOのボスは標準討伐時間が10分で設計されているし、20分かかるボスでは間に明確なインターバルが挟まる。
ロイドも30分を超えると急激に集中が落ちる。俺ですらガチの鍔迫り合いは1時間が限界だ。
2時間というのは正しくトラ並になる。
明日疲労度合いの確認はするが、もともと周回チームが欲しがるかもとは思っていたけど、本気でサポートチームにも引きずられていく可能性が出てきた。
素材採取に何よりも必要なのが、この継戦能力だからだ。
彼女がいれば2時間連続で中級戦ができる可能性がある。
「その件もびっくり箱に伝えて、サポートチーム抑えてもらわないと」
「本人がいいならごくたまになら付き合ってもらってもいいが、毎回やらされるとストレスがな……」
ほどほどの敵に2時間無限アタック、結構正気じゃないからな……。
周回チームはガチ編成だからどのみち他メンバーに連戦限界があるけど、サポートチームは後ろをまるっと入れ替えることができるから、タンクさえ連戦できるならどこまでも行けてしまう。
彼女をタンクに置けば、2時間素材狩り放題。狂喜乱舞するチームメンバーの顔が浮かんで、ちょっとばかりげんなりした。
「一旦、こんなところですか」
「ああ、うん。後で一応セリスの出演依頼リストは俺にも共有して」
「共有ディレクトリに入れてあります。見ておいてください」
「さんきゅー」
「さて、じゃあリーダー」
ドリアンがワントーン低い声でこちらを見据えた。
「セリスと何があった」




