2-4.ソロ遊び人とサザンクロス
PvPが承認されました。フィールドが展開されます。
戦闘タイプは「ガチ戦100%」です。
フィールド外への転移が禁止されました。
回復アイテムの使用が禁止されました。
アナウンス終了直後にフィールド外周をダッシュで回る。
チャージタイムが終わったらしい魔法スキルが飛んでくる。
ねえ知ってた?このスキルはね。特殊エリア以外の全ての場所で使用できるんだよ。
ぶっ壊れ要素そのイチ!エリアの設置はその場所を踏めばOK!
ぶっ壊れ要素そのニ!チャージタイム0.2秒!
ぶっ壊れ要素そのサン!戦闘フィールドは通常エリア扱い!
「神出鬼没!」
私の体が揺らめいて消える。さっき回った外周の反対側に現れてーの!
「カードスロー!」
背後からカードを投げ込む。っち、さすがのトッププレイヤー。かすっただけか。いやカスッたのかな?多分カスッたよな?HP減ったように見えないんだけど……。
私はまた外周をダッシュする。
ぶっ壊れ要素そのヨン!クールタイムは驚きの5秒!
5秒走ったら神出鬼没、攻撃をしてまた走る!
一人で攻撃連打できない敵なんてのはね、遊び人の的なんですよ!!!
……の、はずなんだけどなぁ!?
なんなんあいつ、未来視能力でも持ってらっしゃる!?!?
何度目かの神出鬼没をピタリと当てられ、出た瞬間私に向かってきた炎の矢が頬をかすめる。
一次職のファイヤーアローだ。
さっきから大技が飛んでこない。
チャージタイムが長い技を避けているということは、私が「いつ」神出鬼没するかは分からない、ということだ。
だけど「どこに」飛ぶかはだいたい分かっている、と。
化け物かよ。神出鬼没は感知不可能転移なんだが?転移マーカーに色とかも付かないんだけど????
巨大ボス相手用のとっておきを使うか。
相手が私の動きに慣れてきた今が、多分一番いい。
見晒せ最強、これがビックリ趣味職、遊び人だ。
「イカサマダイス!」
私の掛け声に合わせて頭上にサイコロが転がるエフェクトが現れる。
「遊び人といえばそれだよな。まあいい。そろそろこちらからも行かせてもらおう」
――――メテオバレット
ロイドの頭上に4つの火の玉が浮き上がった。ロイドが手を振り下ろすと火の玉は次々と私に向かって飛んでくる。
始めはゆっくりだがどんどん加速して最終的には信じられないほどの速度で向かってきた。
「ジャンプブーストー!!」
横に飛んで一つ、そのままの勢いで着地後前転してまた一つ避ける。前転後のタイミングで飛んできた火の玉に、
「魔法の鏡!」
実体と虚像を入れ替えるスキルで回避。
「そりゃーー」
最後の一つを体をよじって回避しようとしてわずかにかすってしまう。それだけでHPの3割が持っていかれた。さすが最上位プレイヤー。火力も速度も桁外れだ。
――でも生き残った。今日だけは負けられない!
「回避率は50%持ってないようだな。ではこれでどうだ」
――――アイスエグゼキューション
私の体の周りを全方位取り囲むように氷の針が生成された。ロイドが手を振り下すのに合わせて全ての針が一斉に私に襲い掛かる。絶体絶命に思えるが、回避しながらロイドをそこに誘導したのは私だ。
「そこはもう踏んでる!神出鬼没!」
遊び人のみに許された転移スキルによってロイドの真横に転移。
「瞬きの変化!」
さらに装備をイベント短剣<竜神の短水晶>に変換。そして足元に叩きつけた。
この<竜神の短水晶>はストーリーイベントを進めることで入手でき、これを割ることで何度でも回想イベントが始まりイベント案内のウインドウが表示される。
そして友人同士で遊ぶために、半径50cm以内のプレイヤーにも同時に招待ウインドウが表示される。
街中やコロシアムではこの機能は無効化されているが、ここは通常フィールド。とっさにウインドウを閉じるのに2秒はかかるだろう。
あまりにずるい手だがレベル差があるので許してほしい。
なんならストーリームービーをゆっくり見ていてくれても構わないんですよ。
私は構えていた動作で素早くイベントウインドウを閉じ、遊び人の必殺スキルを準備する。
「これが遊び人随一の必殺技。百発百中!貴方に特別な賞品を!」
この技は4割の成功判定で相手に爆発ダメージを与えるプレゼントを投げつける技で、いくつもの爆発をまとめてぶつければ連鎖ボーナスでとんでもないダメージを叩き出せる。その代わり6割で失敗判定となり投げる瞬間に自爆する。
4割成功、つまり5割以上の命中判定を偏らせるの効果外とかいうクソ技だ。
どうしようもないので命中率を10%上げる百発百中も併用する。
百発百中なのに10%しか上がらないのかよってよく言われるけど、命中率の表記のないスキルの命中率が90%なので、普通なら100%になるんだよ。
イカサマダイスの効果が乗って最初5発はすべて成功判定となる。
可愛らしい装飾のプレゼント箱をロイドに投げつける。ドッカンバッコンと5つのプレゼントから凄まじい音がして、爆発の連鎖で派手な爆風エフェクトが吹き荒れた。
「やった!」
つい歓喜の声を上げてしまうが、爆炎の中から人影が現れる。
「イベントウインドウとは本当にやってくれたが、まだだ」
現れたロイドのHPゲージは残り2割。いや、え、まじ、メイジ系プレイヤーって、あれ耐えられるんだ……。
「イカサマダイスも残りはデメリット効果だけだろう?降参するなら今なら聞いてやる」
「くっ……」
これが最上位プレイヤーか。あまりにも硬すぎる。それでも……。
「残り2割削り切れば勝てる!まだ諦められない!」
「そうか。ではこちらも本気で行こう」
――――トリプルキャスト メテオバレット フロストバレット サンダーバレット
ロイドの頭上に計12個の魔法の弾が浮かび上がった。
あまりの理不尽に笑いが出てきた。一発カス当たりですらHP3割持っていかれたというのに。でも逆に緊張感が抜けたかもしれない。
「行きます!」
ロイドが手を振り下ろすと魔法の弾が次々と降り注ぐ。
さっきと違って1度に2,3個まとめて回避先をつぶすように襲い掛かってくる。
「自爆ブースト!」
イカサマダイスのデメリットで貴方に特別な賞品をの効果はすべて自爆。この自爆のタイミングにジャンプブーストを重ねることで爆風に乗って高速回避することができる。
もちろんHPはゴリゴリ削れるが、どうせ魔法の弾が一つでも直撃したらHP0なので、実質タダみたいなものだ。そういうことにしておこう。
通常の移動速度だったらそこにいただろう場所に、正確に魔法の玉が飛び込んでくる。それを連続自爆により通常ではありえない速度で回避する。
が、2回3回繰り返すともう徐々に対応されてきた。どんどん回避が難しくなっていく。
「右!後ろ!」
ギリギリで回避を重ね自爆ブーストの残数が2になったところで、ついにあの技のクールタイムが終わる。
回避できないような位置に迫る魔法の弾に両手で爆弾をぶち込み、魔法の鏡で自爆ダメージを透かす。
頭の上で踊っていたサイコロのエフェクトが霧散して消えた。さあ行くぞ。
「神出鬼没!」
自爆エフェクトを目くらましにロイドの真後ろに転移。くらえ、最後のおおわz
「残念だがそれは警戒している」
――――ポイズンチェーンバインド
ロイドがこちらを見もせずに真後ろに手を伸ばす。展開したまがまがしい紫のエフェクトをまとった鎖が、私をからめとった。
いや本当に、どうやって転移場所分かってるんだろうな。クールタイムのタイミングも完全にバレてるのは趣味職のスキル内容も知識として知っているのか、それとも私の行動から読んでるのか。それにしても四弾魔法3つ展開しててさらに別の魔法のチャージ溜められるんだなぁ。
これが最上位プレイヤーか……。
毒の鎖がじわじわと残り少ない私のHPを削り取る。
残念だな。もう一技当てるつもりだったのに。これはもうこれをするしかないじゃない。
「あはは。強すぎじゃないですか。健闘したつもりだけど、二割でしか勝てなかった」
「なにを…」
気づけばロイドの足元の地面から、丸いカサのようなものが頭を出していた。
「きのこ!?」
「種も球根もありません!」
人呼んでポンコツきのこ。人が呼ぶほど使われてねえだろって?いいんだよ私が呼んでるんだから。一応先ほどのプレゼント爆撃を除けば遊び人のスキルの中で最高の単発火力を誇る、事前設置型爆発スキルだ。ただし成功判定は2割。
捕縛系魔法はとても強いけどデメリットも強いって聞きましたよ。
解除するまで、使用場所から動けないんでしょ?
足元でキノコが膨れて膨れて光を増す。そして――――。
ポンッと小さい煙を立てて、消えてしまった。




