11-2.ギルドを歩こう
何かいつもとうんと違うことがしたかった。
なので、大会のアーカイブを見た時に「これ、根本的には避けアサシンと同じなのでは?」と思いついていた、ファイターをやってみた。
そもそもジャストガードが苦手とか、武器が貧弱で敵が倒せないとかの問題はあったけれど、やってみたら意外と楽しく遊べた。
楽しくてつい撮影でぺらぺらと喋ってしまって、周りがしんと静まっていることに気付いたときには血の気が引いたけれど――そこからは話が思ってもいなかった方向に全力で駆け出してしまって、自分でも全くついていけていない。
え、武器チェンファイター解説ってなに?職安企画って何するの?トラキチさんが来るって何で……?
「よし、午後からの予定は一旦頭から放りだして、とりあえずギルド案内するね!」
土曜日午前10時。ギルドハウスには朝から沢山人が来ていた。
案内を買ってくれたのはリーダーさん。今日はロイドさんやドリアンさんはいないようだ。
「はいちゅーもーく!動画でも紹介したけど、新しく入ったセリスだ!仲良くしろよー!」
「よ、よろしくおねがいしますっ!」
わーっと拍手が上がって、みなさんが思い思いに挨拶してくださいます。
…………はい。全然名前がわかりません。
動画によく出る人は流石にわかるんだけど、サポートメンバーとかになるともうさっぱり。
当面は頭の上を見ながらの会話になりそうです。
「うちはあんまり役割分担は細かくわけてないんだけど、大きく最前線攻略を目指すグループ、周回効率化やレアドロップを目指して周回するタイプのグループ、素材集めや生産をやってるサポートグループがある。完全には切り分けてないから、ヒーラーのニャオ姉やボタニカなんかは最前線にも周回にもいるね」
「なるほど」
「セリスが知ってるのは最前線グループ系かな。君の所属については、正直、運用してみないとわからないところが大きくて、ここの配置になるっていうのは確定はできない」
「まあ、なんかこう、自分で言うのもなんですが他に類似のいないプレイスタイルですもんね」
「というか、本気で武器チェンジファイターができるなら争奪戦になる……ポジション固めないほうがいいかもしれない……」
「へ?えーと、トラキチさんは最前線グループでしょうか?」
「あー、トラと、旧トラ小屋メンバーは、別枠で固まってる感じ?最前線攻略する時にタイミングが合えば一緒にやるけど、そうでないなら普段何してんのか俺も知らない。ハムさんもだけど、トラ小屋メンバーはサザンクロスには未加入も多いし」
「それ、良いんですね……」
「事前に呼んどけば来るしね。セリスも用事があったら適当にギルチャで送っとけばなんか都合つけてくれるよ」
「あ、いえ私からの用事は全然ないんですけども」
「……よんでねーのに来るしな」
「トラ君が"迎えに行く"、なんて初めてだよにゃ~」
ひょっこり顔を出したのは猫の獣人さん。この人は知っている。――メインヒーラーの、ニャオニャオさんだ。
「はっじめましてセリスちゃん!」
「あ、は、はい。ニャオニャオさん、ですよね。よろしくお願いします」
「うーんかたい!ニャオ姉でいいよ!みんなそう呼んでるし」
「にゃお、ねえ、さん?」
「お、そのちょっと初々しい感じは得点たかいにゃ!」
何の得点だろう……。
「ニャオ姉は今日はいるの?」
「いや午前はもう落ちる~。午後なんだけど……セリスちゃん、トラ君のやつ、わたしもご一緒していいかにゃ?」
「え?えと…たぶんファイターの練習するだけなので、ビショップの方にご一緒してもらう必要はないのですけど…」
「いや、来てもらおう。俺も行くから」
「リー君行くのか~、わたしいらなかったかにゃ?」
「今日、ロイドいないんだ、ニャオ姉がいたほうが良い」
え……え?あんまり真面目にやる気のなかったファイターを無理やりやらされるだけではないので?
「セリスちゃん、もしかしてアレ知らない感じ?」
「あー……多分そう。セリスがゲーム始めた時期は、もう全部終わってたから…」
「え……え?」
「うーん、知らないなら知らないほうが幸せよね?」
「まあ……そう……」
「え、なにそれ怖いのですけども?」
「よしっ!知らなくて良い!」
「いやちょっと待って下さい!?そこまで言って言わないのはナシでお願いしていいですか!?」
――――はい、懇願の末に顛末を聞きました。
え、これもしかして午後はトップファイター様による新人イビリだったりしますか?
「まあ、ええと、ウチに来てからは一度もやってないから、多分普通にファイター教えるつもり……なんじゃないかと……」
「あ、よかったです……」
「ただ、ここ丸一年以上教える方も一度もやってるとこ見たことないから、何が起こるのか全く分からないのにゃ」
「あ……え?」
「というわけで、いざという時のストッパーで行こうと思うんだけど、ご一緒して良い?」
「……ハイ、ヨロシクオネガイシマス」
「あ、あとこれをプレゼントにゃ」
プレイヤー ニャオニャオ よりフレンド申請が届きました。
フレンド申請を受理しました。
詳細はフレンド一覧よりご確認ください。
「ふふふん、噂のセリスちゃんのフレンドコード!レア物ゲットだにゃ!」
「あ、あー、まあ、確かにレアかもしれないです?」
「セリス実際、何人フレンドいるの?」
「え、えーと大会で少し増えたので……ニャオ、姉さん?入れて9人です」
リーダーさん、ロイドさん、シアさん、ニンカさん、大会で登録したアルマジロ先生と、ブレイザー先輩、それからボンレスハムさん、あとはドリアンさん。そして今もらったニャオニャオさんだ。
「MMORPGとは……」
「わたしのルームはフレンドには解放してあるから、いつでもどうぞ〜」
「るーむ?」
「そうか、そこもか」
「サザンクロスに希望してじゃなくて、招いて来てもらった人って最近いなかったからにゃ……ギルドのシステムも最近変わったし、また動画とる?」
「それがいいな」
「す、すみません……」
何やら知識不足でお手間を取らせてしまっている感が……。
「いや、初心者向けの動画は最近作ってなかったから、このタイミングで初心者向け解説を刷新しよう」
「ドリアンに聞かないで決めちゃって大丈夫〜?」
「大丈夫大丈夫。……多分」
リーダーさんがそう言ってなにかウィンドウを操作して……
「ごめんやっぱ怒られるかも」
「wwwww」
「セリスの予定がつかないww」
「え?私の予定なんていくらでもつきますけど?」
「あ、あー……ええと、実は……」
「?はい」
「セリスの出演依頼や共闘依頼で、ドリアンのメッセがパンクして、今日ロイドと二人がかりで捌いてる……」
「――――は?」
ニャオニャオさんが後ろで爆笑しているが、笑い事じゃない。
え、そんなことあります?
「ああもちろん、最終決定権はセリスにあるから。ただ、依頼数が100を超えてるから、ウチの動画にばっかり出てもらうのもね」
ひゃく……100!?!?
「え!?ひゃくって数字の100ですか!?」
「数字の100ですねー」
「いや……え?え?」
「セリス個人で受け付けなくて良かったよ」
「いや……まぁ、そしたら完全にすべてを無視する事になってましたね」
「まー個人プレイヤーの共闘依頼が大半だし、企画内容とか確認して振り分けるから、最終的には結構減るんじゃないかな?そこからやりたいのをセリスが選ぶ感じになるね」
なるほどなるほど。全く現実感がない。
うーん、でもな。いや他の動画に出るのが嫌ってわけでは、もちろんないのですけども。現実味はないし、緊張はしますけど。
――――すぅ。
「それでも、サザンクロスを優先したいです。私、ここのギルドに入りたかったので」
「ん、分かった、ありがとう」
「それなら早く入ればよかったのににゃ〜」
「あーえーと、それはまあ、それということで……」
「これから一緒に遊んでね?」
「はい、よろしくお願いします」
「うーん……まだかたいにゃ。でもま、追々かな」
ニャオニャオさんはそう言って私の頭をぽんぽんと叩いて、ログアウトしていった。
「で、ごめんなんだけどそのレベルで初心者を相手にすることがほとんどなくて……あんまりこっちの準備ができてない……」
「あ、いえ、大丈夫です。こちらこそすみません」
「この手の説明はグライドが上手いんだ。明日あいつ交えて説明の時間取るよ。今日は最低限の設備説明を先にするね」
リーダーさんはそう言って、またギルドの中を歩き出した。