9. 突飛
前の話いじるのはご愛嬌
「さすがに自分の葬式を見れば死んだ自覚が出るってもんで、葬式から戻ってきた魂はよく乾いてるよ」
「なるほど」
「お前の葬式は多分、明日明後日でちゃちゃっとやるだろう。大した準備もいらないし、霊安室に置いといてもな」
あまり腹が立たなかったので、自分の肉体に愛着はなかったのだと虹太は気づいた。
「せっかくの幽霊デビューなのに、あまり盛り上がらないのは残念です。いたずらとかできないんですか?」
「出来ないことはないが、おすすめしないな。魂が無くなっちまうよ」
「無くなると、どうなるんですか?」
「さあな、経験が無いから分からん。ただ・・・」
鶴橋は視線を落とした。ぼやけた地面に誰かを思い描いているのか。
「現世に未練があって幽霊のまま残り続けようとするやつは、どんどん魂がぼやけてくる。
それに合わせて、生きてる連中は死んだそいつのことを忘れていくんだ。
魂が消えるころには、綺麗さっぱり忘れられるのかもしれない」
「報われませんね」
「結局のところ、あの世の沙汰はこの世次第ってことさ。
この世の連中がどう"想って"いるかで、死んだやつの魂の色んなことが決まってくる。
報われないというか、死んで初めて報いを受けてるんだろう」
虹太は自分の手を見た。今も自分を想っている人は、現世にどれくらいいるのだろうか。
「とりあえず葬式ですね。いつ始まるんだろう」
「現世を見てみようか。スマホを想像しろ」
流石に笑うところだと、虹太は思った。