1-1.ソロアサシンはトップランカーに呼び出される
2025/01/17 改稿
子供くらい、翼を広げれば大人と同じくらいの大きさになる巨大な鳥の群れが目の前に迫ってくる。
「ポイズンショートソード」
翼を左にくぐり抜け、抜け際に短剣で切りつけた。呟いたスキル名に呼応して短剣から泡立つような紫のエフェクトが尾を引き、巨大な鳥、ビートリッチにその光がまとわりつく。
周囲にいるビートリッチも同じ様に突き攻撃をしてきて、今度はジャンプブーストで上に避ける。
先程まで私のいた場所に向けて短剣を振るうと、そこにも紫の光が翻った。
次々と攻撃してくるビートリッチの嘴を躱しながら短剣をすべらせていく。
程なくして最初のビートリッチが光の泡になって消えた。
少しずつ順に倒れていく巨鳥。その最後の一体が泡になったのを確認し、クエスト画面を開く。
メイズフォレストのビートリッチ討伐 10/30
――――やっぱり高レベルモンスターは時間がかかるなぁ。
左腕の小さな盾の位置を調整しながら思った。
フルダイヴMMORPG、エリシオンファンタジーオンライン。このゲームで、私は長らくソロプレイをやっている。
他の人と話すのが苦手……ありていな言い方をすればコミュ障気味で、誰かとパーティを組むというか、誰かに話しかけることがひどく苦手だ。
パーティ募集広場で良さそうな募集を見かけては、なんて声をかけようかと思っているうちに募集が埋まってしまう。他の人が早いのではなく自分が遅いのだということは理解しているけど、それでもみんな早くないだろうか。それが普通なの?普通って何?
リア友をゲームに誘えばどうかとも思うが、まずリアルで友達を作るところからなので非常にハードルが高かった。
だから、メイン職でアサシンを選んだのは多分失敗だったんだろうなと思っている。
エリシオンファンタジーオンライン、EFOでは、アサシンという職業は敏捷・クリティカル率が高く、状態異常などの搦手技が沢山使えるけれど、代わりに耐久は控えめに言って紙で、魔法が使えない。
普通はアサシンと言えば両手短剣で手数を稼いでクリティカルを狙う。低レベル帯なら固定ダメージ毒を使う人もいるけれど、中級以上ではクリティカル構成にするのが一般的らしい。
味方に壁役をやってもらって敵を受けてもらうことで紙防御力を解消して、敵の背後からバックアタックボーナスとクリティカルボーナスを狙って攻撃する。
つまり、ソロ向けじゃないのだ。
始める前に何となく眺めていた攻略サイトに「最近のおすすめはアサシン」と書いてあったのを真に受けてよく調べもせずにキャラを作ってしまったのだけど、アサシンはパーティプレイのおすすめ職だった。
当時はアサシンが輝くボスが登場したばかりで、EFOではクリティカルが非常に強力なのも相まって確かにパーティ募集にはアサシン募集が異常に多かった。
ま、どこにも入れなかったんですけどね。
ソロプレイのためには敵の攻撃を自力でなんとかしなければいけない。
紙装甲で回復魔法も防御アップバフも使えないアサシンソロとかいう縛りプレイ状態の私が試行錯誤の末に取った戦略は、他のプレイヤーとは大分違ったスタイルだった。
ビートリッチはメイズフォレスト内に5匹の群れで生息している。
遠目にビートリッチを確認して、左手首の盾を確認し、短剣を握り直す。
イカサマダイスの判定はまだ消費していない。
よし、行こう。
飛び出した私に気づいたビートリッチが、勢いよく嘴攻撃を仕掛けてきた。
先ほどと同じ動きで左に抜けて切りつける。短剣からまた紫のエフェクトが光った。
次々に来る攻撃を踊るように躱しながら、こちらからも短剣を切りつけていく。
このゲームには――あまり他のゲームに詳しくないのだけど、多分色々なゲームにあるのだろうシステムとして――武器や防具に追加効果をつけるエンチャントという仕組みがある。
私の短剣には毒付与のエンチャントがされていて、さらにアサシンの毒効果アップスキルを併用することで、短剣自体の威力が低くても毒ダメージでHPを削ることが出来た。
毒が入ったことを示す紫のエフェクトがビートリッチの周りで明滅する。
2体が毒で倒れ、残りの3体にも毒で少なくないダメージが蓄積したころに、3体が連携攻撃を放ってきた。
風属性を纏った突撃はこれまでとは比べ物にならないほど素早くて、バックステップで避けたにも関わらず射程外に逃れ損ね、脇腹を嘴がかすった。
「あー、また全回避失敗」
私の視界の上、本来はダメージが表示されるはずの場所に MISS の文字が踊る。
ビートリッチ達は通り過ぎた先でHPがなくなったのか、光になって消えた。
VRゲームには2種類の回避方法が存在する。
1つ目は手動回避、あるいは単純に回避と呼ばれる、プレイヤー動作で攻撃の判定外に逃れるものだ。「当たらなければどうということはない」というやつである。
2つ目は俗に判定回避と呼ばれる、装備についている回避率によって当たったことを「なかったことにする」回避だ。
防具はセットボーナスで回避率の上がる装備を。盾は防御効果はほぼないけれどエンチャントが沢山できるというギミックダンジョン御用達盾を。
その全てに回避率の上がるエンチャントを上限まで乗せた。
この防具は回避率が上がる代わりに防御率が下がるというピーキー装備で、自分以外に着ている人を見たことがない。
盾も一般的には雷耐性とかをガン積みしてギミックダンジョンの踏破に使うものらしい。
そしてもう一つの要素がサブ職業。これはサブに設定した職業の初期スキルの一つが使えるというものだ。
趣味職業と名高い遊び人を選んだ。攻略サイトやBBSを調べてみたことがあるけれど、アサシン・遊び人の組み合わせをしているプレイヤーはもしかしたら私だけかもしれない、なんてことを少し思っている。いや流石に何十万人もいるプレイヤーで私一人ということはないだろうけれど、有名なプレイヤーにはいなさそうだった。
遊び人の初期スキル「イカサマダイス」は50%以上の回避・命中判定の前半をすべて成功に、後半をすべて失敗に結果を偏らせるスキルだ。
盾と防具に回避をガン積みして回避率を70%まで積んだ私は、「イカサマダイスLv10」を使うことで、敵の攻撃を7回まで回避できる。その後の3回はどんなに相手の命中が低い攻撃でも必ず当たる。――このイカサマダイスも、普通は命中率の低い高火力技を何らかの方法で命中50%まで持っていって、ボス相手に最初の5発を連続で入れる、みたいな使い方をするらしい。
この完全回避と練習による手動回避の組み合わせで時間を稼ぎながら毒で相手を倒すというのが、私が確立した戦闘スタイルだった。
自分でも頭悪い戦法だなとは思いつつ、ストーリーも進められているしレベル上げだってできているし、完全に詰むまではいいかなとそのままだ。
戦闘時間がどうしても長くなってしまうのと、上級系ボスの大半が毒耐性で攻略できないことが問題ではあるのだけど、クリティカル構成にすると被弾率が上がるので安定しないんだよね……。
ぴろん♪
余計なことを考えながら敵を倒していたら、メッセージの着信音が鳴った。ゲーム内にフレンドもいないのでほとんど聞いたことのない音に驚き完全回避の回数を1消費した。
慌てて安全地帯に移動しメッセージを確認する。運営からの緊急通知か?と思ったら、なんと他のプレイヤーだった。
「…………リーダー、さん?」
差出人名は「リーダー」。聞いたことがあるようなないような…?
いやしかしゲーム内で誰とも遊んだことはないので、知らない人であることは確定だ。もしかしたら公式発表とかで見ている名前なのかもしれない。
メッセージにはボス討伐に力を貸してほしい。詳しい話をするのですぐに来れそうだったらフィールド「新緑の宮殿」に来てほしい。と書かれている。報酬も弾むと。
……
…………
…………………………
どうしよう……。
パーティなんて組んだことないし、私が力になれるとも思えないし、なんで私のこと知っているのかわからないし不安だし……。
というか私のプレイスタイルを知っていて誘ったとしたらいっそ正気を疑うレベルなんだけど。これってもしかしてランダムメッセージだったりするんだろうか。
でもちょうど武器は新調したいし、ボスなんて一人では倒せないし、ボスドロップは高く売れるし、ボスドロの短剣とかもらえたらラッキーだし……。
パーティ行動、というのも、興味がないと言ったら大嘘ではあるし……。
しばらく悩み、結局新緑の宮殿に向かうことにした。
一応すぐに逃げられるようにワープアイテムをショートカットには入れて。
フィールド「新緑の宮殿」は、宮殿周囲と宮殿内の2ダンジョンがあり、宮殿目の前の噴水広場は安全地帯になっている。
たどり着くと入口近くの噴水のところに赤いマントを羽織ったソードマン風の男の人と、中性的な外観の機械人の二人が待っていた。
見たことがあるような気がするのだけど、どこで見たのかが思い出せない。
ソードマンの方が私に気づいて、やあと手を挙げる。
「来てくれてありがとー! 俺がメッセージを送ったリーダー、よろしく」
機械人の方も軽く会釈をしながら挨拶する。
「どうも。ロイドという。よろしく頼む」
「は、は、は、はじめまして! こ、こ、今回はどのボスを狙うのでしょうか?私は毒攻撃しか出来ないので毒が効くボスじゃないとお役に立てないと思うのですがよろ……」
慌てて早口になる私にリーダーがまーまー落ち着いて、と笑う。
「とりあえず俺らの話を聞いてもらってよ。返事はそれからでいいからさ」
リーダーはロイドに目を向けながら言う。
「まずは俺らの詳しい紹介をしようか」
まず、と前置きしてリーダーは言う。
「俺らはサザンクロスっていうギルド名で活動してるんだ。このゲームではちょっとした有名人なんだけど聞いたことない?」
「さざん、くろす……」
いや聞いたことあるとかないとか、っていうか、公式発表の常連じゃないですか。
新ボスの初回クリアとか、イベントの上位発表とかにほぼ必ず名前があるギルドだ。
言うなればこのゲームのトップランカー集団である。
そりゃあ名前に見覚えがあるはずだよ!この間の大会で2位だった人たちだよ!先月の公式配信に出てたよ!何なら攻略動画もたまに見てるよ……なんで気付かなかったかな……。
「え?え、え?本物?」
そっくりさんとか偽物さんとかじゃなくて、本物?本当に?
ロイドがその様子を見ながらクックッと笑いながら言う。
「こいつがサザンクロスのリーダー、名前もそのままリーダーだ」
「いいじゃん、わかりやすいし間違えないし!」
いや、他のギルドのトップが反応しちゃうと思うから、よくはないと思う……。確かこのゲームのギルドのトップ名称はギルドリーダーだったはずだ。
そういうプレイヤー名を付けられるようにしてる運営が悪いと言えばそうなんだけども。
「ま、トップランカーギルドのリーダーとか言っても、実態はただのお坊ちゃんの廃プレイヤーだ」
「ちょっとすぐそういうこと言うのやめて欲しいんですけどー?俺はゲームは自分の金でやってますぅ~仕事してますぅ~配信者ですぅ~~」
「はいはい。で、役割としてはリーダーがソードマンで剣を持って突っ込んで物理攻撃。俺がブラックマジシャンで魔法による支援と攻撃という感じでいつもやっている。レベルは二人ともカンストの200だ」
「200! ま、まあそうですよね。あの、私まだ170なのですが……」
「あれ、もうちょっと高いと思ってた。180あたりじゃないの?この間ビッグノーム狩ってたよね?」
「あ、適正狩場は、その……」
「170くらいだと、深淵の毒沼か、ローム古神殿のあたりの方がいいんじゃないか?」
「えと、どっちも、毒蛾とゴーレムで、毒無効、なんです……」
「それで毒の効くビッグノームかー。20も高レベル帯なのによくやるね」
「いえ、ビッグノームは攻撃が連続攻撃だったので回避判定回数が多くて……今日はメイズフォレストでビートリッチ狩りをやってました」
「ビートリッチって190レベルだけど」
「はい……で、でも、私のプレイスタイルだと単発高火力型の相手の方がやりやすくって」
リーダーは「なるほどねー」と言って、ロイドとうんうんと頷きあった。
やっぱり、30レベル差は大きすぎるよね。毒が効きやすい敵とかなんだろうか。でも超高レベルボスにそんなのいたかな。
「実は、一緒に挑戦したい敵は、荒れ狂う神の荒野の新ボス、魔神ラフェルなんだ」
「……はい?」
「あれ、アップデート情報とかあんま見ない人ー?」
「い、いえざっとは見てますけど、魔神ラフェルって……」
「新規追加のボスだよ」
「いえそうじゃなくて……あの、魔神ラフェルですよね?まだ未攻略の」
「そうそう!攻略第一号目指してるんだけど、今の所ウン10連敗中でさー」
「あ、あの、全属性と、全状態異常耐性で、このアップデートで新規追加のクリティカル無効属性を搭載って」
「お、よく知ってる!」
「い、いや、ちょっとまって!だって、その……そんなの……」
ぐるぐると目を回す。
そりゃあ運良くトップランカーが毒有効ボスの共同討伐なんて言ってくるとは思ってはなかったですけども。
それでもそりゃないでしょう!?
「そんなの、ムリです!」
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