表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりよがり  作者: いそじん
死んでも
7/44

7. 椅子

「お前、どうやって死んだ?」

「病院いって、宣告を受けて、彼女と別れたので、即死コースを選びました」

「よく分からんが、死んだことは自覚できてるみたいだな」


自分が死んだと分かっていない魂は、川から上がったように濡れている。

たとえ自殺者であっても、自身が死ぬ瞬間をはっきりと確認できないためか、少し濡れている。

なので、最初からはっきりと乾いていた虹太は珍しい、というようなことを男は言った。


「魂だけになったら、何すればいいんですか?」

「目指すものは特にないぞ。腹も減らないし眠くもない。ただただ時間が過ぎるのさ。永遠にってわけじゃないけどな。ま、話せば長くなるから、ちょっと座ろう。椅子を想像しろ。何でもいい」

「椅子?」


少し下に目をやると、ぼんやりした椅子が見えてきた。よくみると、麗子の部屋にある椅子だと分かった。


「ずいぶんファンシーな椅子だな」


男は、重厚なデザインのロッキングチェアに座っていた。いつのまにかガウンを羽織っている。


「面白いだろ?現世の記憶をここで再現できるんだ」

「その椅子、もう一個想像してくださいよ」

「残念だが、自分の記憶のものは自分でしか使えない」


男は得意げに座って揺れてみせた。すると大きな音を立てて椅子が倒壊した。

盛大に転げ落ちた男は、頭を押さえながら椅子の残骸から這い出てきた。


「大丈夫ですか?」

「くそっ、実はな、この椅子は壊れてるんだ。気に入ってたんだがな」


壊れる前の記憶で、なんとか再現できていたらしい。

虹太はなんとなく麗子のことを思い出した。


「でも、いいですね。好きだったものといつでも会えるんですから」

「まあ、そうかもな。あの椅子がぶっ壊れて、俺は死んだんだ」


虹太は、男の名前より先に死因を知った。

もう視点がふわふわだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ